ポジションを「創る」戦い、という名の「ゼロ地点」 東京都クラブユースU-17新人戦決勝 FC東京U-18 vs FC町田ゼルビアユース プレビュー

2018年12月。年末恒例の愛知遠征。そのラストを飾るトレーニングマッチ対川崎フロンターレU-18戦は、のちに佐藤一樹前監督による退任前最後の采配だったことが判明する。コーチとしての2年間を経て、2014年よりFC東京U-18監督に就任。そこから始まった「第一次カズキ・トーキョー」は、2018年をもって一旦の終焉を迎えた。

年が明けて2019年1月12日。奇しくもトップチームの新体制発表会も行われた日。トレーニングマッチ対西武台高校戦より、新たなFC東京U-18がスタートする。後任のバトンを託されたのは中村忠。グラウンドに初雪が舞う中、「ミニラ・トーキョー」の幕があがった。

 

一樹さんと忠さんのタッグの歴史は、忠さんがU-15むさし監督からU-18コーチとなった2016年からの3年間。途中では忠さんがU-23監督に就任するといった「逆転現象」もあったが、所詮クラブにおいては「外様」であった両者は、クラブ内での立場を変えつつも互いに連携し、むしろ生え抜きスタッフよりも色濃く「青赤らしさ」をアカデミーに植え付けてくれていた様に思う。

そんな、U-18としての経緯も熟知した忠さんがU-18の後任監督ということもあり、果たして今後このチームにおいて何が残るのか?何が変わるのか?そんな変化具合を、個人的な観戦興味としてまずは据えていた。

19年に入り、TM西武台高校戦と新人戦三菱養和戦の2試合を見ただけではあるが、率直な感想を最初に言えば「わりと変わるもの、なんだな」ということ。

 

目に見える、一番大きな変化は「3-4-3」の試用だろう。

クラブ思想としては伝統的に、トップチームにおける「ハラヒロミイズム」の影響もあり4バック思想が強いと言える。それもあってか、これまでも青赤アカデミーにおいては3バック採用事例がそもそも少ない。

数少ない事例のひとつが、カズキ・トーキョーにおいて採用された、2014年5月~2015年末までの時期。

U-18監督に就任したばかりの佐藤一樹監督が、プリンスリーグ関東のリーグ中断期に試みた3バックは、これまで事例が少なすぎたのもあって非常に新鮮に映るものだった。だがそのチャレンジは”暴走アメ車”蓮川雄大の破壊力や、”メトロノームCB”高田誠也のコントロール力など、適した選手たちの存在もあって見事成功し、プレミアリーグ昇格を始めとして多くの結果を手にする事となる。

それ以来の3バック採用となるため、U-18加入時点では既に4バックが採用されていた新高3、高2世代は3-4-3に触れた経験がない。恐らく深川むさしのU-15時代でも機会は無かったのではないだろうか。

何より、新監督である忠さんに3バックの引き出しがあるイメージがそもそも無い。三菱養和の増子監督に「まさか3バックだとは(笑) 『アレ、中村忠、3バックできんの?(笑)』みたいな感じだったけど」とイジられる位だから、そういうことなのだろう。

そんな3バックのオプションではあるが、実は第一次カズキ・トーキョーのラストであった愛知遠征の中で、既に'19シーズンに向けて試用がされていた。2018年高円宮杯ファイナル覇者であり、カズキさんと勝手知ったる仲である沢田謙太郎監督率いるサンフレッチェ広島ユース相手にと、いわば最高の相手に対して、カズキさんにとっては数年ぶりに伝家の宝刀を抜いた格好。

'19シーズン構想として練られた3バックという「オプション」が、「カズキさん込みのスタッフ陣」で12月時点で既に検討・試用されていたという事実は、なかなか興味深いと言えるだろう。また、そのオプションがミニラトーキョーに切り替わって以降、更にアクセルが踏まれている状況も、である。

 

オプションの意図を探る。

例によってU-23への選手供出が不定期に(そして理不尽に)あると予想される中で、U-18としてはもちろん、戦い方が増えるには越したことは無い。だが、それでも「やり方」ってのがある。3-4-3をオプションとして”あえて”採用するには、それだけの意図がある。

