二冠達成 それでもFC東京U-18は「勝ち続ける」 ユース応援企画 御礼に代えて

「今」が「未来」の何を保証してくれるのだろう。クラ選優勝を果たす1か月前の「今」では、こんな「未来」は到底予測できなかった。

2016年7月2日、高円宮杯プレミアリーグEAST対横浜F・マリノスユース戦。この試合はまさに、2016年のFC東京U-18の景色を強く映すような試合となった。
前半には、そのポジティブな面が随所に発揮された。FC東京U-18の選手たちは、必要な箇所で相手を圧するパワーを発揮し、またある箇所では相手を俯瞰した冷静さも見せてくれた。個で相手を上回る様子はまさに、今年ならではの特徴と言えるだろう。
方や後半はそんな様子も姿をひそめ、一気呵成のマリノスユースに逆転負け。前半が個で相手を上回ったのであれば、後半は組織で相手に上回られた格好。“チーム”としての脆さ。これもまた、今年ならではの特徴であった。

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FC東京は今年、クラブとして新たな試み「U-23」を創設した。このことに関して、細かい説明や意義は今さら説明の必要はないだろう。この施策によって、FC東京U-18の景色は大きく変わった。
U-23としてJ3リーグを。U-18として高円宮杯プレミアEASTを。そしてU-18Bチームとして東京都1部リーグ(T1)を。重なり合う階層のそれぞれのタフな環境において、40名の所属選手たちがこれまで既に55試合もの公式戦に臨んできた。
フレキシブルに選手が上下に移動する編成の中で、ある者は1階層上での試合経験を得、それを埋めるようにまたある者が新たなチャンスを掴んでいく。各人の置かれた環境で、選手たちはある意味「出稽古」を重ねてきたと言える。その効果は確実に表れ、それぞれの経験を通して成長した様子が発揮されたのが、マリノスユース戦の前半であった。
しかし、出稽古が増えるということは、他方で選手たちがチームを留守にする時間も増えることを意味する。マリノスユース戦後半に見せたチームとしての脆さ。そこで見えたのは、劣勢に立つFC東京U-18というチームに対し、どこか「他人事」のように振舞う40人の選手たちの様子だった。

そう、クラ選優勝の際に選手も監督も要因として語っていた「一体感」は、この時点ではチームにまるで存在しないように見えた。あの時の「今」、チームとして脆く敗れる彼らからは、クラ選優勝なんて「未来」は到底見えてはこなかった。

それが、むしろ「一体感」で掴んだような夏の戴冠である。
確かに「未来を変える兆し」はその後いくつかあった。それらの兆しに向かって、選手たちが主体的に取り組み、戦いながら成長を続けてきたことは間違いない。もどかしいスコアレスドローのスタートを乗り越えて、ある時はスコアで相手を圧倒し、またある時は関東予選の雪辱を果たしもした。たった1か月でチームとして大きく変わった結果、手にした新たな武器。FC東京U-18の「一体感」は見事だった。

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しかしそんな、全国制覇してみせた誇らしい「今」ですら、「未来」の何を保証してくれるだろう。彼らが目標に据えた“3冠”を目指す資格は、確かに得ることができた。だが、3冠を達成できるかどうかについては、「今」は残念ながら大した保証をしてくれないのである。
この文章が届く頃は、既にクラ選優勝から1か月以上が経過した後の「今」だ。カップを掲げたあの時に想像した「未来」の通りに、結果が進んでいるのかもしれないし、もしくは真逆に陥っているのかもしれない。ましてやプレミアリーグ再開初戦は、日本で一番「負けた悔しさ」を蓄えたクラブが相手だ。その後には、我々と同じく“3冠を目指す資格を持ったチーム”との対戦も控えている。

