この夏の国際親善試合、フランクフルトvsFC東京。そのTV中継の中で、解説の川勝良一氏がこのような事を言っていた。『人が感じたモノを忘れないでいられるのは、長くて一カ月』と。
この試合で選手が得るであろう経験。もしくは身体をぶつけてみて初めて分かる実感。リードしてみせた嬉しさ。スコアをひっくり返された事への悔しさ。
どれもが確かに貴重なものであることを認めた上で、しかし並みのサッカー選手だとその経験・感情を継続出来ない、それを忘れてしまうのが人間というものである、という様な話だった。◇◇◇
今年から、FC東京U-18は「高円宮杯U-18プレミアリーグEAST」に参戦。第10節時点で5位という成績を残している彼らもまた、この予想以上にタフなリーグを戦い抜く中で、選手として足りない部分を感じつつも、しかし同時に手応えも得ていたはずだ。
そもそも、これまでプレミアにおいて9位降格しか経歴の無いチームにとって、今の成績は、既に歴史を書き換えている最中でもある。未踏の地を開拓して得た彼らの感覚に嘘は無い。だが迎えた全日本クラブユース選手権ラウンド16、対名古屋U18戦。
1-5での敗戦。心技体に時の運まで、全てで劣った完敗だった。それは、彼らがまだまだ弱いということを証明するものとなった。
試合後に涙を流す選手たち。これまでの手応えが無残にも崩れたのだから、その悔しさは大きいに決まっている。それ故に、この経験は彼らをまた1つ成長させる貴重なきっかけにもなるはずだ。
しかしそれでも…そんな悔しさですら自然と薄れてしまうのだから、「時が経つ」というのは厄介なのだ。この貴重な経験ですらも、およそ一カ月の時を経れば、まるで何事もなかったかのようにゼロに収束してしまうのである。◇◇◇
「強い弱いは執念の差」だと、あるTV番組でゲストの上野由岐子が言っていた。北京五輪、女子ソフトボールの金メダリスト。世界を制した大エースが心に持ち続けるフレーズとして、調べてみるとこの番組だけではなく様々な媒体で披露しているものであった。
このフレーズの元を辿ると、読売巨人軍でV9を達成した名監督「打撃の神様」川上哲治氏の発言にたどり着く。誰よりも勝つチームを作り上げた川上氏、その信念がこのフレーズには凝縮されているということだ。
では「執念の差」とは、果たして何か?
サッカーにおいて真っ先に思い浮かぶのは「球際」のシーンだろう。そこでの局地戦は、確かに執念のぶつけあいの様相を感じる。この「球際」という言葉も実は、元々は川上氏が考案した「野球用語」である。川上氏が相撲の「土俵際」からインスピレーションを得て口にした造語らしい。
「土壇場ぎりぎりまであきらめない、粘り強いプレーのこと(川上氏)」
勝敗を決する境界線を、川上氏は野球ボールに見出した。今ではサッカーで用いられる「球際」だが、その良し悪しは大概、コンタクト時の強度などパワー側面で測られがちだ。しかし本来の所以から思うと、それはあくまで一要素でしか無い。パワーという一要素の大小が良し悪しを計る基準なのではなく、もっと複合的な要素から導き出された「勝敗」こそが「球際」の違いを生む、というのが分かる。「球際の差」は「執念の差」の結果であって、それ自体ではない。
では「球際」だけではなく、もっと「執念の根っこ」を考えてみる。
執念を生み出す大元は、嬉しさや悔しさといった経験・感情だ。その要素が生じたときには、確かにそれぞれに大小の差がある。
しかし川勝氏の感覚が教えてくれる様に、湧き起った感情は、例え10だろうが100だろうが時間の経過がゼロへとさせてしまうのである。大小がなくなりゼロ同士になってしまえば、その比較に差が生まれることはない。つまり、「ゼロではない」状態を維持してこそ、他者との差は生まれるのだ。
たとえ時間と共に経験・感情がゼロに近づき小さくなろうとも、それでもゼロではなくコンマいくつかでも、何かしらをいつまでも自分の中に残しておく。そんな経験・感情をいくつ積み重ねていけるのか。
執念の差とは、こうして生じていくものではないだろうか。◇◇◇
たとえば、自分が観たある試合の途中に、一人の選手が味方の後輩に怒鳴る場面があった。
「お前が取られたんだから奪いに行けよ!!」
まだチームに馴染みきれていないこの後輩にこうもハッキリと怒鳴れるのは、彼の責任感、執念の表れに他ならない。その振る舞いからは、これまでもずっと必要なことを味方にしっかりと伝えてきたと推測できる。もちろん、自身の言葉に説得力を含ませるだけの有言実行も示し続けてきたに違いない。
怒鳴られた後輩もそれに応えた。その試合で彼は、自分が奪われたボールを自ら奪い返し、アシストにまで繋げるプレーを披露して見せた。
機会にめぐり合うのは運でもある。しかしめぐり来た機会を掴んだからこそ、彼もまた凄かった。そもそも、当人が自覚的でなければ、言われた言葉をしっかりと受け止めることがなければ、この貴重な経験はその場でキャッチ&リリースされていただろう。放っておけば記憶から薄れていく経験・感情も、もしかしたらこういった本気のやり取りの中で、チームとして維持できるものがあるかもしれない。このチームは後々、誇るに相応しい好成績を残すことになるわけだが、それが偶然だとは自分はとても思えない。