3-4-3の布陣は4バックに比べて、SBというポジションが無くなり、CBの枠が増える形。つまり、U-23に昨年同様に木村誠二を供出し、CBが1枚不在になったとしても、むしろCBの枠を増やす布陣がオプションになり得る現状が、今のU-18にはある。

ただしそれは裏を返せば、SB陣が物足りないという評価でもある。誠二と同じくU-23に供出される可能性が高いバングーナガンデ佳史扶が不在の場合には、SBというポジションをそもそも無くした方が良いのかもしれない。3-4-3のオプション化は、そういう評価でもある。

じゃあポジションが無くなったSB陣は、3-4-3においてWBのポジションを狙えばいいのか?と言えば、話はそうすんなりもいかない。

3-4-3の両翼を担うWBというのは、言ってしまえば潰しの効きやすいポジションだ。例え当人に守備の軽さがあったとしても、チームとしてはWBをDFラインまでベタ引かせて、後ろに5枚並べてしまえば数の論理で一定の水準まではカバーができる。方や攻撃では、3バックが大外を1人で担うという性質上、独力での突破力や縦の強さが求められる。そのため、気質としてはSB的な選手だけでなく、同じく4バック時からポジションが無くなったSHや、むしろアタッカー気質の選手だろうと、据えてしまえば何とかなるポジションではある。

形が違えば、やり方が変わってくる。そうなれば、求められるものも変わってくるし、その結果として、選手起用の選択肢が変わってくる。

WBというポジションを争うのが、何もSB系の選手だけでは無くなってくる。SH系の選手も、はたまたFW系の選手ですら、その候補には挙がってくる。

実際、カズキ・トーキョー時代の3-4-3においてもWBは、シーズン前半はSB系の選手が起用されていたが、終盤ではFW系の選手が起用されたりもしていた。これは選手の良し悪しの問題というよりは、得てしてシーズン終盤になると”そういった選手が求められがち”程度の違い故の判断だった。

そんな些細な違いでしか無いが、それが選手にとっては出場時間を得られるかどうかの重要な分け目となる。WBというポジションはそういうポジションでもある。

 

チーム立ち上げ時期となる新人戦は例年、様々な選手起用法が試みとして行われ、選手もリーグ開幕のスタメンに選ばれたいがために、ポジション争いが過熱する。しかし今年に関しては、そんな椅子取りゲーム以前に、4バックなのか3バックなのかで、用意される枠も競争相手も大きく変わってくる。

4バックor3バックは現状もまだ試行錯誤の段階だ。だが現状であれば恐らく3バックの方が優勢だろう。どちらが採用されるかによって、選手個々それぞれに、有利不利は当然出てくる。だからこそ今は、ポジションを争うだけでなく、より上段の思想として「ポジションを創る戦い」が求められる。「争いたい椅子を、まずはテメェで用意してみせろ」という戦いが。

それくらいに、例年よりも大きなものが懸かっているプレシーズンな割には、肝心なチームの「元気」が足りないってのはどうなのかね。この戦い、その程度のエネルギーじゃ到底勝てないだろうなと、観てる側としては思うところだが。

方やTM西武台高校戦では、1本目が3バックで、2本目途中〜3本目が4バックで臨んだが、3本目では久しぶりに見る選手のSBとしてのプレーぶりが非常に良かった。ああいったプレーがよりハイアベレージで続けば、監督としても「これだけ良いのであれば4バックで…」ともなるだろう。エネルギー示したもん勝ちのこの争い、彼のような選手が多く台頭してくる事をまずは期待する。

 

良くも悪くも、チームは変わっていく。その変化量を測るためにも必要なのは、対象の「ゼロ地点」を掴むことだ。基準を掴まないことには、変化の度合いは分かり様も無い。

監督が変わり、否応なしに大きな変化がされるであろう、今年のFC東京U-18。スタートラインに立ったミニラトーキョーの「ゼロ地点」が、東京ユースサッカーの聖地・西が丘サッカー場で披露される。

 

2019年2月11日 西が丘サッカー場

FC東京オフィシャルサイトが試合の案内をしないので、町田ゼルビアのWebサイトから拝借しました。