第一次健太トーキョー総括 FC東京と長谷川健太とファストブレイクと

明治安田生命J1リーグ第12節、対横浜Fマリノス戦は、久々に食らってしまう負け試合だった。

青赤パークオンラインで石川直宏羽生直剛も「良いところが何もない試合」と評価していたけれど、自分から言わせれば「良いところが何も"無くなった"事が良く分かった試合」だった。今日の試合だけに限らない、これまでの健太トーキョーそれなりのスパンに対する想いを感じてしまっただけに、尚のこと重い。故に、食らう量も段違いだった。

4-4-2で臨んだこの試合。

戸田和幸が言う「繋ぐといった新しい取り組みというよりも、これまでの長所であった「強く速く」を前面に押し出した布陣」という評は間違いないだろう。内容の悪い3連敗を受けて、'19シーズンにクラブ最高成績を残した”ファストブレイク”に立ち戻ろうとした4-4-2。自分としても「たとえ4-3-3が厳しかろうと、4-4-2がある。'19ファストブレイクがある」と、あくまで"困ったときに立ち返れる場所”だった。

しかしそれは自分の見立ての甘さでしか無かった。立ち返れる場所だと思っていた'19ファストブレイクは、蓋を開けてみれば既に失われていた。それが、この試合で良く分かった。

 

'19ファストブレイクとは果たして何だったのか。改めて自分なりに振り返ると、その構成要素はこの3つとなる。

  1. 永井謙佑の驚異のX度追い+4MFの連動による前プレ、からのショートカウンター
  2. 林・森重・ヒョンス・橋本拳人という代表級4センター布陣
  3. 徹底した中央への絞りの意識により、強固な守備陣を形成

しかし、これでリーグタイトルに届かなかった反省と、加えて「ACL」「東京五輪」という'20シーズン特有の超過密スケジュールを乗り越えるために、「4-4-2とは異なるシェイプが必要」と4-3-3が導入される。

この4-3-3。あくまで'19ファストブレイクの延長上、派生形程度の形かと当時は考えていたが、今になって総括するとだいぶ異なるものだったと言える。

まず設計思想の時点で既に、3要素のうち1.が無かった。そもそもファストブレイクを成立させるためには、前プレがけん制に留まらずボールを奪い切れる代物、ショートカウンターにまで繋げられる代物でなければならない。しかし4-3-3化によって、4-4-2に比べて4MF→3MFと減る。そうなると、前プレ構成員が1枚少なかろうとも成立するだけの「何か」がプラスで必要だった。具体的には「両WGの加勢」もしくは「3MFでも成立するための何かしらのメソッド」辺りになる。しかし得点力アップという当初目的が優先されたのもあり、どちらのリカバリ策も現時点においても施されている様子は無い。もちろん当時は永井・東の稼働具合といった人的要因もあった。結果的に「奪い切れる前プレ」はこの時点で失われていた。4-3-3においては、前プレと言っても限定もしくはミスを誘発する程度の代物に抑えられた。

4-3-3スタート時点で、'19時代の成功要因のうち1.が既に異なる状況。それでも例え1.が無くなったとしても、それは奪ってショートカウンターの部分が変わるだけで、残った2要素によって何とか堅守自体は堪えることが出来ていた。ただ、そんな2要素も時間の経過と共に徐々に失われていくことになる。

…のだが、そこに目が向かない程に、'20シーズンは様々なことが起き過ぎてしまったし、その苦境を長谷川健太が抜群の「マネジメント力」によって何とかやり繰りし、乗り越えて”しまった”。ただその末にルヴァン杯の獲得にまで至るのだから、対価としては十分とも言えるし、健太監督のマネジメント力が今もなお国内屈指の逸品なのも間違いない。

 

3要素が全て失われていた事にハッキリと気づかされたのが、マリノス戦だった。改めて振り返れば、'19シーズンでは代表級4センターをゴール前にズラリ並べて、ある程度の尻拭いも担っていた布陣も、ヒョンスが抜け拳人が抜け、林が離脱しモリゲがCBから居なくなり、いつしか「波多野(児玉)・剛・オマリ・森重」と全メンバーが入れ替わっていた。

