「平岡翼の醍醐味」が突き付けた、U-23の存在意義 FC東京U-23 2019シーズンプレビュー

2018年のFC東京U-23の主役が平岡翼だったことは間違いないだろう。明らかなひたむきさと、確かな成長幅。それはU-23を見守り続けてきたサポーターに与えてくれた、U-23ならではの「醍醐味」だった。

2018年の翼のプレーとして思い出されるのは、夏の中断明けにホーム西が丘で行われたvsザスパクサツ群馬戦だ。但しそれはネガティブな意味で、である。

3トップのセンターに抜擢された翼は、両ウイングもしくは2シャドーを”担わされた”矢島輝一・原大智を従えて、最前線中央をスタート位置とすると、チームのボール保持時にはその位置から降りて相手ライン間ギャップでボールを受ける様な動作を繰り返した。

こうして引き出したボールを、どの位置にどのように止めるのか。それによって、どう相手の先手を取るか。そのためにどういった矢印を相手に事前に作らせるのか。こうしてターンに成功したら、叩いて自らまた前へ出ていく。この辺り、正直詳しい訳では無いのだが、いわゆる「フォルス・ナイン」というヤツだろうか。

もちろん、彼の特徴にも現能力にも見合わないプレーなのは明らかだ。しかし安間U-23はそれをチーム戦術として、彼に役割として求めたのである。また、その余波として輝一と大智には両ウイングというか2シャドーというか、これまた不慣れな形を強いる事となった。

この試合の内容は言わずもがな。全体の流れが停滞し、質としてはとてもプロ興行として成立していない様に受け取れた。方や、翼自身にとってはそれがその時点での課題だったのだろう。新鮮な面持ちでチャレンジしている様子は、周囲とのギャップもあり非常に映えて見えた。

数少ない小平での練習見学の際に見かけていた「安間塾」。通常練習に参加できない若手を中心に集められ、ピッチ脇で行われるいわば”補講”。ただ、外から見ていた自分にとっても、その取り組みは「問い」と「解」が明確な練習だったので、凄く勉強になったのを覚えている。選手にとっても、不足した能力をこうしてジャストに埋められる取組は有難いものであろう。今から数年前の話である。

この日の翼が、何かしらの課題を課され、その実地研修としての群馬戦であったのは間違いない。

ただ、その内容があまりにも基礎的な課題であった事に驚いた。がっかりした、という言い方のがより正しいかもしれない。

 

芸事を身に着けていくプロセスとして、日本には古来より「守破離」という考え方がある。

師からの教えをまずは忠実に「守」り、次にそれを自分なりに取捨選択し取り入れるために教えを「破」り、最後に自分なりの道を自ら進むために師から「離」れる。この3ステップの繰り返しによって、技術は継承され、積み重なり、芸事はさらなる高みへと向かっていく。

この試合においての、翼のプレーぶりはいわゆる「守」だった。しかも個人的には、その課題自体が第一種のプロリーグ公式戦に到底相応しいレベルだとも思えなかった。またその帳尻合わせのために、周囲にネガティブな余波まで背負わされる。

同時期、トップチームは夏場の連戦で急ブレーキがかかったタイミング。ニューヒーローの出現を、U-23の方角を見ながら待ち構えていた状況でもあった。そのようなタイミングで、ここ西が丘で、俺たちは何故こんなコッテコテの「守」を見せられるのか…?印象はだいぶ悪く映った。

それが、早い段階で彼が守破離の「破」に入ったように見えたから驚いた。難易度の高いフォルスナインではなく、前を向きやすいSH起用というアシストももちろんあっての話ではあるが…本来得意としていた裏を突く動き出しと、今回の学びとの2種類のプレーがセットで交わることで、「問いのプレー」が上手く「全体バランスの中の一つ」に落とし込まれた様に思う。加えて終盤にかけてはゴールという結果も伴うことで、その成長加速度はより増した。

結果、18シーズンのU-23においては一番の伸び幅を示してみせた平岡翼。自信が掛け算となりグッと伸びていく姿を見守れるのは、まさに「U-23の醍醐味」を体現する、主役の姿だったと言えるだろう。

 

そんな平岡翼ではあったが、2018年シーズンをもってFC東京とは契約非更新に。2019シーズンからは栃木SCで背番号11を背負い、新天地にて戦うこととなった。

個人的にはFC東京強化部の、その判断に疑問は無い。

彼の成長「幅」は確かなものだった。18シーズンの醍醐味でもあった。彼の”離”を19シーズン以降の東京で見ることが出来ないのは、醍醐味という意味では残念でもある。

しかし彼がその結果、プロサッカー選手としていかほどの「能力値」に到達したのか?はまた別の話でもある。基準となるのは勿論、J1リーグ。伸び幅は評価しても、絶対値が届いていたとは自分は思わない。

19シーズンで高卒6年目を迎える翼ではあるが、生年月日としては早生まれなため、U-23ラストイヤーは実は去年ではなく今年となる。OA枠に引っかからずにプレー出来るのは制度上のメリット。そういう意味では、彼を選手としてもう一年契約することも、確かに選択肢ではあっただろう。

だが肝心なのは、1年間のエクストラタイムのあいだに、彼が選手としてJ1の絶対値に到達するかどうか?だ。その末の、今回の強化部の判断なのであれば、それは尊重すべきものだろう。


決して、平岡翼という選手の可能性を否定している訳ではない。天性のスピードは、今でも、恐らくこれからも、他の誰にも比類ない。そこにプレーとして「緩急」の発想が加わった。ボールを置く位置を360度で考えられる様にもなった。すぐには難しいかもしれないが、数年後の彼がJ1レベルの選手になれる可能性は引き続きまだまだある。

方や、FC東京のトップチームは、長谷川健太は、J1レベルの選手が「今すぐ欲しい」。トップチームの昨今の停滞感を思えば当然そうでなければならない。

そこには、それぞれの時間軸の違いが、もっと大きな括りで言えば「文化の違い」が、トップとU-23との間に深く横たわる。そのまま成り行きで進める程度では、決して埋める事の出来ない差が。

それを我々は、平岡翼を通して改めて目の当たりにした。分かってはいたけど、理屈じゃ知ってはいたけど、その解像度も理解深度も人それぞれ異なっていたであろうものが、現実としてFC東京サポーターの目の前に改めて突き付けられた。

果たしてU-23とは何なのか?選手は成長できるのか?U-23って本当に必要なのか?

シーズンの最後に、まさに「3年一区切り」にふさわしい問いが向けられたと言えるだろう。クラブに対して。チームに対して。スタッフに対して。選手に対して。そして、サポーターに対して。

昨シーズンより残された「問い」に各自が悩むオフシーズンを経て、今週末よりいよいよFC東京U-23の、4年目のシーズンが始まる。

U-23監督、長澤徹。コーチ、佐藤由紀彦

新スタッフとなる二人であれば、彼らなりの「解」は示してくれるに違いない。ただし、こういった大事な部分を属人に頼ってしまっては、クラブはまた同じ過ちを繰り返す事になるだろう。

クラブにとって。チームにとって。選手にとって。そして、サポーターにとって。

それぞれの「解」も出揃わなければ、FC東京は強くなれない。

2019明治安田生命J3リーグ開幕節、vsギラヴァンツ北九州戦。トップチームの真裏で開催される試合だからこそ、確たるU-23の『存在意義』が必要なのである。