果たして、FC東京U-18は「今」も「勝ち続けている」だろうか。

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「勝つ」ことと「勝ち続ける」ことは大きく違う。
勝つだけであれば、トリッキーな奇襲作戦でも、相手の攻撃を阻む神風でも、その可能性はいくらでもある。10回やって1回しか勝てない相手だろうと、その1回を決勝で掴んでしまえば優勝だ。
しかし「勝ち続ける」となると、そうはいかない。研究し尽くされ、あらゆる対策を施した相手に対し「10回やって少なくとも8回は勝ち続ける」ためには、相手を見極めて己が柔軟に対応するだけの、受けの広さが必要となる。自身の調子の波は、限りなく凹みを作らないように整えなければならない。試合中の思考や心構えも、ただ「勝つ」だけの場合とは段違いだ。何となくぼんやりと試合に入って、そのまま90分を過ごして「あー今日は負けちゃったなー」では、勝ち続ける域には程遠い。
過去、様々な競技においてこの「勝つ」ことと「勝ち続ける」ことの違いに、選手たちは悩まされてきた。自覚的に勝ち続けた選手。気づくことすらなく、ただ無自覚に勝ったり負けたりした選手。それらがリオオリンピックでは特に顕著に表れた。福原愛は卓球女子団体の銅メダルを、前回大会の銀メダルよりも尊いとインタビューに応えていた。それは、ロンドン大会で「勝った」銀よりも、ロンドン大会からリオ大会まで「勝ち続け」て得た銅の方がより重みがあることを実感し、自然と口から出た言葉だろう。それほどに「勝ち続ける」とは、ただ「勝つ」こととは違って、何より苦しいものなのだ。

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「勝つ」のでなく「勝ち続ける」とはどういうことか。そこに悩み、試し、少しでも近付いていくこと。クラ選優勝を境に、FC東京U-18が据えるべき新たな目標だろう。

「勝ち続ける」ための方法は、まず「勝ち方を一旦捨てる」ことなのかもしれない。人はどうしても成功体験から外れることが怖い。あの時の、輝かしい「今」を守りたがる。知っている一つの勝ち方にすがり続けてしまうのではなく、どれだけそこから変化して、勝ち方を増やしていけるか。マリノスユース戦以降のあの1か月の様に。

今日も、来週も、来年も。そして2020年までに。チームをより変化させ、勝ち続けるためのカギはむしろ、西が丘のピッチに立てなかった選手にこそあるだろう。来年になって自動的に空く席にただ座るのではなく、いま埋まっている席を奪えるかどうかに懸かっている。その先にしか、求める「未来」はない。

苦しい道なのには違いないが、誰もが進むことができる道でもない。その道こそがNEXT STEPだ。次へと進んでいける事が単純に嬉しく思うし、それは選手も同様であると信じている。何故ならば、その先にしか“3冠”はないのだから。

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「勝つ」ことはできた。次は、「勝ち続ける」こと。勝ち方を守るのではなく、勝ち続けるための新たなチャレンジを。
J3でプレミアでT1で、その難しさにもがき苦しむ選手スタッフの姿。それこそが、全国制覇を成し遂げたクラブのあるべき姿に違いない。

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今年FC東京U-18はクラブユース選手権を制し、全国を獲りました。それこそ8年ぶりの戴冠となるわけで、それだけを見ても分かる通りこれは凄いことです。

ただそうなると、いつもクラ選の後にこうして文章を選手たちに送っている自分としては苦しくなります。ただでさえ凄い彼らに、伝えるべき事が他に何があろうかと。嬉しい悩みなのには間違いないけど、自分みたいな芸風の人間には実際しんどかった!あぁクソみたいな悩み!!

