彼らは思っている以上に逞しい 高円宮杯08 GL F組 G大阪Y-FC東京U-18

FC東京U-18。今年のチームにとって、後にも先にも恐らく一番難しい試合がこの試合だと考える。
今年のこのチームの目標は「高円宮杯出場」。Jユース杯優勝という結果を手にしながらも、それでも春先はチームが固まらずにまたしても出場権を獲得できなかった去年のチーム。結局6年間も出場する事が出来なかった高円宮杯、この出場権獲得が今年のチーム最大の目標だと倉又監督は言い続けてきた。
そして掴んだ、念願の、7年越しの、出場権。しかしそれは「プリンスリーグ関東1部優勝チーム」「関クラ優勝チーム」そして「クラ選優勝チーム」としての出場となった。ビッグタイトルを全て取り、7年ぶりの出場はこれ以上ない肩書きを伴ってのものとなった。まさかここまで、この久しぶりの舞台に夏のチャンピオンとして立つとは。出来過ぎの展開を予想したものは果たしてどれだけ居るのだろう?
突き抜けた明るさをピッチの中でも外でも見せてくれる彼らといえど、この事実を並べてみて思うのは、彼らは間違いなく、重く見えない重圧と戦う事になる、ということ。やっと出れたチームが「夏のチャンピオン」として優勝候補として晒されるプレッシャーと戦う。そんな初戦。
ただでさえ、初戦というのは難しいものだ。大会を勝ち抜く上で何より大事であり、それ故に生まれる難しさ。先月もイヤというほど味わったし、何より日本サッカーの歴史は初戦で躓いてきた歴史である。これ以上ないプレッシャーで『初戦』を味わう事になったFC東京U-18
倉又監督としてはまず、このプレッシャーから選手達を上手く解き放ってあげる事が必要だった。プレッシャーから生まれるであろう負の連鎖を早いタイミングで断ち切ってあげる事。引きずらずに、確実に予選突破にチームを導く大事な初戦である。また初戦の相手がG大阪Yだったのは幸運、ダメなりにダメなままでも何とか出来ちゃう程度の相手よりかは目を覚ましてくれるハードパンチャーのが、こんな場合は有り難い。
連鎖を断ち切るためにどれだけ試合を捨ててくるか?前半を捨ててくるか、むしろこの試合全てを捨ててまでも断ち切りに行くか?問われるのは倉又監督のゲームメイク。
立ち上がりの東京はやはり重い。今年作り続けてきた、サイドを大きく使いながら同サイドも逆サイドもパスワークで仕掛けていくサッカーが見られない。けど個人的にはこれを「見せない」と捉えた。奪った直後にルックアップ、すぐに前線2トップ目がけて蹴っていく様子には意思統一を感じたし、チームオーダーだと理解して見た。また、その為の重松でもある、と。中盤勝負を多少嫌って蹴っていく様はクラ選決勝の柏戦でも見られたことで、大雑把に同系統と括って良いガンバ相手に同じ戦術を用いたのだろうと、疑問も持たずに理解してしまった。まずは蹴る、高い位置でスローイン等リスタートできればそこから崩すのには同サイドパスワークを用いはするけど、DFラインから細かくビルドアップとはしなかったのが前半の東京。
対するガンバはクラ選からやり方を変えてきた。4-4-2の左MFとして、Jヴィレッジで初遭遇した宇佐見は、しかし今回は同ポジションながらもそこから位置をスライドして強烈に中央に陣取る機会が多かった。中央に入ると4-1-2-3の扇形のCMF的な役割になり、そこから恐らくはワイドに張る(時もある)両翼、主に右サイドに向けてスパスパ展開パス出してくれよといったスタンスか。得意のパスワークでボールを大きく動かし東京ゴールを狙う。耐えきれると思った41分、とうとう崩れる均衡。8岡崎から受けた7大塚がドリブルしかけつつ岡崎に絶妙リターンパス、それを流し込んで0-1。ここでHT。
難しい初戦、そして東京が明らかに一つ「ギア」を隠していると理解していたので、東京としては耐える前半だと思っていた。0-0なら立派、0-1なら許容内、0-2だと後半めんどくさい、1-0とかだったらどうしよう(笑)な感覚。ゆえに0-1は予定通りの劣勢かと。ギアさえ入れれば0得点はないだろうから、うまくいって2-1逆転、けどガンバだから2-2で同点で終わるかな?ってのがHT中の妄想。そう、それよりも重要なのはHTを倉又監督がどう使うか?カミナリを落とすのか、はたまた「問題なし」となだめるのか。重圧を断ち切るためには重要なHTをどう使うかの方が重要だった。
(もっとも、報道によれば「もっとサイドから行きたかった。0-0だったら彼(パブロ)でいこうと思っていた。1点リードされた事は予定外だったけど」と倉又監督はコメントし、劣勢もサイドを使わなかったのも『予定外』と言ったらしいが)
