篠田監督が失敗した「台本」と「アドリブ」の潮目 レビュー FC東京-浦和レッズ

負けてイライラしたときは、ブログを書くに限る。だからたまにはマッチレビューでも書き殴ってみる。

 

1-0でリードしている場面で、さてどう考えるか?

重要なのは、もう1点獲っていれば「勝っていたかもしれない」が、1-0を守り切っていれば「確実に勝っていた」。似ているようで大きく違う、この重み。確度のレベルを正しく理解しないといけない。橋本拳人の1vs1を決めていれば、勝利に向けてだいぶ楽だったのには間違いないが、それが勝利を確定するものではないということだ。

篠田東京は、1-0を守り切り「確実に勝つ」ための策を取った。4バックから3バックへの変更が試合中に選手に伝わりきらずにあたふたしたここ数試合に比べれば、今日の丸山・秀人投入とシステム変更は実にスムーズに行われたのを見るに、それは今週行われた非公開練習時に予め用意していたものであろうと推察する。

この策をどう捉えるか?がこの試合の肝となるが、その前にひとつ定義を引く。

ピッチ上での変化・流れへの応急手当・アドリブ的なニュアンスを「采配」という言葉に込めるのであれば、事前に試合に向けて準備された策は「スカウティング」の類と表現するほうが相応しい様に思う。今回の3バックはこの定義に照らし合わせると、采配とは別モノの「スカウティング」に当てはまる。

また、前半から見せたあのオールコートプレス、というか嵌め込み守備、これもまた事前準備による策「スカウティング」だっただろう。西川にボールを戻させて、保持した時点でショートレンジのパスコースを全て塞ぐ東京。ただし西川は日本で随一の足下の使い手、視野をミドルサードまで広げて中距離砲で「味方へのパス」を狙う。そこを東京が前への圧力を伴わせて接点での戦いを挑み、結果ボールを奪い取る。西川の上手さが無ければ成立しないこの手法は、浦和相手に見事にハマった。

しかし、そこは池田誠剛に鍛えられてきた我らがFC東京である。90分続くわけがない。前半の華やかな攻撃姿勢が90分続けられれば話は単純だったが、どこかで割り切って構えるしか無い時間帯は必須だったのだろう。誠剛タイムこと60分以降のくだりは篠田監督就任後、何とかリカバー出来つつある印象もあったが、そういうわけでも無いらしい。

この前提を忘れてはいけない。吉本、河野の試合後コメント。

5枚になるまでは変わらず頑張っていこうという感じでいましたけど、正直体力的にも相当きつかった。後ろも前も。やっぱり4枚で5枚を見ているから、スライドを相当早くしなければいけなくて、走行距離が相当あって、あのまま最後までは体力的に絶対に行けなかったと思う。

トーチュウ超早版|吉本「あのまま最後までは体力的に絶対に行けなかったと思う」(9月17日・浦和戦)|365日FC東京モバイル

 結局、東京がこのマッチウィークで事前準備する策としては、「西川シフト」と「5-2-3」はセットでなければならなかった。そして片方のみではスカウティングとして成立しないことは、試合前から監督も選手も理解していた上だったということだろう。

その状況の中で、やれ「翔哉を残しとけば…」やれ「あのまま4-4-2でやっていれば…」それらが全て空虚でしか無い事は明らかだろう。

ここまでが、浦和戦に向けて用意をしていた「台本」である。そして試合は当然、時間が進む毎に徐々に台本から逸れ始めていく。事前と実際とのグラデーション、「采配」の領域が徐々に色濃くなり始める。


采配の領域としては、まず必要なのは台本の賞味期限をどう見極めるか?となるだろう。

それは90分のリアルタイムの中で、ピッチ上の流れを見極める作業となる。モリゲの(今となってはあまりに謎な)痛がり方から始まり、東京の選手の疲労度合い、相手のコンディション具合、決めておけばだいぶ楽になっていたであろう拳人の1vs1、もはや同郷の西川しか構ってくれない慶悟の痛がり、クソ野郎でしかない森脇など。細かい潮目を見極めながら、どう判断するか?これは完全にスタッフの領域となる。

その結果として、58分での丸山投入。策自体はスカウティングだが、そのタイミングまでもが策なのかもしくは「采配」だったのかは重要な所だろう。前述の通り、誠剛タイムを気にして台本に時間も書かれていたかもしれないし、グラデーションの中で予定よりも早めたアドリブだったのかもしれない。

篠田監督の試合後コメント。

少し早めに形を変えた。(中略)練習ではやってきたので、1点を先に取って、2点目を取って終わらせれば(良かった)。そこの見極めは私がミスをしたなと思いました。

監督コメント/FC東京vs浦和の試合結果・データ(明治安田生命J1リーグ:2016年9月17日):Jリーグ.jp

雰囲気としては、タイミングに関しては後者の領域だった様に伺える。ただこれはリアルタイムで受けた現場の肌感が尊重されるべきだろう。実際、後半立ち上がりから浦和の圧力に押されている展開は続いた。ピッチ上の選手たちのままで抗える素振りも無かった。一刺しするパワーが河野・翔哉に残っていただろうか?(前節の「死んだふり」があるだけに、そこに一縷の望みを託したくなるのも分かる)。采配した当人が(少なくとも表面的には)ミスとして自覚的なのであれば、今回はそこまでとして構わない話だと個人的には思う。


