奪還せよ! プレビュー -ジェフ千葉戦

3/5、J開幕鳥栖戦から2日前の木曜日。大熊東京は鳥栖戦に向けて入念なセットプレー対策を行っていた。

CKにFK、左右中央と様々にボールを置き、ポイントを設定する。キッカーとして立つのは大熊監督。スタメン候補としてゴールマウスを守る塩田仁史は、壁を作る指示を飛ばす。壁の後ろには、ニアでボールを弾くストーン役として平山相太を配置。体制整うと、ボールポイントの位置から大熊監督は様々なパターンのボールを蹴り込む。

「こういうパターンもあるよな?どうすんだ山岸」

ゴール真裏に構える山岸コーチが「こういう時は…」と答える。セットプレー守備に関しては山岸コーチがスカウティングをしてるのか、相手のマークを誰がするか?の指示なども山岸コーチが中心となって伝える。また山岸コーチの横に立つは、当時怪我明けながらも開幕スタメンを必死で目指していた権田修一。権田も、練習の流れと関係ない部分で気づいたことを、選手にどんどんと伝えていく。

「こんなボールの時はどうするんだ?」と大熊監督が塩田と平山の間に落ちるようなボールを入れてみると、塩田が出て弾くのか、もしくは平山が下がって弾くのか、どちらがいいかと山岸コーチ・権田・塩田・平山での確認が始まる。結論を出すまでのあいだも、いろんな角度から見守る長島コーチ・長澤コーチがセットプレー守備対応について「さっきのは…」と選手に声をかけ、それぞれ個別で確認。対応に結論が出たところで実践してみると、上手く弾けたボールを拾った羽生直剛がその途端にプレスに来る相手役選手をかわして前線に構える鈴木達也に絶妙フィードとアドリブプレー。それを見て「ブラボーだ!」と手放しで褒める大熊監督…

この鳥栖戦直前の小平での練習内容を聞いたときには、お見事!だと思った。課題だったセットプレーも、ここまでのことが続けられるのならば間違いなくこれまでよりも良くなると思うし、出来る限り続けていって欲しい練習である。当然、千葉戦に向けても。

大熊監督の”細部にこだわる練習”ってのは、それぞれが勝利に直結する”種”のようなものであり、大熊監督の負けず嫌いぶりがこのような形で表現されたものだと言える。大事な開幕戦に向けて、かなり具体的な種を小平で仕込んだことが、悪いなりに勝ち点3を拾うあの結果に繋がった。また、その種をピッチの上でどう使うか?繋ぎ合わせるか?その大きなデザインが現状の課題だとも前回書いた。

そのそれぞれが発揮されるのは、問われるのは、いずれも実際のピッチの上だ。審査の場が無事に用意され、それを見届けられる幸せを我々はめいいっぱい浴びなければいけない。そしてスタジアムの外に出れば、その幸せを守る、幸せを与える、幸せを取り戻す活動を、全ての人のためにしていく必要もある。

どちらにも全力を。その切り替えこそが、'11シーズンを戦う我々の生き方になる。


ちばぎんカップJリーグ第1節、公の場で試合したのがこの2試合だけでは、本来サポーターレベルでドワイト千葉を把握することは出来なかっただろう。しかし今回は、ゆっくりいこうさんとのやりとりでarataさんも改めてまとめたエントリを書いていただけたおかげもあって、ドワイト千葉もイメージもしやすいし、またその先入観が現地でいい意味で壊れる楽しみも増えた。今回こうやってやり取りが出来たarataさんには感謝の言葉しかないです。

詳しくはぜひあちらのエントリを読んでいただきたいが、ドワイト千葉を要約すれば…

    • オーロイに長いボールを当てては来るが、オーロイで点を取るサッカーではなく、2列目に点を取らせるサッカー
    • SBは積極的な上がりを見せるわけではなく、2列目の役割含めてそこまでサイドに偏った攻撃はしてこない
    • 守備はDF4枚+ボランチ2枚がしっかりゾーンを作り、絞り優先の中央固める布陣