加えて、徹底した中央への絞りの意識も、その役割を主に担うSBが室屋→帆高→拓海と、こちらもまた入れ替わっていた。

意識したいのは、絞りを担うのは何もSBだけではないということ。「SBがクロス対応に出て行った際にDMFが下りて埋められるか?」チャレンジ&カバーの仕組みの有無も大きく関わる。思えばサイド対応を「3センターがひたすら頑張る」のマッシモ時代から、SBがアタックする形に変更したのも'19シーズンだった。

マリノス戦において、象徴的なシーンがあった。

色々と気になる箇所がテンコ盛りではあるが…重要なのは、サイドにボールを叩いてからペナ内へと侵入していく7エウベルを、森重が捕まえる気が無いことだろう。もちろん、こうして侵入するフリー選手を森重が捕まえない場面が、過去ここだけでない事はみんな気付いている。チャレンジ&カバーの原則整備、中央ゴール前で守備にしがみつく姿勢。これらがピッチ上の各所でまるで機能していない。その積み重ねが「リーグで18番目に多い失点数」となるのも必然だろう。

「堅守速攻の”その次”」を志向して、様々なことを試してきたのだろう。得点数は、実は今年もまぁまぁ取れてはいる。しかし、それ以上に「安い失点」が多すぎる。それが90分のゲームプランニングに大きな支障をきたしている。「堅守速攻の”その次”」と思っていたのに、その前に堅守速攻が崩壊しているし、さらにその前に堅守が崩壊している。

3要素を振り返ると、その多くは人的要因であることに気付く。'19ファストブレイクに立ち返ります、けどSBは中村拓海です、が成立するはずが無い。'19ファストブレイクが立ち返る場所だと思っていたのに、立ち返るための材料が既に消え失せていたのが現在だ。


4-3-3が確立する様子も見て取れない。4-4-2で'19ファストブレイクも再現できない。健太トーキョーの3年と少しの期間で構築してきた2つの選択肢が、どちらも先行きが一気に見えなくなった。

青赤パークオンラインでも、試合後の振り返り時にコメント民が「そんな事よりも答えを教えてくれや」と騒いでいたが、選択肢自体が大きく揺らいだのがあの試合なのだから、選択肢に対して処置できる答えなど、そう簡単にあるわけが無い。

そうなると必要なのは「新たな選択肢を再度ゼロから作り直す」こととなる。

逆に言えば、新たな選択肢がどれでも選べる分だけ、答えは無限に広いw イケイケガンガンでもムービングでも、ワンツーでもカテナチオでも。今であれば何を選んでも当分は正解だ。

…と、こうしてかなり初期段階な手段選定ステータスに逆戻りとなると、じゃあ果たしてその時の監督は誰であるべきなのか?長谷川健太監督のままでいいのか?という話にもなってくる訳である。

 

個人的には長谷川健太という監督が大好きだ。志向するスタイルが非常に自分の好みとマッチしているというのもあるが、単純に監督としての実績と実力と、そして'20シーズンに猛威を振るったマネジメント力とで、これ以上の監督は早々いない。

方や、健太トーキョーの賞味期限が確実に近づいている事も実感している。言葉が選手に響かなくなってきている。言う内容が変わったわけではなく、選手が慣れ、飽きている状態にも見える。こうなると、'20シーズンに比べて脆弱化したスタッフ陣が途端に心許なく見えてしまう。

どちらの感情も複雑に混ざり存在する中で、果たして次の選択肢をどうすれば良いのか、自分にも正直分からない。

ただ少なくとも重要なのは、長谷川健太を引き続き据えて、再度ファストブレイクでリーグ優勝を狙うとするのならば、それはあくまで'19ファストブレイクであってはならないということ。「厄介な成功体験」に引きずれらずに、模索し、試み、失敗し、改善し、を繰り返し、新たに構築された'23ファストブレイク?でなければならない。

だから例えば「ファストブレイクの再構築、を次の選択肢として据える事に決めました。そうなると、長谷川健太監督との単年契約は、変更されたミッションと契約内容がリンクしていない事態となりました。なので(賞味期限も実感してるけど)長谷川健太と新たに複数年の契約を更新しました」となれば、その判断が合っているかは正直わからないけど、理屈が伴った判断とアナウンスだからクラブを支持しようとなれる。

それくらい、丁寧かつ慎重な旗振りがクラブに必要な状態に、いよいよなってきたのだなと思う。もちろん、そんな強い意思も行動力もコネも欠けたクラブであることは既によく知っているのだが。