その中で何とか捻り出したのが、上記の「勝ち続ける」という概念です。我ながら良いのを引き当てたなと思っています(自画自賛)。


この「勝ち続ける」という概念。元ネタというかパクリ元は、分かる人にはすぐピンとくるかと思いますが…有名なプロゲーマーであるウメハラから来ています。

勝ち続ける意志力 (梅原 大吾)

「勝つ」ことと「勝ち続ける」ことの違いと、その上でじゃあ如何にして「勝ち続ける」のか。その違いや重みを鮮やかに明確化してくれたこの本は、競技・年代問わずに大きな示唆を得られる内容だった様に思います。

そしてこの考え方が、夏を「勝った」彼らの今にピッタリだったとも。彼らがシーズン当初に「三冠」をぶち上げた以上、そのためにはただ瞬間的に「勝った」だけで留まるのではなく「勝ち続ける」必要があるわけで。「勝った」ことは「勝ち続ける」ことを保証するものでは決して無いし、これからは「勝つ」から「勝ち続ける」へと、スタイルも考え方も変化が必要なのではないかと。

2016 FC東京ユースを勝手に応援企画!。Tシャツを届ける際に、U-18に向けて上記の文書を同封させてもらいましたが、そこにはこんな想いを込めてみました。

 

夏を終えたFC東京U-18は、再開した高円宮杯プレミアリーグEASTをJ3と並行しながらも何とか戦い抜き、現在リーグ2位。自力で優勝を狙える位置につけられた事は立派だったと思いますし、何よりその道中では勝ち続けるための「変化」を伴えていたとも思います。

Jユースカップに突入し、その変化はより顕著なものになりました。その一部は、例えば選手起用にも表れます。

大会期間中は、1試合で最大7名もの選手をU-18からU-23に渡さなければいけなかった日もありました。それは確かに強制的に求められた変化ではあったとは言え、それに応えた選手がいたのもまた事実。荒川滉貴のSH”帰還”に始まり、長谷川光基がCBとして一気に台頭し、決勝では高瀬和楠がGKとして重責を果たした。他にも出た選手みんなが、東京都1部リーグ(T1リーグ)のシーズンを既に戦い抜いている選手たちでした。

こうして掴んだJユースカップという二冠目のタイトル。ここまで変化してみせた上で獲ったタイトルだからこそ、特別に嬉しいし、彼らにはもう凄いという言葉しか出てきません。

そして高円宮杯プレミアリーグEASTも残り3試合、優勝すればさいスタでWEST覇者とチャンピオンシップ。J3も全日程を終了し、最後のタイトルに向けていよいよ、U-18全ての選手がひとつのチームの下に横一線となります。FC東京U-18はここにきて最後の、そして最大の「変化」を迎えます。

もちろんそれは失敗してしまう可能性も十分含んだ、あくまでも「チャレンジ」となります。ただ自分は、このチャレンジが出来る事自体が既に誇らしいです。そして「(U-23から戻ってくるマコやヨシタケ)のポジションがあるかは分からないよ」というカズキ監督のコメントが頼もしくも感じています。Jユースカップ決勝で既に、U-23から戻ってきた久保建英だけでなく、準決勝MOMの小林真鷹が決勝に出場出来なかった事を思えば、そのゴングは既に鳴っていたのかもしれません。


今年ほどU-18に目が向いた年は無かった様に思います。

U-23で全力で戦う姿がサポーターの眼に残っているからこそ、生地のU-18での活躍に「おいちゃん!」と声が上がるし、交歓会でも「マコー」「よしたけー」「波多野なんかやれ~」とヨソイキ感皆無な声もかかる。小平でのホーム試合では安間さんなどのトップチームスタッフや、水沼宏太などのトップチームの選手たちも見に来てくれました。特にFC東京アカデミー出身では無いのに、それでも様子を見に来てくれたのはこれまでもあまり記憶に無いことです。ホントに多くの方に、U-18を気にかけてもらえた様に思います。

その結果も後押ししてか、今年のユース応援企画は過去最多の賛同を頂く事が出来たそうです。賛同頂きました皆様、本当にありがとうございました。

ラスト4試合。これまでに無いクライマックスが今週末から始まります。是非多くの方に見守って頂きたく思います。