言い、受け止め、それを繰り返す。ゼロになりかねない自分を、周りの仲間がリマインドする。そうやって、感情を経験を、自身にそしてチーム全体にいかに残していけるか。
チームで「時間に抗う」ということ。抗い続けてきたチームが、最終的に真の『強さ』を得られるのかもしれない。◇◇◇
あの時、悔しさで流した涙がホンモノなのは、見たから知っている。その上であえて問いたい。
君の周りの仲間は、時間に抗い、「執念」を積み重ねていける、真に強いチームだろうか。そして君は、真に強いチームの一員として、時間に抗えているだろうか。たった1か月前の本気の涙を、果たして今でも覚えているだろうか。所詮、精神論なのか。それとも、行きつくところの本質なのか。
『強い弱いは、執念の差』
2015年7月26日。あの日に生まれたひとつの執念。
ひとつひとつの記憶がいずれ執念の差となって、キミの目の前に「勝敗」として表れるのである。
FC東京アカデミーとして戦う選手たちとその親御さんに向けて、少しでも「がんばれ」と「ありがとう」を伝えるために毎年行っている2015 FC東京ユースを勝手に応援企画!。集まったカンパ金で今年はタオルマフラーを作成し、9月頃にFC東京U-18・U-15深川・U-15むさしの全選手に贈ることが出来ました。
例年このグッズに同封する諸々の一部として文章を書く機会を頂いており、今回はこんなのを書いてみましたってのが上記です。企画に賛同していただいた皆さんに向けての、今年のU-18はこんな感じですよ報告というか。もしくは、実際に手に取る選手たちに向けての檄というか。いろんな事を想いながら毎年書かせて頂いています。そういえば昨年も書いているんですが、なぜか昨年の原稿は公開しなかったですね。理由は特にないです。ともあれ、今年も多くの方に参加いただき、誠にありがとうございました。
高校年代の「ユース3冠」の最後の1つ、Jユースカップは11/7(土)に準決勝を迎えます。我らがFC東京U-18は、タフで劇的な勝ち方でベスト4の一角に名を連ねる事が出来ました。
そして相手は、名古屋グランパスU18。あの惨敗から104日後に、格好の舞台が待っているとは中々なものではないでしょうか。
来たる勝負の時。彼らは執念の差を「勝利」に繋げることが出来るのか。やってくれると信じているのは当然ながら、しかし名古屋U18の強さもまた間違いのないもの。勝負はまたしても「時の運」に委ねられてしまうのかもしれない。ただ、少なくともFC東京U-18は、あの時よりも強くなった。それは間違い無いです。
彼らが強くなったのは様々な観点から言えるでしょうが…1つピックアップしたいのは、彼らが終盤に得点を奪い、勝ち切れる様になってきたことです。元々彼らは前半逃げ切り型のタイプで、その分後半に時間が深まるごとに強度が落ちてしまっていた事が、高円宮杯プレミアリーグEASTでの勝ち点積み上げを不安定にしてきた部分がありました。しかし、プレミアEAST中断前の札幌U-18戦では81分に、Jユースカップに入ってからは3回戦大宮Y戦で延長後半ラストプレーの110+1分に、そして準々決勝神戸U-18戦では86分に、どれも強烈な相手から貴重なゴールを取り『勝ち切った』。これはフィジカルだけでなくメンタルでも、チーム全体にタフさが生まれてきた証でしょうし、原稿を書いた身からすれば「執念」が備わりつつある、という言い方を採用したいところです。
最後の笛が鳴るまで、観戦者は彼らのタフさを信頼して後押しをすべきでしょう。11/7(土)味の素スタジアム西競技場で10:40KO。当日はJリーグA柏戦があり、飛田給に足を運べる方は数少ないでしょうが、少しでも彼らの動向を気にしてもらえるとありがたいです。またこの試合はスカパーオンデマンドでも生中継予定なので、是非、常磐線の車中で?日立台の待機列で?彼らの戦う姿を見守るというのはいかがでしょうか。
最後に。以前も公表したことではありますが…自分はこの企画で原稿を書くときには、読んでくれた選手たちがスポーツ選手として少しでも上手く、そして強くなってもらえる様に、という想いを込めて書いています。そしてその原稿をFC東京の選手たちに向けてだけでなく、Webの隅っこながらもこうやって公開するのは、FC東京の選手たちだけでなく、スポーツに打ち込む全ての人にそうなって欲しいと強く願っているからでもあります。
そういう意味でも今回の文章を公開するのにあたって、例えばJユースカップで惜しくも敗れていった選手たちにも「その悔しさ忘れるなよ。強くなった姿で、次の舞台でプレーを見れるのを楽しみにしているよ」と伝えたいですし、また個人的には名古屋グランパスU18の選手たちにこそ、この原稿が届いて欲しいのです。彼らも今年多くの悔しさを味わってきたことだと想像します。そこから如何に「時間に抗い」「執念を積み重ねて」強くなってきたか。その一端は先日の対ヴェルディY戦でも垣間見ることは出来ましたが、せっかくのこの舞台どうせならばより強くなった名古屋U18と戦いたい。いい試合が観たいと願うのです。
そして、そんな強い名古屋U18をも更に上回る「執念」をもって、11/15(日)11:00KOの決勝・ヤンマースタジアム長居行きのチケットを手にするFC東京U-18が観れると信じているのです。