この日でなければ見えなかったもの 新人戦決勝 -ヴェルディY

この新人戦での3試合は、個人的にはガッツポーズしまくりの倉又采配が続いた。昨年Bチームの試合を見る機会も多かった事もあって、個人的には選手の特徴がある程度把握出来てた上でのシーズンインだったわけだが、そのお陰か、倉又監督が今シーズンに向けてどう選手を評価しテストしているのかが見えるのが本当に面白かった。

3試合目のこの試合では、両翼を28二瓶翼29福森健太と新2年の二人が務めた。先週・先々週のB戦で強烈な結果を残した両者が、このダービーで早速思い切った大抜擢。倉又監督のテストっぷりたるや、その思い切りの良さと、プレシーズンでチームが固まっていないからこその「アピールすれば使う」という姿勢が、チームに高いモチベーションを植えつけているであろうことは明白だった。


この試合で求められたテストは中止せざるを得ない事態となる。この日東京に降った大雪は、西が丘サッカー場を途端に銀世界に染め上げ、白いピッチは選手を大いに苦しめた。踏ん張りが効かない中での恐る恐るなプレーを見ても明らかなように、選手の心体が暖まるのには時間が掛かり、そんなふわふわした状態が続きながらの失点、同点、そして、逆転だったのかも。

この試合を迎えるに当たって想定していた様々な期待。倉又監督の貪欲なテストぶりは当然のこと、楠瀬監督によるヴェルディYの「大人のサッカー」が新チームにどれだけ浸透しているか?だとか、気になっていた14中島翔哉の実際のプレーぶり、それに対し東京がどれだけやれるのか?っていう諸々の期待は、当然の様に崩れた。

けどその分、雪のこのピッチでないと浮かび上がることのなかったであろう要素は確認することが出来た。得点が動いた前半より雪がより強くなった後半の方が、要素が剥き出しになり充実していったという皮肉。見る側としても極寒だったが、この日でなければ見えなかったものはあったと思う。


東京はこの足元の悪い中でこそ、昨年からのスタメン選手がパワフルに映えた。23岩田拓也は道悪をモノともせずにエグいチェイシングを続け、22村松知稀は苦しい時こそ力強いオーバーラップを果敢に仕掛け、対人でも強さを発揮した。そして15橋本拳人は今年のクラブユース界の先頭を担う存在であることを改めて証明した。東京らしく耐える展開になれば、5小林聖弥13石原良将の2CBは厳しく相手に当たり続けた。

強力な相手、押し込まれる受け身な流れだけでなく、こうも過酷な状況に晒されることによって、ある意味普段以上に倉又イズムが、心を強く持って仕事をサボらずに走り続けるその姿勢が問われることになった。それはプレシーズンな2月には早過ぎるテスト項目だったのかもしれないが、結果としてそれが既に備わっていることを披露する場となった。青赤戦士を名乗る資格は既にあるぞ!と、胸張って僕らに示してくれた。


対するヴェルディYの評価が難しい。’11チーム初見だから当然なのだけど。

高い技術をベースとしての、丁寧な止め・蹴り。相手を走らせるパスでなく、走った相手の右足もしくは左足にピタリと付けれるその精度をベースとして、パスとドリブルを適度に混ぜたサッカー。その技術力と、根底から匂う賢さ。それは昨年自分が見たサッカーの中でもかなり好きな方のサッカーだったわけで、もちろんそれが今日見れるに越したことはなかったが、当然ながらそれはこの大雪のせいで叶うわけがなかった。それでもヴェルディYの選手たちは、あの環境でもショートパスを繋ぐサッカーにこだわった。

それを、いわゆる自分たちのサッカーとやらを突き通したと賞賛してもいいものだろうか?という部分。大雪の中でショートパスを選択したことが楠瀬監督が考えるサッカーだったのか?

選択を正解とするならば、そこから得られる課題は例えば、雪の中でもブレないショートパス技術が必要なのが分かったとかそういう話になるだろう。けど冷静に考えて、その精度は従来の突き詰め方の先に、本当にあるものなのか?そもそも、それいるか?

ゲキサカより楠瀬監督のコメントを引用すると『(東京Vは)素材は素晴らしいが甘い。今後を考えると拙い負け方』と、拙いとまで言い切っている。続く『試合の中でやりたいことが出来ているのかいないのか、見極めないといけない。ずるずるいってしまうと今回のようになる。』とのコメントと併せて考えると、楠瀬監督はこのピッチコンディションで選手がこのプレーこのサッカーを選んだことその”選択”に不満があったのではないだろうか?と自分は読む。

ぬかるんだピッチで、例えばピクシーはリフティングしながらボールを運んだ。それがその時のベストだったからである。状況は違うが、ラモスとビスマルクだってリフティングでパス交換しながらボールを前に運んだ。楠瀬監督が求めた”プレー選択”とは、こういった事ではないだろうか?

