FC東京アカデミー応援企画2024ありがとうございました

【サッカーの話をしよう】

FC東京トップチームの試合で、今まではあまり見られなかったシーンがあった。先制された際、試合再開までの短い時間にピッチ上の選手が1箇所に集まって話し合いをしている。後のインタビューによると、当初の想定と異なっていた部分を確認しつつ、その対策として立ち位置を変更するように擦り合わせをしたとのこと。

試合中に変更された、この「新しい位置取り」が見事にハマり、その後東京は試合展開を取り戻すことができた。HTを待たずにピッチ上で対策が話し合われ、新方針が統一され、成果が出た素晴らしいシーンだった。

片や、アカデミーのある試合においても同じ様なシーンを見かけた。リードした状況で失点し、その際には同じく集まって話し合いがされたものの、こちらの試合ではその後さらに失点してしまい逆転まで繋がった。この時、1失点目では集まって話し合いがされていたのに、以降の失点の際には集まることがなかった。

話し合いを行うかどうかの判断は、ピッチ上の選手たちに任されていたのだろうが、スコア推移を見れば、後のほうこそより話し合いが必要だったように思えた。同点とされ、追加点を狙いに行くのか、守ってドロー狙いとするのか。狙う勝ち点はいくつなのか。その統一が効かずに逆転までされてしまう。

しかし面白いのは、逆転されたことで、今度はむしろ選手各々が開き直る方向で自然と意志が統一され、そこからチームは猛攻を仕掛けることになる。そしてラストプレーでまさかのゴール、試合は同点で終了となった。意志がバラけてしまう弱さと、揃う強さ。チームスポーツはこれだから難しい。

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FC東京U-18では今年、大きな組織変更が行われた。奥原崇前監督がトップチームコーチに異動し、入れ替わる形で佐藤由紀彦が監督に就任。奥原前監督と同様のクラブレジェンドは、トップチームコーチを務める前はU-15むさしコーチだった。

監督の交代により、表現されるサッカーにも変更が見受けられた。パスはダイレクトで当てる・落とす・展開するといった志向が伺え、また展開先となるサイドにボールが届けられると、大外やポケットを意識した関わりをもってサイドを攻略。あくまで現代的なエッセンスも加えつつもサイド攻略からのクロスで得点を狙う一連は、ユキヒコ監督によって表現される新しい「文化」なのかもしれない。

だがもちろん、就任したて、変えたてなのもあり、その文化はまだ脆く、脆弱な状態と言える。

所属する高円宮杯プレミアリーグEASTは、夏までに半分の11試合を消化。3勝4分4敗の勝ち点13は、降格圏は回避しているものの油断できない9位。下位グループの中では引分数の多さが目立ち、勝ちきれない、勝ち点2を落としているような印象。新しい形は見えつつあるが、枝葉の多彩さ、幹となる部分の太さ逞しさはまだまだ足りていない。

それでも夏の全国大会を戦うことで、その点も改善のきっかけが見え始めた。クラブユース選手権は今年、酷暑対策として、これまでの群馬開催から堺・山口・宮崎を加えた全国分散開催となり、全ての試合が夕方以降のキックオフに改められた。また、グループステージから次に進めるのは各組1位のみというレギュレーション変更もあった。FC東京U-18は勝ち点6のグループ2位、昨年までであればノックアウトステージ進出に十分な戦績だが、今年は残念ながらGS敗退となってしまった。

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失点時に選手で集まって話し合いを行うという試みの、その後の展開が大きく異なったこと。あえてそこに要素を絞って、結果の分かれ目を妄想してみるならば…どちらも話し合いはされているのだから、違いはその「質」となるだろう。

コミュニケーション。このコミュニケーションが何より難しい。

先日行われたパリ五輪、女子やり投で金メダルを獲得した北口榛花のエピソード。曰く、3ヶ月前に五輪出場どころではない重大なアクシデントがあり、その解決のために北口は、チェコ人コーチのトレーニング方針を拒否する必要があるとの結論を出した。

その結論をコーチにどう伝えるか。当のコーチは北口躍進の中心人物であり、今も全幅の信頼を寄せている。決別という最悪の事態は絶対に避けたい。そのためには、相手は言葉も違うから、慎重に、何より感情的になってはいけない。チームで伝え方を何度もシミュレーションし、考える程に精神状態はズタボロになった。それでも意志を曲げずにキチンと伝えたことで、その瞬間には真っ向から対立したが、無事に着地点を見つけることができ、パリ五輪本番で最高の結果を勝ち取ることに成功した、と。

コミュニケーションを成立させるために必要なものとは「意志をお互いに持ち寄る」ことなのかもしれない。意志が片方にしかない場合、会話はただの「指示」になる。北口は、自身の身体と精密に向き合い、真剣に考え悩んだことで自分なりの意志を持った。

加えて、チームの在り方を非常に大切にし、意志をただ感情的にぶつけるだけの対立を作らないように、繊細かつ丁寧な対話力も併せて大事にした。単純な言いなりにはならない、でもワガママとは言わせないだけの思慮深さも十分に発揮し、その上でコミュニケーションから逃げなかった。その一連を何度も繰り返した。一流のアスリートは、これが出来る。

