祭りの楽しみ方ってのを教えてやるよ レビュー ナビスコ09決勝 -川崎戦

選手は、背負った想いとプレッシャーに振り回された。

明らかに出来の悪い立ち上がり。川崎の攻勢は予想できたものだったが、その前の段階、明らかな固さ・緊張が自身のプレーの足を引っ張る。カボレ・ナオよりも実はチームの生命線であろうクワトロボランチ。その軸である梶山・米本はケアレスミスによるボールロストが目につく。この舞台で緊張しない方がおかしいのは分かっていたが、改めて「ニューヒーロー」米本がこうもFINALの舞台に四苦八苦している姿は、懸かっているものの大きさも相まって、見る者の不安感を膨らます。

立ち上がりはハッキリと大きなボールを前に蹴りだす形を互いに取ったが、それも川崎ペースの立ち上がりを助長させた。前線3枚が広く取ることで、まずは簡単にボールを渡すことを優先させる川崎。渡してしまえば有利に立てるというある種の王様システムだが、それがこういう流れ、何より立ち上がりには活きる。それはもはや「飲まれてしまった」と言っていい印象。HTにその流れを変えるために、何より耐える前半になるだろうと気が気でない。

川崎に立ちはだかったのは徳永悠平

その安定感は開幕時から。観てる人からはその成長に確かな信頼を得るほどになった徳永だが、その安定感がここでも変わらずに出してくれたのには驚いた。得意の川崎右サイドを孤軍奮闘シャットアウト。これほどまでとは。ご存知その後に潮目変わる1点目を東京は得ることになるわけだが、特にそれまでを耐えきってくれた孤軍奮闘ぶりにまず、スポットライトを当ててあげたい。彼の安定感がまず、東京を救った。

1点目についてはもはや割愛したいところだが、少しだけ。立ち上がりの出来の悪さは明らかで、下手すればそのまま90分を終えてしまってもおかしくなかったところで、何とか変えたいポイントを、まさか自らで作り上げてしまったのだからたまげた。監督の檄なり仲間の好プレーなり、他人が仕立ててくれるきっかけに上手く乗る事が出来れば…それだけでも新人離れした成果なはずなのに。勿論技術メンタルの為せる業ではあるのだが、それ以上の…いやこの先は言わずもがな。

それでも、この抜群のきっかけをもってしても、取り戻せたのなんて数人の話で。全員が取り戻したかと言われればそうではないと思うわけで。チームとして回り始めたから幸いだったけど、取り残された選手ももちろんいた。

平山相太もその一人。

決勝のこの試合は、いつもよりかはFWの目立たない試合だったと思う。それはもちろん守勢に回る事の多かった展開の問題もあるけど、それと共にもっと単純なFWの出来の問題。とにかく空中戦では相手DFには勝てなかったし、数少なかったポストプレイのチャンスも五分五分程度の代物だったと思う。

それでも、彼は今やそういった調子に左右されない部分を手にした。生まれ変わった思考、それは体調に左右されるものではない動き。ボールの無いところ、守備では結果90分を懸命に追い続けたし、攻撃では落下点に、そしてゴール前に顔を出し続けた。

2点目は生まれ変わった彼の集大成。自陣ペナルティアーク内で弾き返してからのカウンター、その逆襲のフィニッシャーは平山相太自身だった。ビデオで見返して涙が出た。ボックスtoボックス、怠らずに懸命に行ったロングスプリントにふさわしい成果を彼自身が掴み取った姿に。

我々が目指すmoving footballは、オフザボールの動きの質を追求するもの。走れる距離に限界がある中で、距離を伸ばそうとするので無くてその質を高めんとする作業。2歩3歩の動き出しを強調し、後の50mダッシュを回避するために今そのタイミングで10m走れ!というタイミングの意識。それらが質高く重なり合った時に自分は、無駄な手数は減り、最終的に「カウンター」という形を見出すと思っていた。シンプルは混沌から生まれる。不必要なものをそぎ落とす作業が、自然とカウンターを上手くさせるのだと。だから逆を言えば、遅攻を恐れず、ポゼッションを求めるサッカーながらも、その質を計るのは速攻の質だと、カウンターが出来るようにならなければmoving footballの完成は無いと考えていた。今まではカボレなりナオなり、その身体的な優位を利用したカウンターばかりで、それはそれで身の丈を知った所作に好感を掴んではいたが…この得点は違う。不要をそぎ落とす発想を繰り返し、結果生まれた、自分が求めていたまさにそれ。この大舞台での、この2点目に込められた質はあまりにも大きい。

勝利の瞬間、選手の表情は印象的だった。5年前の様な、爆発するような喜びよりも先に、仕事を完遂した達成感を噛みしめるような。今野の表情の男らしさったら無かった。それはこのタイトルがいい意味で通過点とする決意でもあった。それはサポーターももちろん汲み取っている。この先にある我々の大きな目標に向けて、ここを大きなステップにしてやろうとする野心。ここで止まる事など考えられないという共通認識。てっぺんに立てたことで、より遠く、より先を見通しやすくなる優勝だった。なるほど頂点は、眺めが良い。

しかしそれらも、浅利と対峙した瞬間にまた別の想いが爆発してしまうのだが…




選手を見守る者は、徹底して大舞台を楽しんだ。

当日を迎える前から。土曜日にはネット上で定刻合わせて各々で04決勝を再生して、ネット実況を楽しんだ。サポ有志で決心の折り鶴企画を立ち上げた。小平には土日に計3000人もの仲間を集めた(川崎は土曜日は非公開練習だった)。決起集会(という名のただ飲んで美味いモノ喰っての大騒ぎ)は数え切れないほど行われたはず。そして前日からの徹夜並び。自分が伝え聞いた数人は指定席券持ちであり、それはもはや「意味の無い」徹夜並びであったが。そこには村林社長が直接訪れて差し入れを渡したんだか逆にもてなされたんだか。