自分はこのようにエントリを、ドワイト千葉を読んだ。

今回戦うに当たって、何より目を引いてしまうのは最前線に構えるオーロイしかないわけだけど、そのオーロイのデカさは、得点で活かそうというよりかは起点というか目標として活用したい様子。北九州戦では相手を引きずりながらヘダーかましたのを見ても分かるように、高さとともにパワーもある重戦車系。そこで一発どかんと相手守備陣形をぶっ壊してもらい、そこへ2列目配置された選手が飛び出すという攻撃。右SHに左利きの深井、左SHに右利きのマットを配置しているのを見ても、ドワイト監督がどこで点を取らせたいのか?思惑が透けて見える。千葉の戦い方としては、このような攻撃が中心になるだろう。

それに対する東京が頼もしいと思えるのは、それらの情報が(当然だけど)ちゃんと入った上で、対策をちゃんと考えようとしているから。365日FC東京や後藤勝さんのメルマガを読むと、大熊監督からは対策についてかなり具体的な部分についてまでコメントをしている。TMで対戦した甲府SH永里源気の飛び出しを千葉の米倉恒貴に重ねあわせて、ボランチが追いかけて捕まえるのか縦で受け渡すのかをはっきりさせたい、と明言していた。

他にも、オーロイが比較的動きたがることから阿部巧のサイドに流れての競り合いを狙ってくる場面もあるだろうから、その際の直接的な対応と相手2列目の飛び出し方の変わり方、それを捕まえる際の守備対応側の変更の件についても。サイドからのカットインが多いことからSBも絞りながらの守備力が求められるだろう。

また、その対策の一つとして考えられているのが、徳永悠平ボランチ起用。パワーを持った対人守備が出来る選手として、オーロイにサンドで潰しに行く選手・阿部巧オーロイのミスマッチにフォローに入ってもらう選手として抜擢が予想される。徳永自身、昨年のボランチ起用で随分とレベルを上げたし、現在の大熊東京のボランチの役割であれば充分以上の活躍が期待できる。ピッチ上ではこの徳永、米本そして羽生のボランチ候補+トップ下の梶山を加えた3人が、相手2列目の米倉恒貴・マットラム・深井正樹に3列目佐藤勇人をちゃんと捕まえられるかどうか?が東京としては守備のポイントの一つになる。


対する東京の攻撃。

何より重大なことは平山相太の長期離脱だが、とりあえず千葉戦について言えば高松大樹が万全の体制だ。さすが大分トリニータをこれまで引っ張ってきた(そしてこれからも引っ張っていくはず)選手、小平で馴染むのも早かったし、自分が見たときには特に梶山陽平と相性良いのか楽しくやり取りしている様子が嬉しかった。それがこの緊急事態に、高松・梶山コンビでビッグマッチに挑むことになりそうなのだから面白い。

同じく高さのあるポストプレーヤーとして大きく括れる平山相太高松大樹だが、細かい部分を見るとタイプは違う。

平山相太は身体を張るパワーの強さと足元の技術を利用して、前線でボールをキープし、時間を作れる。そして、自分の近くを曲線的に動く選手、その動線上に置いてあげるような叩きが得意な選手。対して高松大樹は、平山ほどに足元でキープ出来るわけではないが、平山よりもパスレンジが広い。右サイドでクサビ受けたのを、ひょいと反転してして左サイドに大きなパスを出すことが出来る選手だと表現できる。

これが例えば城福東京であれば、時間を作るという重大なタスクをこなせる平山が重用され、高松では出番があるようにはイメージ出来なかった。しかし今の、選手に直線的に裏のスペースに大きく飛び出していって欲しい大熊東京においては、むしろ高松のほうが相性が高いかもしれない。

