FC東京が最近、心の拠り所としている文字列こと「+1 Goal(One More Goal)」。いわゆるMIXI主導のFC東京における、目指すフットボールスタイル、もしくはフィロソフィーというヤツらしい。
だが、このワードが示す意味や具体的なものが、これまで何ともよく分からなかった。サッカーはゴールを決めた数によって勝敗が決まるスコア競技。であれば勝つためには、得点を獲り、得点を獲らせないことが重要になる。言ってしまえば競技性として、得点を獲りに行くのは当たり前だ。
その中で表明された、このフィロソフィー。なので、この字面の「あえてな部分」に意図を求めようとするならば、やはり「More」の部分なのかな…と、フィロソフィーが示す具体的な姿を、想像で勝手に埋め合わせてきた。
それがここ最近になって、ようやく分かってきた気がする。
小原GM「今回、経営体制が変わり、フットボールのフィロソフィーを新たに策定し、明文化しました。「One More Goal」。追加点を常に狙う攻撃的なフットボールを目指すということです。」
サッカークリニック「2023年7月号」
川岸社長「(クラブとして)ワンモアゴールと掲げているように、得点を取って、追加点を狙っていくことを、チーム全体で取り組むことが一つのチャレンジだと思っている。」
競技上、勝つためには得点が必須なのは前述の通り。しかし、複数得点である必要は決して無い。スコアが上回っていれば良いのであり、1得点だけでも勝てるのがサッカーだ。
けど、「あえて」。だから「+1 Goal(One More Goal)」なのだと。
そしてその達成度合いを示す指標としては「1試合平均2得点に極めて近づけていく」と。
「過去10年、タイトル(J1優勝チーム)を取ったチームを観ても、一試合平均1.5得点以上、極めて平均2得点に近い結果を残しています。FC東京も、ここを実現できないとタイトルに近づけません。One More GOALを実現し、タイトルを争えるチームになるために、リスタートの1年とします。」
https://www.youtube.com/live/dw4y2fj4-iE?si=ldAiscpPZwLGYOiU&t=481
ようやく理解することができた。ただ、これは出来ればもっと早くに丁寧に説明して欲しかった。いや、私のような一般人なんかとは違う、もっと『大事な人たち』には既にちゃんと説明していたのだろうけど。
川岸社長が過去10年で、というので調べてみると…過去10年のJ1優勝チームの一試合平均得点数は1.96らしい。
確かに19年〜22年の川崎とマリノスが優勝を分け合った時代では、どちらも平均得点数は2を超えており、20年の川崎に至っては驚異の2.59を叩き出している。他方で、直近でJ1リーグを連覇しているヴィッセル神戸の1試合平均得点数は1.76(23年)と1.61(24年)であり、一時期に比べると現代では要求数値は少し落ち着いたとも言えるかもしれない。
ここで併せて、リーグ優勝観点で言うならば、得点数と同じくらいに失点数にも注目しなければならないだろう。
同じく過去10年で見てみると、J1優勝チームの一試合平均失点数は0.92と、1点台を切っている。1点台を切れなかったのは、22年のマリノス(1.03失点)と、19年のマリノス(1.12失点)と、16年の鹿島(1.00失点)。平均得点数に比べて、平均失点数はデータのバラツキが非常に小さく、どの時代においてもJ1リーグ優勝のために必要な、明確なラインがあると言えるだろう。
つまり、突出した得点力だけでJ1リーグ優勝ができる訳ではなく、それに加えて安定した守備からの失点数の少なさもセットで必要になる。J1リーグ優勝のために必要なのは「攻撃と守備のハイレベルなバランス」だ。
この観点で24年のFC東京を振り返ると…
確かに平均得点数1.39は、J1リーグ優勝基準には及ばないものの過去のクラブ成績で言えば近年最高の結果ではあるので、J1リーグ優勝基準に向けた進捗途中と言えなくはない。方や平均失点数1.34は、FC東京の過去10年で観ても3番目に悪い数値。FC東京基準で言っても、近年は守備が非常に悪い状況が続いている状況だと言える。
FC東京の試合を観ている限りでは守備の仕組み自体に問題があるように感じられ、そのため明確な仕組みの導入が必要だと個人的には思っている(攻撃と守備の「バランス」を求めるのであれば、なおさら守備は「仕組み化」が必要なはず)。だからこそ、J1リーグ優勝を目指して攻撃だけでなく守備の観点でも、どのような振り返りがされ、言及がされ、今シーズンに向かっていくのかが個人的な注目ポイントだった。
ということで、来週10(金)には新体制発表会が行われ、新シーズンが始動になります。FC東京はここで、どんな目標設定を発表し、どんな選手編成を披露し、何について言及し、そして何を言わないのでしょうね。
しかし今回のオフシーズンでのクラブの発言の数々を観ていく限りでは、攻撃と守備、どちらに言及が多いかと言えば攻撃の箇所ばかり。守備については目が向く度合いがハッキリと少なかった。
攻撃面でチームに進化や改善もたらせる監督を探していた中で、松橋監督で、となりました。
ただ、それがMIXIが定義した「+1 Goal(One More Goal)」だから、と言われてしまったら、お上の方針に従う、所詮下々な自分としてはどうしようもない。フィロソフィーとは、そういうものだ。
どうしてこのように攻撃に偏って物事を考えてしまうのか。フットボールフィロソフィー「+1 Goal(One More Goal)」はその象徴と化してしまっているわけだが、そこに込められたクラブの思考や想いを、もう少し深く寄り添って理解することを試みるならば…まずMIXIにはMIXIなりに、エンターテイメント企業としての強い想いがあるのだろう。