もちろん、曲芸をしろというわけではない。例えば、浮き球で繋げなかったか?前エントリで貼った動画では、24高木大輔の1点目は7楠見圭史との”浮き球”ワンツーでの突破からだった。せめて局面だけでもああいうアイデアがもっとあれば、ヴェルディの技術が発揮された、かつ過酷な環境に適応もされた、それもヴェルディYらしいサッカーと呼べたのではないだろうか?技術をどう使うか?例えばロングパスというツールを多用しようとも、質と込められたメッセージで印象は大きく変わる。ウチのようにエリアゲーム思想で使うロングボールもあれば、藤田東のフラッシュパスもあるということ。この環境に適したツールを、ヴェルディらしく駆使すれば良かった。しかしそれはこの試合では少なかったように思う。

今日びの日本サッカーでは、やり方を90分貫き通すことが美徳とされる場面が多い。それに照らし合わせればあの試合は前述のような評価をされやすい。しかし、勝利のためにあらゆる手段を模索することは育成年代であろうが常に必要だ。ヴェルディの長所であろう技術力をいかに賢く加工・駆使して勝利を狙うか?これが楠瀬監督がよく使う「大人のサッカー」の一要素であり、それがこの試合には足りなかったのではないだろうかと考える。


楠瀬監督はこの試合でかかっていた天皇杯への道が途絶えたことをかなり重く受け止めていた。とともに前述のようなかなりの苦言も呈していた。楠瀬監督も厳しさを持った監督、今回の件を受けて彼らがより大人のフットボーラーへと成長していくのであれば。対する東京も、あそこまで喜びを爆発させた成功体験が、たまたまだったかもしれない勝利を次は完勝にまで引き上げることになるかもしれない。

いつも言うこと。お互いにこのきっかけをどれだけ血肉に出来るか?燃費良く燃やしきれるか?そしてそのスピードも。長いようであっという間な、ジェットコースターのような’11シーズンが今年も始まった。

  • Pick Up Player 深川のメッシが、まずは東京を驚かす 28 二瓶翼

世の中にはメッシと形容されるサッカー選手が全世界のド田舎レベルにまで存在し、それこそ先日の宮市亮ですらメッシと呼ばれてしまう現在。単純にサッカー選手として凄いって意味で使われる様にもなってしまったこの「メッシ」という表現だが、本来はメッシ独特のプレースタイルになぞらえてこその表現だった。

メッシ独特のプレースタイルとは何ぞや?あれしかない体格に相手が触ることすら出来ないあのドリブルこそがメッシの代名詞だが、それを科学的アプローチで読み解いたのが国内のサッカー科学研究の第一人者であらせられる浅井武:筑波大教授。筑波大学蹴球部総監督として現場にも密接に関わりながら、無回転キックの研究でも世間を賑わせたお方でもある。その浅井教授によるメッシ説明はリンク先の記事に任せるとして、つまりはメッシは常にボールを身体の近くに置いた状態で、いつでも、誰よりも早くボールに触れる状態をトップスピードで続けれるからこその、あのプレーなのである。

東京にもメッシがいる。28二瓶翼は深川のメッシと呼ばれてきた選手。そしてそのドリブルの感性はメッシそのものである。

例えば大竹洋平と比較してみると、大竹がパスやシュートなど主にキックに感性を持ち、ドリブルももちろん得意ながらそれは切り返しのキレを主な武器としているのに対し、二瓶翼のそれはボールタッチ細かく、それこそ浅井教授が指摘する要素を目測ながら実感できる。相手より先に触れるからボールは取られないし、その目を見張る旋回性能は誰も持ち得ないスペシャリティ。スピードやフィジカルに依らない、感覚に支配されたそのドリブルは、よりメッシに近い代物のように思えてしまう。

横河武蔵野Y戦後に行われたB戦が圧巻だった。肩を、目線を軽く振ることで生まれる、相手DFの些細なズレ。一般的な選手よりも極端に道の狭いドリブルコースでも彼にとっては十分。165cmの体格に相手は誰も触れられず、パッと見はあまりにも簡単にハットトリックをやってのけてしまった。世代が代わり、彼のスペシャリティは押し出されるようにひとつ突き抜けた感がある。

それを受けての抜擢となったこの試合は、彼が彼らしくドリブルするには最低の環境であった。ヴェルディYにどれだけやれるかを楽しみにしていただけにその合否を見ることは叶わなかったが、それでもこぼれ球を拾って打ったシュートが相手にリフレクトして同点弾となったのを見る限りは、やはり持ってる。

ボールを持ててしまえばいくらでも相手を抜けてしまえるだけに、どうしてもオフの動きはまだまだ甘い。逆サイドにボールがあろうとも絞ることも中央にカットインしてくることも少ない。オフ・ザ・ボールでもっと急所を突く動きができること、動きながらもボールを受けれてプレー出来ることは未来の課題であろうが、そこをいま矯正すべきかどうかは正直分からない。

ならばいま求めたいのは、相手を軽々抜き去ったその先。パスをするなら、近くに落とすだけでなくもう一枚奥が見えるように。シュートをするなら、確実にコースに流しこむだけの精度を。相手を抜くことに労力を必要としないだけに、もっと楽に『その先』に集中できる。そこを厳しく見ていきたい。

まずは翼のドリブルを見て欲しい。翼のドリブルに唸ったら、次の試合はその先を問うて欲しい。その先ですら唸らせることになれば、深川のメッシは東京のメッシへとなるだろう。そして、日本→アジア→世界→宇宙へ…