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正解の”タイミング” プレミアリーグイースト FC東京U-18 - 浦和Y

我らがFC東京U-18が誇るホーム、深川グランドはかなり独特な会場になってきた気がする。

東京ガス系列によって酷使され続ける天然芝グラウンドは、養生の期間もまともに取れず、開幕月にして既にボコボコ。そもそもピッチはかまぼこ状に見た目ハッキリと曲がっていたりもするくらいだ。フラットな人工芝ピッチに慣れきった軟弱エリートフットボーラーは、技術でこのピッチに対応できなければ途端にぼんくらフットボーラーと評価されてしまう。それくらいにプレーに左右されるピッチではある。

そしてそのピッチを取り囲うは、防球ネットでも無骨なコンクリートスタンドでもなく、観客。我がチームを愛し、敵チームの新発見にワクワクした、所詮ユースサッカーを観戦するようなサッカーオタクが、選手と何一つ遮るものがない状態で隣接する。

サッカー専用スタジアムの醍醐味は観客とピッチの近さだとよく言われるが、その点で言うならば、FC東京深川グランドとは日本一選手に近い会場だとも言える。選手が精一杯クリアしたボールは観客のいるところにポカスカ飛んでくるし、選手同士が勢いよくタッチライン外にもつれれば観客が手で抑えて助けなければいけなくもなる。サッカー専用スタジアムが、ボールを蹴る音、選手の息遣いを感じられるのだとすれば、深川グランドではさらに選手の生の感情・言葉、それは例えば味方をいじる声もあるし、相手の監督うるせぇ〜って本音すら、ダイレクトに伝わってしまう。

どうしても僕たちは、その選手の生身の一挙手一投足に微笑んでしまう。分かるよ、君の気持ちはよく分かると、あまりに伝わりすぎてしまう。しかしそれは、逆もまた然りなはずだ。我々の感情だって、良いも悪いも全てが選手に伝わってしまっている、と考えた方が自然だろう。

その様をあえて伝わりづらい表現で例えるならば、海外インディーズプロレス団体で、観客がエプロンサイドをぐるっと囲んでいる様というか。観客にとって聖域であろうリングに直接手で触りバンバン叩いて選手を鼓舞するような。時にはため息に囲まれた事実が試合の大きな要素となってしまうことも。観客が試合の熱気を数段引き上げるし、逆に観客が試合に関わりすぎてしまっているとも言える。

相手チームは非常にやりづらいと思う。味方だってどうだかわからない。またそれが育成年代のサッカーだと考えると、その功罪はあると思う。実はこの件、ずっと考えてきたことでもあるし、毎回葛藤もしてしまう。しかしそれも、プレミアリーグ創設の際に唱えられたJFAの理念に即した状況とも言えなくはない。つまり育成年代のチームであろうと、我が土地のおらがクラブとして応援して欲しいとは、JFAが語ったH&Aの狙いの一つだ。少なくとも許容はされて欲しいと願う。

結局自分は、深川グランドが大好きだ。愛するチームが嬉しいゴールを決めた時の幸福感もまた、減衰されること無く伝わるほどのあの近さを体験してしまったら…ここまでのレベルで、熱気と距離感が共存した観戦体験が出来るところは早々無い。


前日の日差しの強さはそのままに、しかし吹きすさぶ風はヒンヤリと。そんなサッカー日和な気候の中で迎えたFC東京U-18初戦。

FC東京U-18
−−−-18岩田−-19斎藤−−−−
7岩木−−−−−−−−−-13福森
−−−−8山口−−9冷岡−−−−
6村松−-2下川−-5小林−-3吉田
−−−−−−−1谷−−−−−−-

10橋本拳人は元々U-18日本代表としてダラス遠征に参加しているので欠場。しかし元々トップ活動が無い時しか出場させないつもりではいるらしい。3吉田一彦は無事に出場、しかしCB4石原良将がインフルエンザによる欠場で、代わりに2下川陽平が入った。それ以外は先週のTM横河武蔵野Y戦とそのまま。