そこでMIXIさんが手を挙げて責任企業になったわけですけど、MIXIさんの会社方針にあったクラブ経営をしていかなければいけないというのが担当者の皆さんにはプレッシャーというか命題としてあったように感じていました。当時私が担当役員の方々とたまたま一番近い距離にいたことや、彼らがやりたいこと、やらなくてはいけないプロジェクトの内容をたまたま一番理解していたこともあったと思います。
私も本当はFC東京さんとの契約が残っていたんです。経営の側面ではフットボール側の業績改善を期待されていましたし、MIXIさんの方針でサッカーをエンターテインメントに振っていくところも含めて、それには長い時間が必要でしたから。
これを山形前GMから教わるというのも謎な流れという…ww
ただ、このインタビューは昨年書いたこちらの件の、片方の当事者からの答え合わせのような内容となっていて、インタビュー自体は非常に有益ではあったが。
話を戻すと。
山形さんのコメントから伺えるのは、「エンターテイメント企業である株式会社MIXIの子会社として、FC東京に『エンターテイメントに振ったサッカー』を求めている」ということ。またテキスト字面だけを観た限りで言えば、その意志や要求も相当に強くある印象も伺える。ただこれは、MIXIの企業としての出自を考えたら当然だろう。
面白いのは、そして厄介なのは「エンターテイメント企業である株式会社MIXIが求める、FC東京の『エンターテイメントに振ったサッカー』とは何なのか」の定義の部分だろう。
これは首都クラブという土地柄もあり、FC東京に長年つきまとってきた問題だ。原博実時代から現場レベルでは模索がされ、その時その時で定義もされ、現場が入れ替わる毎にその都度変わってきた。
先ほどの山形さんのコメントでは「それには長い時間が必要でしたから」と言っている。「それ」が指しているのは恐らく「当時の山形さん大方針」だろう。MIXIから出されたお題に対して、山形さんなりに導き出した回答は、確かに実現のためには長い時間を要する代物といえた。
ここで、現在の方針が果たして山形さん大方針の継続中なのか、もしくは「小原GM独自の何かしら」にサイレント転換されているか、については今回はスルーするとして…少なくとも現在示されているものが何かというと…ここで「+1 Goal(One More Goal)」に戻ってくる、ということなのだろうか。
エンターテイメント企業であるMIXI、その子会社であるFC東京は『エンターテイメントに振ったサッカー』でその役割を果たそうとしている。『エンターテイメントに振ったサッカー』を言語化したものが「+1 Goal(One More Goal)」。その実現によって得られる成果が「熱狂」。
MIXIとしては、ゴール数の多さによって熱狂を生むと定義したということだろう。
ただ、この考え方は果たして合っているのだろうか。多くのゴールを奪うことだけで、本当に熱狂を生み出すことは出来るのだろうか。これがもし正しいのならば、近年で最高の得点数だった'24シーズンは、同じく最高レベルにもっと熱狂していて良かったはずだ。けど実際は決してそうではなかった。
これを自分なりに読み解くならば、ゴール自体が熱狂を生み出す訳ではなく、ゴールがその試合の勝利に繋がるからこそ熱狂するのだと考える。つまり、ゴールが持つ『意味』もしくは『重み』に対して、我々は熱狂しているのだ。
極端な例を持ち出してしまうが、3-1でリードしている中での4点目に対しては、どうしても先制点と比べて反応は異なってくる。サポーターだけでない、当事者である選手たちだってその振る舞いは微妙に変わってくる。
対戦相手によっても変わる。シーズン終盤の優勝争い・残留争いと消化試合とでも変わる。リーグ戦順位を決めるためのものとしてはゴールの価値自体は決して変わらないのに、どうしてもそこには『意味』や『重み』の差があり、それにより熱狂度合いが変わってくるのが実際だ。
そしてこの、ゴールが持つ重みとは、決して得点だけを指している訳では無い。当然、失点についても同じことが言える。
'24シーズンのFC東京は、ゴール期待値が1.207なのに対して、被ゴール期待値は1.363。
苦労して得られた得点の重みを、失点により自ら打ち消している状況。また得点数の期待値よりも失点数の期待値の方が大きい状況というのは、端的に言えば「試合に負ける期待値が高い状況」だとも言える。
ゴール期待値と被ゴール期待値との差分を観てみると、FC東京は15位だった。こんな『軽さ』の中で得られた得点を、いくら積み重ねたところで熱狂できる訳が無い。
MIXIがエンターテイメント企業という出自を軸に、子会社であるFC東京に対してエンターテイメントを本気で求めるのは、それは親会社として尊重すべきものだ。
だがそれが、単純にゴール数だけを求めて進める程度の代物なのであれば、その「浅さ」については流石に勘弁して欲しいというのが自分の想いだ。
あくまでも「意味のあるゴール」を追求してほしい。そしてFC東京において意味のあるゴールとは、J1リーグ優勝のためのゴールだ。
そしてJ1リーグ優勝のためには、得点数にも失点数にも明確な基準がある。ただ単に「1試合平均2得点に極めて近づけていく」だけを達成しても意味がなく、1試合平均1失点以下とセットで達成しなければならない。だから難しく、だから意味がある。
ルーズヴェルト・ゲームではリーグ優勝なんてできないことは、歴史が証明している。守備を脇に置いて得点数だけを比重高く追いかけることが、エンターテイメントのプロとしての、あるべき姿だとは自分は決して思わない。
守備から逃げるな。
…っていう、ここまでの話を吐き出した上で、初めて自分は松橋力蔵新監督が率いる、'25シーズンのFC東京について語り始めることができるんだ。やれスカッドだ、やれ3バックだ…そんなのは、こういう話を終えた後に行われるべきもの…ですよね?