これにキープ力が図抜けているトップ下梶山陽平・SH谷澤達也を起点として、運動量をもって一気にゴールに襲いかかる。梶山にボールが入ったのをきっかけに、高松・谷澤・鈴木達也が一気にゴール目がけて走り、さらには徳永悠平米本拓司ボランチどちらかがフォローに走り、サイドからは待ってましたと阿部巧がダイナミックに駆け上がる。この攻撃は相手にとってかなりの脅威だと思う。

また他方で、切り替え直後こそが縦パスの狙い目だと選手に植えつけていることもあるので、そのパスミスがあった際は逆に決定的な再カウンターを受けやすい面もあると思う。ランで相手ゴール前にかかろうかというタイミングでのパスミスは致命的になる。”やってはいけないパスミス”のシチュエーションは俄然増えた。その際に阿部巧の裏を突かれることもあるだろう。これはこれから一生付きまとっていく問題として、守備陣は確認し続けていくことになるだろう。

飛び出して行くことと、分厚いフォローランを周囲がサボらない姿勢は、大熊監督が小平で徹底して練習してきたこと。面白いのは、今の東京は選手がボールホルダーを呼ぶ声が非常に多い。ホルダーに対し選択肢を与えるランを周囲が忠実にこなしつつ、かつ「俺を使え!」と多くの選手が呼ぶ。これは今までになかった大きな変化。このスタイルに選手も手応えを感じつつあるのではないだろうか?

その成果がTMレベルでは実現するようになってきたのを確認できたTM明治大学戦は、非常に収穫が多かった。チームづくりの段階が一つ登った様に感じる、非常にポジティブなものだった。これだけ提示できていれば、その形の中で次の段階として、パス精度を、そしてフィニッシュも堂々と問える。

これが千葉相手にどれだけ発揮できるのか?また千葉がどう守るか?

そして後半には、”怪物”ロベルト・セザーが満を持して登場する。

非常に楽しみだ。


最後に一応、東京のみだが予想スタメンを。TM明治大学戦の布陣。

−−−−−−30高松−−−−−−
39谷澤−−−10梶山−−−11鈴木
−−−−7米本−−2徳永−−−−
26阿部−6今野−−3森重−33椋原
−−−−−−20権田−−−−−−

羽生をボランチでスタメン起用し、徳永ボランチパターンを逃げ切り用として残しておくスタメンも考えられる。羽生と徳永、どちらをボランチとしてスタートさせ、どちらのパターンを残しておくかで、大熊監督の思考が覗けるかもしれない。

途中出場としては、まず9ロベルト・セザー。試合勘はまだ分からないがコンディション的には抜群なので、またセザーがそういった勘的な要素で左右されない武器があるので、どういう場合でも投入はあるだろう。さらに攻撃的に行く必要があるならば”セザーの恋人”大竹洋平も当然出番がある。対人に強く攻撃でも前に飛び出せる中村北斗は攻守両面で投入しやすいカード、逃げきり布陣として弾き返し役にアンカー高橋秀人を入れた完全守備シフトもある?


この1ヶ月近く、J再開戦の相手がジェフ千葉だと決まってから、それこそ1ヶ月ぐらいはずっと千葉戦のことを考えてきた。千葉戦のための準備をしてきた。

実際に現地でボランティア活動をしてきたサポーターには尊敬の念しかない。安全な試合運営のために新しい仕組みを模索し作成してくれたクラブスタッフには感謝しかない。そして、選手スタッフ。コンディションを整えたり、チームの熟成を進めたり、オーロイ人形を作ってみたり(笑)けど、どれもが、それぞれの立場でやれるベストだったはず。その上で成り立つ今週末は、感謝と祈りの週末となる。

サッカーのある日常。サッカーのある幸せ。

それを守る戦い、取り戻す戦いが始まる。

今週ずっと、楽しみで仕方がなかったよ。不思議と、負ける気がしないもんだね。