2016年J1リーグ最終節、名古屋グランパスvs湘南ベルマーレの試合はスカパーLIVEで観ていた。同時キックオフでFC東京の試合ももちろん放送されていたけれど、それをセカンドスクリーンに追いやってまでこの試合を優先したわけだから、そこに「FC東京サポとして」以上に「他人事なスケベ心」が上回った事実は否定できまい。実際、そのスケベ心は結果としては十分に満たされたわけだけど。
湘南の2点目に目がいった。
心と身体が機能せずに硬直する名古屋のプレーぶりに既視感を抱きながら。前半の早い時間帯にまず湘南が1点。そして37分の2点目は、名古屋にとっては既にトドメと言っていいものだった。右からのクロスに、左サイドから突っ込んでくる高山薫。右SBを引きずりながらも、上手く出し抜いて前でボールに触る事に成功した、見事なゴールでもあった。
その応対した相手選手、つまり高山薫に出し抜かれた右SBの選手が、他ならぬ古林将太だった。湘南アカデミーの顔であったコバショー。この2点目に、クラブと選手とサポーターそれぞれの運命を感じずにはいられなかった。
そして試合後。
J2降格が決まった名古屋グランパスは、試合後にピッチを一周しサポーターへ挨拶に回った。成り行き上、アウェーゴール裏の前を通り、湘南サポにも挨拶をするグランパスの選手。そこで、TVカメラはゲーフラを掲げる湘南サポーターを映した。
色んな事が頭をグルグルしながら、どうこれを咀嚼すれば良いのか一瞬困った事を覚えている。
そして、それと同じ様な事がつい先日また起きた。タマこと三田啓貴のFC東京退団、仙台移籍。グルグル。明日は我が身とはまさにこの事なのかもしれない。
グルグルと、少し前の事を思い出した。
U-18で全国制覇、大会MVPを獲得したタマは、しかしトップチーム昇格は叶わずに明治大学に進学する。当然「卒業したら戻ってこいよ」とタマを送り出したのだが、それがいつしか「卒業した時に果たして戻ってきてくれるのか?」と不安になる時期があった。
明大サッカー部で輝かしい活躍を見せるタマには、ジュビロ磐田からも誘いがあったらしく、FC東京と磐田とでのタマ争奪戦になった。しかしその当時FC東京はJ2に所属し、沼にハマりかけていた時期でもあった。
タマにとっては、J1ジュビロ磐田に進む方がよっぽど彼の価値に見合うわけで。彼の事を思った時に、ベストな選択肢がFC東京だぞと言い切れない事への、苛立ちというか、観念というか。すごい複雑な感情をあの時は強く抱いていた。
だから、タマが東京を選んでくれた時には、嬉しさ以上に安堵の思いが勝っていた様に記憶する。
そんなタマが、今度は移籍で東京を出ていってしまう。あの時とは逆というか、複雑な感情の通りというか。彼にとって、FC東京が「ステップ」になってしまった事への整理は、正直未だにし終えれていない。
コバショーにしろタマにしろ、彼らが湘南を、そして東京をそれぞれ愛し、憧れていてくれた事には間違いない。それはむしろ今もそしてこれからもそうだろう。そこを疑うつもりは一切ない。
ただただ、彼らが選手としての「次」に、愛するクラブは適さなくなってしまった。相応の価値を提示する事が出来なくなってしまった。
そこを例えば、選手が違約金を置いていかなかったからと、ドライに選手を突き放す切り口は簡単だろうし、確かにそれも正しい。それが湘南ベルマーレの財政規模であればより切実だ。
それでもここは一旦堪えて、原因の矢印を自らに向けるとするならば…
愛し、憧れてくれる選手たちの期待に、能力的にも経済的にも応えてやれるクラブとなれる様にと、クラブの歴史を膨らませていく決意を新たにしていくしか無いのだろう。
皮肉と自虐が絶妙に効いたあのゲーフラ。2017シーズンは、湘南サポはコバショーにどんな反応を向けるのだろう。「お望み通り、湘南では得られなかった成長を手にしてますかねぇ?」と伺いつつ。願わくば心の底に「あの時よりも憧れを受け止められる位に湘南ベルマーレも大きくなったから、何時でも帰ってこいよ」くらいな想いを抱きつつ。