HTに梅内→パブロこと山崎脩と予定通りの交代。梅内もゴリゴリとサイドを突ける良い選手だが、シチュエーションを与えたパブロにはさすがに叶わない。予定通りギアを入れてきた東京、パブロ祭り。
パブロは確かに素走りのスピードも抜群に速くて、スタンドからもまる聞こえな気持ちの強さもあって、パブロってどんな選手?と聞かれたらその部分を持ち出すんだけど、けど結局のところである「何でそんなに抜けるの?」って部分の回答とはなり得ない。何だか難しい事してる様には感じないけど、抜いてしまえるあのドリブル。ふと思ったのは、ああいうタイプのドリブラーの割にボールキープの懐が非常に深いのかも、ってこと。スピードが売りのドリブラーっていうとそれこそナオを代表する様に大きなストライドで、ボールの置く位置を限りなく遠くに置く様にするもの。けどパブロのドリブルってそういうイメージがあまり無くて、ボール位置がそれこそ股の下かってくらい深い時もあったり。だからドリブルに技巧があるとは思えないけど、けど密集に強い。何だかんだで抜けてくる。この辺りは試合後に思った事なので、土曜日に確認してみるが。
逆ワイドに張るパブロを意図的に使い始める東京のそれはまさに、隠していたギアを使い始めた瞬間。山浦を左サイドにスライドさせて、専守防衛だった阿部の上がりを解禁させる部分も予定通りか。梅内・パブロの様な単体アタッカーに比べてトータルな選手である山浦は、サイドではSBを上がらせるための絶妙な『蓋』となる。右サイドに置いた前半は廣木が、そして後半は満を持して阿部が。山浦サイドはSBを元気にする。これで両翼のアタッカー陣が揃い、東京らしいイケイケがガンバを襲う。そして締めの山村。盤石の中で登場する我らがルーベン。
そんなルーベンがしっかり仕事。お得意のインターセプトで前を向いたルーベンが岩淵にクサビ、それをワンタッチで前を向く岩淵が、追い越す様に突っ込むルーベンにリターン。ボールを受けた時点ではシュートコースにDFは揃っていたが、シュートフェイント一発生まれたスキマに強引に左足シュートを振り抜いた!技術と気持ちが高いレベルにないと出来ない、地味だけどこれは凄いゴールだった。
そして予定通りの逆転。交代出場の三田尚がヘディングで粘ったこぼれ球を阿部がダイレクトでズドン。「ここにいること」が何よりの成果。キッチリと2点取って見せた東京U-18。
予定外だったのがガンバの大ブレーキ。後半の、もう早い段階から急激に足をつって倒れる選手が続出。終いにはGKまでも両足つってまともにジャンプもキックも出来なくなる。試合が何度も中断し、それで気持ちが一回完全に切れた。とてもじゃないけど試合中のテンションを維持するのは厳しい中断の繰り返しで、グダりながらFTの懸念もあったが、何とかキッチリ勝ち点3を取りきった。ガンバに関して言えば、ボクシングで言う減量失敗の様なものなのだろう、正直お粗末なものだった。また、地元でやれる東京のアドバンテージの大きさも感じたところだが。
頂を目指すべきチームとしては、この試合は勝ち点3よりもプレッシャーからの解放が優先されるべきゲームだと捉えていた。勝ち点3は副産物程度の嬉しさではあるものの、けどその結果が重圧を解放する「とどめ」でもあるのも事実。また後半に確実にスイッチを入れて来れたユースっ子達は、自分が思っていた以上に逞しかった。もっと重圧に苦戦するかと、この試合全て費やす必要があるかと思っていたけど、それをしっかり前半で消化して見せた。この辺りの監督のマネジメントと選手達のメンタルがこの試合の何よりの収穫だったと思う。かなり厳しい見解を持ってこの観戦に望んだわけだが、それが杞憂に終わった事は非常に嬉しい(勿論この総括は土曜日の広島戦、そして大会終了後に改めてすべき事だが)。

強いチームは客を呼ぶ。結果を立て続けに残している東京U-18は、客を呼べるチームになってきた。この日もビックリするくらいの東京サポが、ユースの試合を見に来てくれた。それ故にその文化、「郷に入っては郷に従う」部分が多少ぐらつく事もあった。出来すぎている今年の東京ユースが「基準」になってしまうことの不安もありながら、けどまずは東京を愛する人達が「ユースの試合も見てみようか」と思い始めてきたこと、新しい文化が生まれてきていることを嬉しく思うべきだろう。だからこそ、その「郷の文化」を確実に浸透させる、ユース観戦とはこういう事で、を徹底させる最初で最後のチャンスを今迎えているのかもしれない事は考えるべき部分。
まぁ別に堅苦しいことを求めているわけではなくて。「パブロ祭り」を促したコールリーダー須藤の姿を見て「やんちゃだなぁ」と苦笑いをしていれば、それで済む話である。そう、やんちゃを温かく見守るのが、大人の務めってものである。