奇跡の3-3。そしてPKへ。その一部始終。
流通経済大 3(PK 3-4)3筑波大
28分:筑波大 9西川
46分:流経大 15船山
53分:流経大 15船山
64分:筑波大 11木島
66分:流経大 9池田
89分:筑波大 2野本
筑波のパス回しは単純。DFの間に顔を出し、パスを出したら動き直し、前を向いてゴールを狙う。字面だけ並べれば至って「普通のサッカー」であり、風間監督も何度もこう評しているが、実際にそれを見ると、そのベースにある抜群の意識の高さに目が行く。顔を出すにも動き直すにも、例えばいざパス出しの後にコースが無いと察知すると全速力でコース取りに動くし、そのためならば右サイドから左サイドまで長い距離動く事も厭わない。「顔を出す」「動き直す」という動作にもレベルがあり、そのかなり高いところにまでその意識が行き届いている一端である。また前を向いてゴールを狙うにも、チーム全体でパスで「危険なところを狙う」意識が抜群に高い。チャンスのタイミングは逃さないし、その為の狭いクサビコースに積極的にパスを狙う。これらは全て「意識レベルの高さ」によるもので、日常の鍛錬の一端、「100%を出す事を覚えて欲しい」という風間監督の意図が垣間見える。またしかし、そのレベルに技術が追いついていない部分ももちろんある。そのミスを流経が奪い、そこは試合巧者流経らしくゴールに迫る、これがこの試合の展開ベース。
そのバランスが立ち上がりは筑波に傾く。ファーストゴールはエース9西川優大。広経大戦から絶好調な8大塚は中央で「危険なパス」を受けると、そのまま左ナナメに流れる西川にパス。西川は計ったかのようにちょんと浮かしてゴールに流し込んだ。
「あぁ今回もバカ試合か…」と溜息混じりに苦笑いしてみるも、前半はそのまま0-1で終わった。しかし11木島は決定機を外し、また筑波のミスを流経が攻め込む形も終盤に観られるようになり、流経が盛り返す匂いを残してのHTであった。
その匂いをハッキリさせたのが、20分頃のSB18原田の負傷退場。さらにその後交代で入れた27田中は10分程度のプレーで13森谷にまた交代させられた。13森谷は広経大戦はスタメンで活躍した選手であり、27田中は森谷までの繋ぎスクランブル出場だった可能性もあるし、ファーストプレーでキックミスし次のプレーでイエローを貰った27田中の様子に嫌な予感を監督が感じ取ったかもしれない。ただどちらにしてもそうそう出来る交代枠の使い方では無い。
かくして後半、筑波は既に残りの交代枠を1として迎えた。この点に流経はまだまだ活路は見いだせる。潤沢なベンチメンバーを揃える流経、交代勝負なら負ける事はない。
後半はいきなり流経が攻勢。直後の46分、右サイド深い位置、ショートバウンドを受けた14金久保はヒールでチョンと裏街道、彼らしい華麗な突破から最後は15船山が押し込んだ。1-1。さらに53分、今度は9池田が左サイドからえぐって中央にパス、合わせたシュートはポストに当てながらそのこぼれをまたしても船山が押し込んだ。2-1逆転。
流経の攻勢は、筑波のパスミスが目立ち始めた所から始まる。広経大に比べれば当然、流経のDF陣はJ内定者をズラリと並べた強靱な選手達。筑波の「危険なパス」の、特に9西川11木島へのクサビとなるパスにハードチャージで何もさせない。そうなると筑波は悪循環が。まず技術の低さによるミス、簡単な落としがズレてかっさらわれる。次に「危険なパス」が段々と「無茶なパス」に変わってくる。そしてそれが今度は出せなくなってくる。根底で増してきたのは恐らく「畏れ」。流経のメンバーを観れば、ふとした事でそちらに傾くのは無理もない。
そんなミスをタレント軍団流経が襲う。15船山は前半からゴールへの欲がプレーによく現れていた。好調を予感させていたが結果後半に怒濤の2ゴール。そして14金久保。10平木よりも大きく見えたこのファンタジスタが自らを落ち着かせ、相手の虚を突いた。
修正の厳しい展開になった筑波にとって、同点ゴールは幸運だった。64分、狭い方狭い方にパスで入っていき、ペナ前で11木島は受けて前を向く。左足で放ったシュートは勢いは無いものの絶妙なコースで流経GK増田の左手をすり抜けた。バイオリズムを取り戻せる嬉しいゴールに。
しかしその直後に、勢いを削ぐ、突き放すゴールを決められるのだからさすがエースの9番である。66分、池田はナナメにドリブルから豪快に左足を振り抜いた。筑波にとって何とも重たい失点。また、その流れを引き戻すのに使えるカードは1枚のみ。疲労の色は既に濃い。
筑波はSB22石神に代え、MF20八反田。城福JAPANにも選ばれたこの選手は1年生ながら途中交代で既に出場機会を得ている。そんな定番の交代策も、しかし今回は、ボランチ7永芳をCBに下げ、CB2野本をSBにスライドさせる攻撃モードに。対する流経は2トップ船山・池田に代え29宇賀神20張を投入し、逃げ切りモードに。
これまで、確かに6-5、4-4と今年壮絶なバカ試合を繰り返してきた両者なので、簡単な試合になるとは思いはしなかったが、さすがに今回は流経が…そんなラストプレーに奇跡が起こる。
筑波が得たCKに、GK碓井もゴール前へ上がるスクランブル体制。しかしそれも弾かれてハーフラインへクリア。それを拾い直して14小澤からやけくその放り込み。競り合いのこぼれはハーフバウンドでキャプテン野本へ…強烈ボレーが流経ゴールに突き刺さった。
大爆発!
