2018 J3リーグ第30節、グルージャ盛岡vsFC東京U-23。
後半途中から安間監督は布陣に手を加える。オーバーエイジとして出場していた富樫敬真と前田遼一の位置を入れ替えた。左SHを務めていた敬真はFWに、かわりに遼一は左SHに入る。
これが強烈にハマる。前半0-0だったのが、後半2ゴール無失点。安間采配がドンズバに決まる。敬真と遼一、両者にとっても気持ちよくプレーが出来たということだろう。
何といっても左SH前田遼一だ。
身体を背負う強さとボディバランス。ボールを置く位置に感じるインテリジェンス。派手さはなくても確実に相手の逆を取り、そして丁寧な技術でパスを届ける。FWとしてボールプレーヤーであり続けたその振る舞いが、そのままサイドの位置でも遜色なく輝く。収めどころ、起点がFWだけでなくサイドにも置かれ、それがチームにも好循環を生み出す。
思い出すのはルーカス・セベリーノ。彼もまた体格を備え、ボールプレーヤーであり、多くのゴールを生み出してきた選手だが、FWとして戦い続けるには難しい年齢に差し掛かってからはSHとして存在感を発揮。34歳で引退したラストシーズン、J1リーグ戦34試合11ゴールは見事の一言に尽きる。
そんなレジェンド・ルーコンと、この日の前田遼一が重なって仕方がなかった。
考慮しなければならないのは、対峙していたグルージャ盛岡の力量だろう。J3リーグはAクラス、Bクラス、そしてCクラスとチームの力量がはっきりと分かれる。17位中16位に位置する盛岡はハッキリとCクラスのチーム。実際この試合で矢島輝一は相手の力量を測ってか、GK波多野豪からのゴールキックを、多くの場面で胸トラで収めようとしたし、実際に多く成功もしていた。それを考慮すれば、そりゃ前田遼一の力量であればどのポジションだろうと…
それでも、そのプレーぶりをクラブレジェンドと重ねてしまっては、現実的なものさしは一旦隅に置いてしまいたくもなる。
長谷川健太監督の下、FW前田遼一は何ともピリッとしなかった。ディエゴが未知数だったシーズン序盤も、そのディエゴが出場できない試合のときも、途中出場で攻撃にパワーを掛けるジョーカーとしても。何度も期待を込めて出場機会を与え、しかし明確な回答は示すことが出来なかった。
単に健太監督のスタイルとの、相性の問題もあるかもしれない。しかし前田遼一も37歳。例え違かったとしても、それを”衰え”と紐付けられてもやむを得ない。そしてここにきてのJ3出場。正直、来年は無いかなと覚悟もしていた。
けど、そこにちょっと未練が増える内容だったのには間違いない。
実際、今シーズンのFC東京を悩ませた一つが、SHの駒の少なさだ。長谷川健太監督が求める徹底した守備意識とファストブレイクに求める出足の速さ、SHはどのポジションよりも負荷が求められるポジションだった。東慶悟、大森晃太郎の2枚に田邉草民が食い込む3枚体制でのローテーションは、夏場の疲弊を分散しきれずに、結果としてチーム失速の大きな原因の一つとなった。
もちろん、遼一にシーズン主力で連戦をこなしてもらおうというのは流石に無理があろう。ローテーションの4番手、願わくば3番手として、谷間を担ってくれれば十分だ。それがルーコンのあの姿を思わせる、偉大なるJリーガー前田遼一の「もうひと花」だとすれば最高でしか無い。
セカンドチームのU-23で、37歳の大ベテランの夢が広がるんだからやはりこの制度は面白い。人の可能性は、どのタイミングでも無限に広がるということだろう。
J1もJ3もともに、残り3試合。気づくのが遅すぎた自分が悔しいくらいだ。前田”ルーコン”遼一の夢を、来年ももうちょっと見てみたくなった。