悪しき前例から学ぶべきモノ 鳥栖×湘南

本来この試合はこの日に行われるものではなかった。この日の試合について『再試合』という冠名が付いている事に対して、「何かあったんだ。」で終わらせてはならない。備忘録として、以下に残す。

●隙だらけの重大な決断

まず再試合決定までの経緯。

8/6J2第32節 サガン鳥栖対湘南ベルマーレ戦の中止について@サガン鳥栖
【J2:第32節 鳥栖 vs 湘南】試合中止決定後の両選手コメント@J's GOAL
【J2:第32節 鳥栖 vs 湘南】試合中止決定後の両監督および湘南 真壁潔代表取締役コメント@J's GOAL

試合前から雷注意報と大雨洪水警報が出されていた事もあり、天候について常に考慮し続けながら、豪雨の中でも前半戦は行われた。前半は0-1で湘南リードとして既に成立していた。雨も段々と弱まり、中止の決定が下った時には雨も雷も止んでいたらしい。ハーフタイムにはこの日のイベントである花火も打ち上がった。しかし協議は進み20時40分に試合中止が決定されたという。湘南の選手はその間ピッチに出てアップを繰り返していたが、後半開始のホイッスルはとうとう鳴る事はなかった。
その後、中止の決定までの経緯について、10日後に改めて以下のリリースがされた。

8/6(月) vs.湘南戦中止にいたる経緯について@サガン鳥栖

まずはここまでを一区切りとして考える。雷の問題は開催する上で確かに考慮すべき事態であり、中止も含めた検討はするべきである。しかもこの試合の次の日には落雷による死亡事故という痛ましい事故も起こっている。なので中止という人命に関わる決断を下した事に関して今さら何ら言う事はない。しかし一番状況の酷かった前半を無理矢理開催し、HTには花火を打ち上げる事も出来た程に、雨も雷も落ち着いた状況にまで回復したのに中止の決定。しかも中止の理由として「観戦客の安全確保」のためと挙げながら、競技中の40分間以上スタンドの客を安全な場所へ誘導すると言った行動は全くなかった。こういった諸々の実際の状況を考慮すると、中止の判断に対してどうしても穿った見方が出来てしまう。「前半負けてたけど、雷注意報もまだ出てるしこのままなら中止に出来ちゃうんじゃない?」といった妄想が入り込む「余地」が出て来てしまう。中止された試合から10日後にまた改めて細かい経緯をリリースしたところを観るとやはり相当数の抗議が鳥栖に殺到したと伺える。しかし、サッカーという公正さを求められる競技を主催する者として、その公正さが疑われる『隙』は絶対に作ってはいけないしそれぐらいに厳重なケアが出来て初めて『公正さ』は生まれてくるものだ。今回の事例を観ると、鳥栖の運営は主催者として観客への配慮に欠け、さらに根本で感じているべき「公正さの重み」を全く感じていない運営だったと言わざるをえない。多くあったであろう抗議も当然の話である。
ちなみに、試合の中止を決定に関する権限については、

Jリーグ規約 第62条〔試合の中止の決定〕
試合の中止は,主審が,マッチコミッショナーおよびホームクラブの実行委員と協議のうえ決定する。ただし,主審が到着する前にやむを得ない事情により試合を中止する場合は,マッチコミッショナーおよびホームクラブの実行委員が協議のうえ決定する。

とあり、リードしていた湘南が試合の中止に関してその場で協議に参加する権利は認められていない。ちなみにこの試合の主審は鍋島將起氏であり、つい最近荒れに荒れた9/2鳥栖×福岡の九州ダービーの主審も務められた方でもある。

●幻の前半45分間

そして再試合は9/5に決まるわけだが、ここで問題なのが既に成立している前半戦の扱いである。これに対してJリーグ側は、得点は記録せずに最初から改めて試合を行うと決めた。

2007Jリーグ J2リーグ戦 第32節 サガン鳥栖 vs 湘南ベルマーレ 代替日決定のお知らせ@Jリーグ

リンク先にもある様に、試合の裁定については最終的にはJリーグ試合実施要項第48条が適用されての決断ではあった。しかし、その決断までに湘南サイドは異議として「46分からの再開」を理事会に提案。結論が理事会会議では決まらず、チェアマン預かりで結論を一任するということになり、その上での今回の決断となったらしい。
以上の経緯について湘南の眞壁社長は8/25ホーム仙台戦において試合前に時間を取りファンに説明をした。

2007年08月25日 湘南夏の陣!ベガルタ仙台戦は0-1で惜敗@湘南ベルマーレ
社長のPHOTO日記 2007年08月23日:通知@湘南ベルマーレ

そして9/5本日再試合は行われ、試合は2-1鳥栖の勝利で終わった。

●他人事の事例は、悪しき前例として我が身に降りかかるかもしれない

この事例はプロでは当然の事ながら、アマチュアもしくは他競技においてでも、この事例を通して学ぶべき事は多くあると思う。今回は最終的なJリーグの決断は規約・規定に則したものであり、チェアマン裁定によるものであるから湘南としてはどうしようもない。むしろ湘南としてはチェアマンまで引きずり出したわけだから、裁定結果に悔しさはあるもののやるべき事はやったといったところだろう。そして一番大切であるべきサポーターに対して出来る限りの誠意と対応もして見せたと思う。このあたりの湘南のクラブ対応は素晴らしいものであったと思う。
しかし、それでも再試合は行われる。鳥栖までの遠征滞在費は湘南持ちだし(Jとかから補償が出るわけではない)、アジエルの幻のゴールも査定に加えなければならないわけで、再試合も「勝てば3位」など余計なアヤが付いた。湘南が被害を一人受ける立場となったのは間違いない。もちろん鳥栖にもホーム開催などの運営費に余計な負担はあったかも知れないが、卑しい見方で言わせてもらえれば湘南の1ゴールが無くなるのであれば何ら痛い出費ではない。
むしろ今回の事例が悪しき前例として、我が身に降りかかる可能性に注意しなければならなくなった。プロ興行の倫理としては今後絶対あってはならない事ではあるが、ただでさえ今回の様な雷によるこういったシチュエーションは今後多く起こる事が予想でき、それを今度は倫理に反した使い方をされかねない。今回の鳥栖×湘南がどうであったかはさておき、この事例が「悪しき前例」となる、そんな可能性が出来てしまったのだ。
この件に対し今回はJリーグ理事会からチェアマンまで話が行ったので、成立分の取扱から不測の事態の際の補償関係などについて規約・規定が見直される事になるだろう。しかし改訂の可能性のある来季を待たずに今季同じシチュエーションが訪れるかもしれない。そもそも我々は規約・規定についてどれだけの知識があるだろうか?
弁護士など本職の方々の様に熟知しておけとは無理な話だが、私たちが愛するJリーグがどのような規約・規定の下に成り立っているのか、一度目を通してみるのも面白いかもしれない。最近よく聞かれるドーピング規約から有名な「ベストメンバー規定」まで、また個人的な新しい発見もあるかもしれないし、J1中断中の良い暇つぶしにも。
そして我が身に降りかかった時には適切な倫理と知識で文句を言っていきたいものである。

Jリーグ公式サイト:about Jリーグ

※ブクマコメントから、「保証」→「補償」に訂正させて頂きました。ご指摘ありがとうございます。