甲府戦坂本のロスタイムゴールという「必然」に繋がったロジカルな伏線

日曜日に長居でJユース杯決勝を観るために、土曜日からムーンライトながらに乗車しての移動だったんですが、その前に藤沢で湘南ベルマーレのJ1昇格記念祝賀会が開催されるということでそちらにもお邪魔してきました。

何と馬鹿なスケジュールだとお思いの方も居られるでしょうが、本当はその前に更に平塚競技場でインカレ準決勝を観るつもりでした。そちらは前日夜の体調不良(寝不足飲み過ぎ)もあってやむなく断念したんですけど。なもんで、これでも随分と馬鹿さが緩んだスケジュールだったんですね。

第1部は眞壁社長・反町監督藤沢市長を交えてのトークイベント、第2部は立食パーティー形式の祝賀パーティですた。第2部のパーティは、もはやMLながらに向けての腹ごしらえ兼アルコール摂取に躍起に。本来はこういう場では顔を広げるためだとかに躍起になるべきでしょうに(って、エラい人の本に書いてあった気がする)。その部分のしょうもなさもありながら。

けど、その前のトークイベントが短い時間ながらも面白かった!そっちで結構もうおなかいっぱいだったかも。

元々反町監督は、試合後コメント等を観ても分かるように「上手いこと言いたい病」かってくらいに言い回す言い回すな人ですが、そういう人がノリノリで話し始めると、それはやっぱり聞く側としても面白く感じてしまうもの。

印象に残ったシーンについて尋ねられると、反町監督は「第3クールのヴェルディ戦」と答えた。その采配たるや、サカマガ(?)か何かで6.0と採点されてたが、オレからすれば9.0だと(笑)おぉ何かソリさん乗ってきたぞイイヨイイヨーと思いながら耳を傾けると、しかしそれはなかなかの説得力だった。


反町監督の言う第3クールのヴェルディ戦とは、11月8日に行われた第48節の試合を指す。あの、J1昇格に向けての大一番だった「甲府VS湘南」戦を次節に控える大事な試合。直接対決にどう意味をつけるのか?それが懸かった試合。

ヴェルディ戦。その試合で、湘南は負けていた。

最悪の展開がちらつく。勝ち点ゼロはどうしても避けなければならない状態で、反町監督が下した、なりふり構わずの決断。

何かを強引にでも変えなきゃいけない中で、反町監督はまず甲府の試合状況、その情報を選手に伝えろ!と指示した。他会場の結果がちらつく時期になると、どうしても「それよりも己が大事」とあえて情報を伏せる手法が日本には根づいているように思われるが、このシチュエーションで反町監督は敢えて、ピッチにその情報を行き渡らせた。何かをしなければ、という状況を明確にするために。それはある意味、選手のメンタリティを監督が信用していたからこその決断だったと思うし、またキャンプスタート時から、選手に自発的な意識の向上を求め続けてきた反町監督としては、「鍛えて」みせた手応えもあっての判断だったとも想像できる。

そしてもう一つ、選手交代。

まず元々、イエローカード累積には相当に気を配っていたとのこと。坂本は既にリーチだったし、田村はこの試合で一枚カードを貰っていた。甲府戦にしっかり出場してもらうためにも、この両者を上手く下げながら、しかし勝ち点ゼロを回避するに最善の手を打たねばならない。いろいろな要素が巡りに巡る。

ヴェルディ戦での、決断に至った大きな要素の一つとして、「レアンドロがいなくなった事」があるとのこと。

この試合を観ていないのでよく知らないけど、登録上のスタメンはレアンドロ井上平の2トップ。けど、反町監督レアンドロが林との交代によって抜けたことで、相手が2トップになった、さらに「動かない2トップ」になったという言い方をしていた。だから、その対応ならば3バックで十分とし、まずSBの島村を前線に上げる決断をする(島村は早稲田時代はFWとして活躍)。