平塚が沸点を超える。この日非常に多かった記者・関係者連中も飛び上がって盛り上がる。筑波ベンチは言わずもがな。交代枠を1つ残していたものの既にアップは止めていた流経ベンチ選手はまたしても、もくもくと、アップを再開「せざるを得なくなる」。タイムアップ。どよめき。ざわめき。だからサッカーは面白い!!
興奮の名勝負は延長へ。流経はさらに仕掛ける。2保崎を交代、投入したのは7楠瀬。卑怯としか言い様のない人選。
体力の限界は既に超えていた筑波。猛烈に体力を使う戦いぶりにこの延長は辛い。ギリギリの守備に、襲うジャックナイフ楠瀬。左足の職人である楠瀬と、右SBにスライドしたキャプテン野本がここでマッチアップ。偶然とは言え出来すぎな、興奮のマッチアップが延長の10分×2では行われ続けた。
そして、PKへ…
辛かった。世界の歴史を紐解いてみても、PKはなぜか120分(今日の場合は110分)ものあいだ、貴重な働きをしてくれた選手に女神は微笑んでくれない。おれの愛する選手、2人がPKを外して終戦した流経大。一応筑波寄りとして観てきた試合だったが、こればっかりは感情的に、切ない気持ちに溢れてしまう。
楠瀬・西の自慢の両サイドが揃ってベンチだったのは、両者共にケガの具合が思わしくなかったからだった。前日練習も休ませ、楠瀬は痛み止めを打っての出場だった。展開次第では投入の腹積もりは決めていても、出来れば使うことなく温存し、決勝までの中3日に勝負を賭けたかった、とは中野監督のコメント。延長の楠瀬のシュートも体調が万全であれば…監督のコメントは愛に溢れる印象を受けた。何の巡り合わせか、またしても国立へたどり着けなかったタレント軍団。そこに「何か」を感じずにはいられない。
結果、勝ったのは筑波。長い戦いは終わった、やんややんやの大騒ぎ。
やりたい放題の広経大戦に比べれば当然、内容は落ちたものだった。流経の選手達のプレッシャーに気圧されて、パスの繋ぎがかなりぶれた。大学サッカーを、勝ちはこだわらない育成期間と割り切っているという風間監督に言わせれば、「後半ロスタイムは、(負けを覚悟して)『一番強い流経大を相手に良くやったからいいか』と思っていたけど、あいつらはあきらめていなかったね」とコメントした。さすがコメント慣れした、飄々としたコメントではあるが、当然ベンチでは感情を爆発させてのガッツポーズ。
試合後、非常に多くの報道陣に囲まれた風間監督。他大会とも被らなかったおかげか、今日の試合が初めてな記者・評論家連中は多かった様で、「初めまして的な質問」に溢れていた。それをいつものフレーズで受け答える風間監督、その佇まいにはカリスマの匂いが、漂い始めて、きた?さてそれが、自分のただの贔屓目な感想でしかないかどうかは、もはやドップリな自分には分からないが。
奇跡の関東一部残留から一年でインカレ決勝にまで引き上げる「奇跡」を演じた風間監督は今回、いくらかの記者の目に晒される事になり、そしてやっと監督・風間八宏に対しての「ジャッジ」が始まる事になる。今までそれすら無かったことを思えば、非常に喜ばしい。インカレ決勝の中継では、恐らくテレ朝によってスターシステムに乗る事になるだろうが、ゼロがイチになるのは少なくとも良い事だ。周囲が変わりつつある中で、監督・風間八宏は奇跡の続きに挑む。
さて決勝。相手は中大となった。関東リーグでは2戦2敗。枚数をかけた怒濤の攻撃を仕掛ける中大との相性はあまり良くないかもしれない。2敗1分と、あの流経でさえ筑波との相性の壁に破れた。そんな筑波もまた、決勝の舞台で今シーズンの「やり残し」払拭に臨む事になった。
簡単なことではない。しかしそれを達成したとき、ピッチ上にカリスマ監督が誕生する事になる、かもしれない。決勝は1/11聖地・国立14時キックオフ。