それよりも、試合を見ていて感じたのは、浦和としてはむしろ相手がミラー的に来られた方のが敵を剥がしやすそうだなということ。後ろ重心の東京の手前で、スパスパとサイドチェンジがやりやすくなった。これまで対策され続けてきた経験もあるだろうし、東京のガス欠も著しかっただろう。ミラーに構えることで戦況は個vs個に移行していくが、それは浦和としては待ってましたの流れだったのかもしれない。

この潮目をどう見極めるか?用意した台本があまり効果的では無さそうだという空気。こちらの方が、より「采配」の領域として、思案の為所であったと思われる。そして、同点。台本は一気に崩れた。


選手に体力は無い。攻撃を作れる選手もいない。打ち手もかなり限られ、どれを採用しても率直にあまり効果も期待できない状況。しかしここはホーム。まだ同点。故に、どう「采配」するか?ここは100%アドリブを試される場面だった。

せっかく用意してきた台本を10数分で破棄するのは、シナリオライターとしては難しいところではあったろうが…それを個人的には期待しながら試合を見ていた。その中で、実際に取られた「采配」は梶山→インス。まさか5-3-2とは驚いた。FC東京ではこれまで、安間ヘッドコーチがU-23時代に4試合行っただけの布陣である。

ここ。采配においていきなり安間色が強い打ち手がされた事には正直驚いた。スタッフ間での合議制なのか、はたまた主導権的な内情なのか、透けて見えそうな何かに想いを巡らせながら…結果その安間システムは大失敗に終わる。EURO2016ではコンテ・イタリアも駆使していたこの美しい布陣も、インサイドハーフに移動した拳人・慶悟と2トップの前田・インスが4枚同時ウラを取りに走ってしまえば台無しである。

そのまま浦和の勢いを押し返す事が出来ないままに、逆転、そして介錯

 

試合全体を評するのであれば、「スカウティング」は一定の効果を生み、しかしフィジカルステータスが台本の摩耗を早めてしまい、その手当としての「采配」に失敗したというところだろうか。また個人的な感想としては、スカウティングで取られた策・発想自体は自分の宗派に沿うものでもあったから、そこに関しても何ら気にしてはいない。

もちろん本来的にはここでスカウティングの「質」というか、「3-4-3の常時5バック化」というクオリティ視点は必要ではあるが。特に安間システム時に両インサイドハーフが両ワイドに大きく広がるポジショニングを取っていた部分は、両WBのあるべき形を放棄するものでもあった。システム本来のキモである3バックと5バックのフレキシブルさを、チームが理解出来ていない事を示す現象だっただけに、大いに気になる箇所ではあった。

ただ正直ここは、篠田トーキョーも2ndセットとしての3バックも、やり始めてまだ間もないし…とするしか無いだろう。また、他にも池田誠剛だったりACLだったり城福解任だったりU-23成果への焦りだったりと、諸々の要素がありすぎなので判断しづらいところもある。

方や采配の部分は、アンテナの感度やそれを受けての応急手当に多少の不安は残りつつ、それ以上にスタッフ間のパワーバランスというか、スタッフがチームとしてどうワークしているのかが気になる所ではあった。また選手も選手で、采配・応急処置を受けて試合を見ていたそれを支える「メンタル」などは、もう少し見せてほしかったところではある。アドリブ力で乗り切ってきたマッシモ時代に比べれば、チーム全体としてそのパワーが削がれていた事実が、この試合で顕になった。


総じて、石川直宏のTweet。

 「プラン以上の更なるプランを皆で作り出せなかったのが今日の結果だと思う」とは、これまでダラダラと書いていた内容を端的に表現するには相応しい言葉だろう。これを自分なりな解釈で補助線を付け加えるのであれば「(台本)プラン以上の更なる(アドリブ)プランを…」とでもなろうか。

篠田監督は意図というかスタイルが単純かつ分かりやすいから、こういった際に外野としては何とも汲み取りやすい(だいぶ善し悪しでもあるが…)。少なくとも、混乱の中で適当ぶっこいてダメだった、もしくはただただ無策だったのとは雲泥の差がある。選手スタッフそれぞれが、試合自体への悔しさは強く抱えつつも「PとDが明確だから、Cはこれから行いやすいし、その上でAに進めばいい」と思えている様子は、この試合を振り返るに十分な評価だった様に思える。ただそれはほぼ「台本」についてのみ。アドリブ部分に関しては…

 チームが勝ち続けていくためには、必要なのは「台本力」と「アドリブ力」とその「潮目の見極め」。さて、篠田トーキョーは?その現在と未来が少し見えた試合だった。

 

…と、ここまで冷静ぶって書いておきながら、方やペトロヴィッチ監督のコメント。

考え方だが、特に相手が点を取らないといけない、そしてリスクを負って攻撃を仕掛けてくる。そういった中で受けに回ってしまったら時間の経過とともにその圧力にやられてしまうこともあるんじゃないかと思う。

監督コメント/FC東京vs浦和の試合結果・データ(明治安田生命J1リーグ:2016年9月17日):Jリーグ.jp

結局、この宗派のぶつかり合いこそが、サッカーの醍醐味だなと心に染みる。うるせぇよバーカそんなんだから肝心な所で負けるんだよペトロヴィッチはよぉ!と異教徒に喧嘩ふっかけたいところでもあるが、所詮自分は負けた賊軍なので、少なくともルヴァン杯準決勝まではおとなしく屁こいてウンコして寝る事しか出来ないのである。