浦和レッズユース
−−−−−−12高田−−−−−−
11堀田−−−−−−−−−-7鈴木
−−−−14繁田−10矢島−−−−
−−−−−−-6野崎−−−−−−
5佐藤−-3寄持−4小出−-20新井
−−−−−−-1三上−−−−−−

浦和Yの堀監督もそれなりの期間、監督を続けてるかなぁとは思っていたが、07年監督就任以来の今季5年目ともなれば確かに立派な長期政権。06年就任の倉又監督とは実質同期とも言えるだろう。そのおかげもあってか、浦和Yとしての戦い方も随分と内外に定着した感もある。4-1-2-3ベースのショートパスサッカーを例年高いレベルでやり続けられる様になったのは、浦和がクラブとしてアカデミーがしっかりと動いている証だろう。

前半はその浦和サッカーが存分に発揮される展開に。6野崎雅也・14繁田秀斗・10矢島慎也の3枚がセンターに構えるシステムの優位さを存分に活かし、好きなようにギャップでボールを回しまくった。特に6野崎雅也の司令塔ぶりはなかなかサマになる格好で、加えて東京の選手が誰もその野崎を捕まえることをしなかったから、守備陣形はズレにズレた。

具体的に言えば、野崎の位置を誰が見るか?という話。あれをダブルボランチが見ようとして釣り出されれば、空いたバイタルエリアを12高田拓弥が下りてくる形で使い、左SHが見たら、空いた左サイドをSBがオーバーラップをもって数的優位で崩す。相手がぬるい捕まえ方をしてきた際には容赦なくそこを突く、そんなチーム全体としての理解・狙いが浸透しているであろうことは、実際のプレーで、またフリーラン仕掛ける選手が要求する実際の声を聞く限りでも伺えた。前半は浦和が高田の得たPKを自身が直接決め、0-1でHTを迎える。

東京としては、この問題点を何とかしなければいけなかった。

HTに倉又監督は選手に指示。FW19斎藤涼汰に代えてDMF15野沢英之を投入、DMFにいた9冷岡幸輝をFWに上げて、18岩田と縦関係にした。縦関係の後ろに下がる9冷岡が相手アンカーをマークする形で監視するようになった。

この選手を相手に合わせる采配が見事にハマる。司令塔であるアンカーを冷岡に封じられた浦和は、前半ほどに綺麗にボールが回らなくなり、方や東京は野沢英之からの配給のおかげで、他の選手が前を向いて活き良く勝負を仕掛けられるようになった。後半開始10分間で野沢・岩木と立て続けの2得点により逆転、後半ロスタイムには冷岡がダメ押し点も決め、終わってみれば東京が3-1と初戦を完勝した。

これが、この試合で起きたオモテの話。

ここから、さらに深く考えてみる。今回の件、またしても倉又采配ドンズバ!で終わらせていい話ではないのかもしれない。


今回の試合、前半で見られたシステムギャップと、それによる劣勢はある意味、教科書通りとも言える流れだったと思う。アンカーをどう捕まえればいいか?に選手は明らかに戸惑っていたし、他方こうなるであろう事は、システム論的な話があまり出来ない程度な自分でも試合を見てればすぐ分かるくらいに明らかな事だった。加えて言えば、前述のとおり浦和Yのスタイルが堀監督の下で浸透しているが故に周知だった事もある。

もっと言えば、こういった倉又采配は初めてのことではない。以前にも柏U-18や三菱養和相手に、これまで倉又監督はFWを縦関係にし、FWにアンカーを見させる采配で試合をひっくり返してきた経験が何度もある。倉又監督にとって、そして見ている我々にとって、このようなシチュエーションは初めてではなかった。

そうなると、自分が考えるのは、倉又監督はこの展開が事前にある程度予想できてて、策も当然想定してて、しかしあえてそれを選手に伝えなかったのではないだろうか?前半劣勢になろうとも、まず選手にやらせてみたのではないだろうか?と仮説を立てる。

選手がその状況を自分で解決出来ればそれに越したことはないし、もしダメだったとしても、倉又監督がその策を提示することで、その効果を選手はより強烈に実感する事になる。前半からその対策を仕込んで勝ち切るよりかは、いろいろ実戦があった上でHTに教える方がどれだけ効果があるか?