当日。出足早く千駄ヶ谷に到着すれば早速行列内でイルカ鍋を楽しむ方。中に入ればイルカパンを振るまう方(恐らくこちらで近いウチにネタにされるでしょう)、観戦仲間の誕生日をお祝いされてた方、観客動員を気にして「とっとと聖火台奪取してくれよ〜」と口にする方。ナビスコキッズイレブンの前座企画が始まれば自然発生的に「オイオイ!」と煽り始め、青赤の仲間には大声援を送り、川向うのキッズたちの健闘に拍手を送り(いやウチが負けたんだけど)、ふろん太には盛大なブーイングをかました。コンコースでは明大前LIVREさんが用意した樽酒を使って、店長さんとゴル裏メンバーで鏡割り!フルボリュームでチャント大合唱始まっての大盛り上がりで、振る舞い酒でコンコースに臭いが充満してた(笑)(それらはこちらでも紹介されてますが)

試合が始まる前には仕込み用の風船と『白紙テープ』の準備。これどうやんのー?ってつぶやけば知らない誰かが教えてあげたり。笑いの絶えないゴール裏の雰囲気は、クラブの悪ふざけ極まった選手紹介VTRで頂点を迎えた。

そしてキックオフ…

紙一重で「FINALに浮かれた東京サポ」って構図にもなるところだったと思う。事実川崎側はそれを嫌ったのか、やけに静かにキックオフまでを過ごしていた。けど、いついかなる時にも、青赤な我々は、サッカーを、Jリーグを、そしてFC東京を楽しんできた。それぞれがネタを探してはみんなで楽しんで。所詮はただ騒げるネタが欲しかっただけでもある。けど、その気持ちは試合が始まると確かに「カップを奪い取れ!」という気迫に向いたと思う。カップウィナーに向けた抑えきれない気持ちをネタに代えて、とにかくこの大舞台を楽しみ切った手ごたえってのは、恐らく青赤サポ誰に聞いても胸張って「ある!」と答えるだろう。

まずは我々が楽しみ切る。その上で勝ちを狙う。だって、やっとの思いで来れたFINALだぜ?楽しくなければサッカーじゃ無いじゃん!

不気味なくらいに静かな川崎サポを見て、試合前にゴール裏で会う知人の多くが「川崎サポは楽しくないのかなぁ?」と首をかしげていた。自分も同じ意見。国立競技場に入場する前、川崎サポは運営と揉めていた。幕入れの問題か、開場で手間取ったのか。東京サポが並んでいるところからも、彼らの怒号は聞こえてきたし、その後会場では運営スタッフが川崎サポに対してお詫びをするアナウンスが流れていた。あのスタッフの感じだと、確かに運営側の不手際はあったのだろうと予想はするけど…でも自分は素直な気持ちとして「晴れのFINALがこんなことでいいの?」とは思っていた。そして目の前でイベントが行われていても楽しめない、騒げない彼らへの違和感。フロンターレを愛する子供たちが頑張っているのに、ふろん太が茶目っ気出してアピールしているのに。

今やどのチームもそれぞれのゴール裏の応援文化が成熟してきたから、その違和感は「文化の違いで仕方が無い」と簡単に括れてしまえる。自分は違う文化で育ってきたわけだから、違和感を抱くのは当然の話だろう。それを踏まえた上で自分の違和感を表明するとしたら、そんなそれぞれひっくるめて川崎スタンドから漂う「悲壮感」の感じが辛いなぁ、とは思った。

サッカー的な部分、タイトルに向けて川崎に足りないものなんかも、それは鹿島戦再試合で抱いた大きな不満とサテライト千葉戦で見せた川崎ベーシックの戦術を見ても、自分もそりゃ思うところはあるわけで。輪郭がどれほどハッキリとしているかはそれぞれだろうけど、でも今回対戦相手として迎えた我々みんなが「川崎がタイトル取れない理由」ってのを感じ取ったはず。それらをハッキリと吐き出すタイミングではないだろうからここでは言わないけれど、けど一つだけ、言う事があるとすれば自分は、川崎サポに対して「FINALを、サッカーを楽しもうとしたのか?」と問いたい。



試合が終わって、味スタに向かう我々。これまでも楽しみ切っていたところに結果もおかげでついてきて。それが楽しくないわけは無くて、味スタがある飛田給ではどのコンビニも大盛況。飛ぶように売れていく、ビールと、そしてナビスコ製品…

予選リーグ、決勝トーナメント、そしてFINAL。ネタを探し求める我々は、ナビスコカップの試合があるごとにナビスコ製品を買い続け、そして食べ続けた。試合に行けば、会う人誰かしらがナビスコのお菓子を買ってきて、周りのみんなにおすそ分け。果たして何度お呼ばれして、どれだけのナビスコ製品を食べ続けてきたか…

5年ぶりにナビスコカップを制する事が出来た理由は何だろう?と考えても、今でも正直良く分からない。決勝だって、結局最後まで出来が戻らなかった選手はいた。オレの梶山なんか、普通にやればあんなもんじゃないぞ。けど、それでも勝った。結果、我々はカップウィナー。

じゃあ何故?

恐らく、FC東京サポがイチバン、ヤマザキナビスコのお菓子を食べたからじゃないかな?

青赤の誇りを胸に、おいしいお菓子を出し続けてくれるヤマザキナビスコに向けて…

『ごちそうさまでした!』