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チームスポーツのコミュニケーションはより難しさを増す。

円陣の場面で、各々が持ち寄った意志の質は果たしてどうだったか。そもそも11人それぞれに意志はあったのか。プレー中にも、ユニット間で「指示」だけでなく「コミュニケーション」が必要な場面は頻繁に訪れるはずだ。必要なタイミングを逃さずに、何を話せるか、どうやって話そうと試みているか。

様々に新しい文化を形成途中な今のチームであれば、なお、コミュニケーションの数が必要であるはずだが、そういった場面がまだ少ないように見える。

チームとして強くなるための「声」は、どういったものなのか。

サッカーは、予測・判断・決断・アクションを繰り返すスポーツだ。その繰り返しの中で各々が意志を作り、その意志を味方同士でぶつけ合う。でも欲しいのは文句みたいな声でも、遠慮しながらの声でもない。先輩からの、後輩からの声。もしくは、学年にしばられない声。ピッチの外でも。ピッチの中ならもっと。

コミュニケーションを繰り返すことで、ようやく新しい文化にも枝葉の多彩さ、幹の太さ逞しさがついてくる。戦う、戦える集団はそうして創られる。

サッカーの話をしよう。まだ足りない。もっと、サッカーの話をしよう。今のFC東京には、もっとサッカーの話が必要なんだ。

 

暮れの元気なご挨拶(単に取り掛かるのが遅いだけ)。

FC東京U-18・U-15深川・U-15むさしと、アカデミーを勝手に応援するこの企画。参加いただきました皆様、ありがとうございました。そして今年も、Tシャツと一緒にレポートを同封する機会を頂き、今回は上記の文章を送らせていただきました。

いきなり私ごとになりますが、今年の前半はあまり試合観戦に動き回ることが出来ませんでした(足を骨折したww)。なので、書くにあたって諸々考えるきっかけになるような観戦機会が、そもそも非常に少なかった今年でした。

その中で何とか観戦機会に恵まれたのがU-15深川。例年になく深川を多く観戦するという、自分からすると特殊な年となりました。文章の中で取り上げていた「アカデミーのある試合」でのエピソードも、深川の試合で見かけたものでした。

この、失点時に円陣で確認しあう作業は今までのアカデミーでは見かけなかった、新しい良い試みだと思ったからこそ、そこに正しく意味が込められて欲しかった。そしてそれは深川だけでなく、U-18にもむさしにも波及して欲しかった。
そしてこの試みは、奇しくもトップチームにおいても松木を中心に同様に行われたりもされた。ということで、この件が今年の原稿の中心となりました。

 夏が終わり、中断されていたシーズンが再開。自分はまだリハビリ中だったので観戦機会は戻ってなかったですがww U-18や深川・むさしでも、Tシャツが届いた後の試合では、失点した後に選手たちが集まって話し合いがされる光景が見られたそうです。この原稿を送った身としては、勿論、失点しないに越したことはないのですがww やはり素直に試みてくれたことの嬉しさもありました。

ただ、書いた通り、求めているのは『質』。

今年多く観戦したU-15深川は、結果的には早い段階で関東リーグ1部から2部への降格が決まりました。リーグ戦の順位は嘘つかない、だからこそその通りに、本当に難しいシーズンでした。様々な細かい掛け違いが、チームとして大きな「負のモメンタム」に。それに抗いきれない、もどかしさや苛立ち。集団としても上手くいっている感じがしませんでした。

その中でも、例年より多く見たからこそ、ピッチ上で飛び交うコミュニケーションが徐々に良くなっていく変化の過程も見ることができました。

もちろん、足りない。何より、取り組み始めたのが遅い。

今となっては降格という結果は取り返しがつかないけれど、ただ選手たちはその現実を徐々に受け入れ、それでも今せめて何ができるか、成長と、目指す目標に向けて、自身をどう変えられるかに向き合えていました。変な言い方かもしれないですが、今年後半の深川は、変化や成長が期待できる「良い負け方」を各々が作れていたと思います。

そして今年のチーム最終戦となった高円宮杯東予選は、十分に胸を張って良い、悔しさを持つに相応しい出来だったと思います。

人によってサッカー観戦や選手たちを応援する動機は様々でしょうが、ただ単に強いから、勝てそうだから、という理由であれば深川の試合をこんなに見にはいかなかったでしょう。自分なりに、ちゃんと見届けたいな、変わるかな、変わって欲しいな、変わりそうだな、じゃあそれを応援したいなという想いが湧いたからこそ、リハビリも終わってサッカー観戦にウロウロできるようになってからもww 今年の深川を観戦したい、応援したいという気持ちになったのだと思います。

個人的には、ものすごく気付きというか『原点』を思い出させてくれた2024年でした。FC東京アカデミーに関わる全ての皆さま、24年も本当にお疲れ様でした。

来年は、選手も監督コーチもスタッフも、少なくとも質も量も今の3倍は、「サッカーの話」をしてくださいね。マジで。いや、マジで。

「平凡なチームってダメなときに集まって、ダメミーティングするんですよね。で、『頑張っていこう』になりがちなんですけど、本当にいいチームって、いい時にそれができるんですよね」

「チームがいい状態、強い状態。当然、結果が出ているので『明日も頑張ろう』になりがちなんですけど、そういう時こそ脇の甘い感じとか、俺たち勝ってるけどスキあるよ、と厳しいことを言い合える、次にまたいける。それが僕は一番強いチームだと思っているんですけど」

「(理想のチームとは)本音で言い合えるチーム。これが強いチーム、いいチームにつながると思います」