倉又監督がいつだかのインタビューで、ユース年代の監督を続けてみて自身が変わったこととして「前は何でもかんでも言い過ぎてたけど、今はそのタイミングを考えるようになった」とコメントしていたのを思い出す。今回の試合では、その抜群のタイミングが結果以上の学習機会を選手に与えたのではないだろうか?

その意味では、HTで交代することになった19斎藤涼汰こそが、一番今回で得るものが大きかったとも。

確かにこの日の斎藤の出来は良くなかったと思う。チェイシングの質は結果として相手にいいようにやられた。守→攻の切り替え直後に備えた準備を斎藤が細かく出来てなかったことについて、5小林聖弥から試合中に怒られもしていた。45分間という実際のプレー時間から得るものは少なかったかもしれない。

しかし、90分間トータルで考えるとそれは変わってくる。後半45分間、ピッチ外から見た”ピッチ上の変化”に感じること考えることは否が応にも多くあったはずだ。

先ほど挙げた課題の件で言えば、前半は倉又流の中切るチェイシングのみを2トップ両方でやろうとしてしまったが為に、それぞれが相手DF4枚の事しか考えずにチェイスしていた。この単純なチェイスを、浦和としてはアンカーを使うことで簡単にいなすことが出来ていた。そうではなくて、2トップで連携しながら相手アンカーも抑える様な、考えたチェイスをする必要があったことに、後半の流れを実際に見ることで斎藤が(そしてピッチ上の岩田も)気づくことが出来たはず。後者についても、例えサボるにしても「相手が嫌がるサボり方」があるということ、1点モノのカウンターを生み出すサボり方があるということ。考えてサボれていれば、今度は逆にショーヤに対し切り替え直後に俺を狙え!と提示することも出来るかもしれない。

それもこれも、この試合をきっかけに気づくことが出来た。もっと言えば、前半の劣勢と後半の優勢、この流れが無ければ気づくことは無かった。そしてそのためには、試合前から策を授けていては実現しなかった。

ここまで妄想を巡らせてみると、もしかして本当の倉又采配ドンズバは、HTに修正してみせた事自体ではないのかもしれない。加えて言えば、こういった事が出来たのはこの試合がシーズン初戦だったこと、さらにはこの試合が「所詮長期リーグ戦の1/18」だった事が、この決断を後押しさせたのかも、と。


補足的に浦和Yの事にも触れておけば、この展開は浦和Yにとってもいい学習機会だった。

後半はこれまでボールを捌いてた6野崎が封じられたことでボールの回りは悪くなった。現象的なことを言えば、司令塔役が6野崎から2CBの3寄特直人・4小出啓太に移る形になった。つまり後半は、寄特と小出がどれだけボールを捌けるか?が問われた流れになった。野崎にマンマーク気味につく冷岡が怖かったのか、両者はほとんど野崎にボールを渡すことが出来なかった。

この両者が例えば、野崎を飛ばして10矢島14繁田にパスを通せたときには浦和もチャンスになった。また長いボールで両翼にピタリと通しても良かったと思う。さらには冷岡がマークに付いてても”それでも”野崎にパスを出すことだって出来たはず。それぞれの選択肢が出来てたときには、後半でも浦和は決定機を創り上げてきた。しかしそのためには、寄特・小出には通すだけの視野とパス精度とパスを出す度胸、野崎には冷岡を外す動きとタイミングと判断力、矢島と繁田は遠い箇所からでも顔を出すことやもしくは野崎とポジションを入れ替えたりという工夫を提示することも必要だっただろう。

そういう意味では、浦和Yとしてもあのパスサッカーの「その先」があることを、東京の守備によって実感したところがあると思う。


お互いに勝敗以上のものを得られた試合。これを受けて、どこを伸ばし、どこを修正すべきか?幸いにもまだ4月、実践の機会はまだ十分にある。そんなシーズンが始まった。東京も浦和も、その成長が今から楽しみで仕方がない。

と共に、まだシーズンが始められていないチーム・地域のために何が出来るか?を今日も考え、模索し、願う日々も続く。

僕達のシーズンは始まった、しかしまだ、プレミアリーグイーストは始まってはいない。