'25シーズンの開幕にあたり、2つの記事を書いた。
言いたかったことは3点。
- リーグ優勝のために求められる、明確な「守備レベル」が存在していること
- クラブが「One More GOAL」を掲げるとしても、リーグ優勝を本気で求めているのならば、その守備レベルを満たしつつ達成しないと意味がないこと
- その「攻守」の構築を、松橋力蔵新監督は(実現できるのかはさておき)少なくとも考えようとしているか、という観点の提示
これを『開幕前』に言っておきたかった、ということなのだから、そこにはやはり「疑い」があった。単純に松橋監督のことをよく知らないってのもあるし、近年のFC東京っていうクラブのサッカー観を大して信用してないからってのもある。
それが蓋を開けてみたら…その懸念とは真逆のスタートとなった。
6試合を消化し、失点数は1試合平均で0.83。得失点差マイナスのため失点数に悪印象を持たれかねないが、実は優勝ラインとなる1.00未満の状態にはある。
方や得点数は1試合平均で、0.67。優勝ラインである2.00前後には明らかに届いておらず、むしろ得点数最小の横浜FCに次ぐ結果となる。
失点数が優勝ラインを満たしているクラブは現時点で12クラブもあり、この値が特別という訳では無い。今後シーズンが進めば、選手の疲労や怪我も出てくるだろうし、相手クラブによる対策も詰まってくるだろうし、何より気候がより厳しくなる。『現時点』でこの失点数だと、年間傾向として考えた場合に実は物足りないのかもしれないが…そこはちゃんと調べていないためよく分からない。
なので年間傾向には一旦、目を瞑るとして。それでも守備に関しては、個人的には印象良いことには変わりない。
- 3バックの採用
- 相手チームのスカウティングとその対策への注力具合
開幕前は、そもそもこのチームは守備に目を向ける気があるのか、そこから疑問だった。そしてもし向けたとして、どれくらいの意識やレベル感で向き合うのか。プレビューを書くくらいには強く抱いていた懸念は、現時点ではいい意味で裏切られている。
もちろん現状、守備に注力し過ぎているせいで、逆に攻撃側の不足を強いられている可能性は否定できない。首位の鹿島アントラーズが12得点している中で、FC東京はたった4得点のみ。得点数不足は大きな問題に違いない。しかし、だからといって現時点で守備への注力度合いを落とす訳にはいかないだろう。J1リーグ優勝のための要求レベルがコレ(むしろコレ以上)であるならば、これだけのカロリーを強いられている現実を甘んじて受け入れ、この基準を維持し続けていくべきだろう。
観戦している中で、自分はこれだけFC東京に守備を求めておきながら、そういえば「良い3バックの守備とは果たして何なのか」がよく分かっていない事に気づいた。そして、その格好の勉強材料が、いま目の前で対戦している湘南ベルマーレなのかもしれない、とも思うようになってきた。
湘南の守備で感心したのは2点。
1つは、DFラインの細かい押し上げ。
相手チームのボールの状況、具体的には東京のボール回しにおいて一時的に後ろに下げる、もしくはボール保持者がそのために後ろを向く、といった状況に応じて、DFラインが少しでもラインを高くしようと細かく上下動が行われていた。
そしてもう1つはアンカー脇への対応。
湘南の布陣は1ボランチの3-1-4-2。そのアンカー両脇は分かりやすく狙われどころになる。ましてや東京は、2シャドーがDFからのパスを引き取る動きを積極的に行うため、湘南のアンカー両脇に、仲川と俵積田はそれこそ愚直なまでに立っていた。
感心したのは、湘南はその両脇に立つ両名をある程度スルーしていたこと。彼らをケアするために、湘南の2IHである小野瀬・平岡が容易に落ちてくるなんてこともしない。そして、いざそのアンカー両脇にボールが入ると、1ボラ奥野は躊躇なく横移動でボールホルダーにアタック。そして空いたアンカーエリアを、後方3DFの誰かがシステマチックに埋めていた。
あくまでブロック堅持が優先。両脇が使われることなんぞ分かってるし、その時の対処も備え済み。ブロック縦幅を縮めるためのDFラインのプッシュアップも、誰かの指揮を要するまでもなく全員で徹底。チームとしての仕組み化、そして徹底が透けて見える代物だった。
守備の要求レベルを満たすための手段として、5バックは、より「人を割いて何とかする」手段と言える。DFラインに4枚いるのと5枚いるのとでは、チャレンジ&カバーの難易度がまるで違うし、守備に長けた本職CBを何枚ゴール前に並べられるかも変わってくる。4バックに比べて5バックは、事の単純さは大違いだ。しかし後ろに枚数をかけるのだから、その分だけチーム全体が後ろ重心になりがちにもなる。
言わずもがな、これは現在のFC東京の状態のことを指す。3バックのお手本と言える湘南の守備組織と照らし合わせてみると、FC東京にはDFラインのプッシュアップは皆無だったから、試合終盤では湘南が押し込むのをローブロックで構えることになり、いざボールを奪ってもそこからだとロングカウンターにならざるを得ない構図だった。
勘違いして欲しくないのは、東京の今のこの状態を、自分は好意的に捉えているということ。何故ならばFC東京は、5バックを選ぶことで、少なくとも要求される守備レベルを満たそうと取り組んでいるから。要求レベルにまで引き上げようとすらしなかった近年、もしくは「One More GOAL」を免罪符に攻撃全振りで守備完全スルーとまで予想していたのに比べればだいぶ良いと思う(アルベル→ピーター時代のせいで自分のハードルが激低くなっているのも確かだが)。
守備の要求レベルをようやく満たせたのをもって、じゃあ攻撃の要求レベル(=1試合平均2得点前後)をどう併せ持ちますか?というのは守備レベルを満たしたことで話をスタートできる『次の話』だ。次の話に進められるだけ、今年のFC東京はここ数年に比べれば相当良い。
攻撃の要求レベルをどのように併せ持つか?そのやり方は色々ある。例えば、後ろ重心のまま、数少ない前線だけで完結させてしまうくらいの「前線の個」を備えることも一つ。もしくはロングカウンターの長距離を埋められる様な選手を起用していくことも一つ。前線の個の質に不満を強く感じてしまうのも、長距離をスピード・パワーを活かして成立させてしまえそうな佐藤恵允が待望されるのも、後ろ重心の現状なのだから当然の流れだろう。
けど個人の好みで言えば、湘南ベルマーレのように組織守備を洗練させていく方向を求めたい。
湘南ベルマーレはFC東京と同じ3バックで、同じ失点数。要求レベルは同様に満たせている状況にある。
しかし湘南の場合は並べるCBが、高校時代はボランチだった鈴木淳之介と、サイドの攻撃的な選手である鈴木雄斗。そして前述の通り、2列目中央を担うボランチが湘南は1枚のみ。それなのに、東京と同等レベルを満たし、加えて東京よりも3得点多い7得点を挙げている。
つまり、組織守備を洗練させていくことで、例えば岡哲平・土肥幹太といった本職CBを並べずとも、より攻撃に特長のある選手を起用することができるかもしれない。中盤の底をヤン1人に任せられれば、橋本拳人をより前で起用できるようになるかもしれないし、湘南の鈴木章斗・福田翔生みたいに前線を2トップで組ませることも可能になるかもしれない。
守備を洗練させていくことで、結果としてより「攻撃的」な構えを創り得るのである。
ここで思い出されるのは、マッシモ・トーキョーの4-3-1-2。ゴリゴリのカルチョイズムでカッチカチの守備型スタイルに見えたが、マッシモは事あるごとに「守備時に前線に3枚残した、これは『攻撃的布陣』だ」と主張していた。あの年の東京が攻撃的だったとは、今でも全く思わないがww だが、ここまで書いてきた考え方を踏まえて主張していたのだなというのが、今では少しは理解出来るかもしれない。
湘南ベルマーレに「次の話」のきっかけを感じ、今後の力蔵トーキョーについて様々な妄想を掻き立てていたところで、先日の福岡戦ではまたしても要求レベルを満たせていない、安い試合を観ることになってしまった。
スカウティングのミスなのか、もしくはメンバー構成の問題なのか。まだまだ安定したレベルキープは望めない、そんな現実が露呈した試合となった(1失点だけで見れば許容範囲なのかもしれないが、その中身は鹿島戦・湘南戦とは大きく異なっているように見えた)。
そう簡単に「次の話」には進ませてくれない、ということか。トランキーロ、はいはい。
力蔵トーキョーとしては今後、まずは安定的に守備を基準レベルに保っていけるのかが直近課題となるだろう。
そしてそれが当たり前になり、ようやく次の話に進めるとなった時に、次は「守備への注力カロリーを下げつつ、しかし同等の基準レベルを保ち続ける」事を求めたい。
そのために、果たしてどういった手段を取ってくるのか。組織で解決するのか、人で解決するのか。これは現場の問題であり、クラブの問題でもある。
もしくは次なんてものは実はなく、今見えているここまでが既に頂点であり限界だったりする可能性だってあるだろう。力蔵さんの引き出し的にも、近未来に訪れる賞味期限的にも、そしてクラブのカネ的にも。それはその時に蓋を開けてみないと分からない。
ただまぁ、どちらにせよ蓋を開けるところまでは出来そうな状況ではある。そこまで進められそうなだけ、まだいい。近年に比べたら、相当いい。
そういう期待、もしくは興味。
こんな感想を持てている程度には、今年のFC東京を『線』で楽しめそうな気配は感じている。