そしてさらに、これで田村も外せるだろうと決断。選手交代の際は、セットプレー守備に関する視点で試合を見させているチョウ・キジェアシスタントコーチに必ず意見を聞いてから決断するという反町監督。キジェコーチからもGOサインを貰い、投入するのは「何かあるFW」阿部吉朗に。何故か、そこにいるストライカーである阿部吉朗。その何かはハッキリ説明は出来ないが、湘南サポも、東京サポも、そして流経大サポも明確に分かっている、その「何か」。この部分を確信的に利用しようとする、反町監督の決断。

そしてヴェルディをスカウティングした際に、スローインに対する厳しさがあまりないというクセがあったらしい。それを試合前に選手にしっかり伝え、そしてあの場面。その瞬間のスローインで、反町監督始めベンチからその旨の激が飛んだという。それに気付かされたのかどうなのか?そこから始まった「湘南タイム」

全ては多くの要素を加味して、めまぐるしく思考して、その上で下した決断がなければ生まれなかったことだったと、反町監督は胸を張った。そして、田村に坂本、特に坂本は累積警告を回避させたからこそ、次節の甲府戦あの時あの場面で、あそこに坂本は居る事が出来たんだ、とも。


眞壁社長は、坂本のロスタイムゴールのシーンを、別の伏線から辿っていたとのこと。

ある日の馬入グランドでの練習を見学していた眞壁社長。行っていた練習内容は、ピッチをかなり狭めた状態での11対11。ボールをポーンと入れて、点が決まれるとまたすぐに逆のゴールで同じくポーンと。計22人がひしめくピッチ内はスペースも無く、密集の中でどうゴールを決めればいいのか?非常にやりづらそうにプレーする選手たち。それを観て、一体何をしてるのかが分からなかったとのこと。

それが、坂本のあのゴールを見てピンと分かった。「そういう事だったのか!」と、馬入と全く同じシチュエーションが小瀬のピッチで描かれたことに驚いた。

だからこそ、あのゴールの意味を正確に捉えられた。バーに当たったボールは大きく浮かんで、坂本のところに収まる。胸トラからの左足シュート。あれだけ甲府の選手も湘南の選手もひしめく中で、なぜ坂本は冷静に空いている場所を見定め、そこに落ち着いてボールを流し込むことが出来たのか?その理由は、あの時の馬入を思い出すことですぐ分かった。

今年何度も生まれた、89分「湘南タイム」でのゴール。対戦相手の某クラブ社長は「ラッキーキックがこうも続くと参っちゃうよ」的なことを眞壁社長につぶやいたらしい。それを「ホントそうですよねー」と愛想笑い振りまきながら、内心ほくそ笑んでいたと(笑)

あの時間にゴールが生まれる、その理由は社長は知っている。その積み重ね、些細な意識の違いが生んだ「必然のゴール」であることを社長は知っている。


今季の湘南の成果を語る上でひとつのポイントであると言える「湘南タイム」。しかし、それは偶然ではなく必然が生んだゴールだった。それを語る両者の様子は手応えに満ちている。

このエピソードを読んでみて、さて、どう思いますか?

言ってしまえば、結果が出たからこそ言える事。所詮、後付けだろうと思う人もいるだろうし、その要素も確かに非常に多いとは自分も思う。

けど、両者が手応えを感じていいだけの、やるべき事を事実やっている。反町監督は。眞壁社長は。馬入にて、あの練習が、あの準備があったから。そういう些細な伏線を積み重ねて掴んだ結果だと、クラブ全体が手応えを感じている。やったところでそれが本当に起こるかどうかは分からない。しかし、それが一つでも欠けていれば、それは間違いなく「起こってはいなかった」。

それらが全て後付けなのかどうか?本当なのかどうか?それは結局のところ、実はさして大事なことではない。何よりも大事なことは、所詮プラシーボであろうものも適切に処方して、結果その効果を示して見せることが出来るかどうか?エンライテンなんてのはその最たる例だろう(もちろん実際に効いてるんだろうけどね)

その点で、反町監督の仕事はパーフェクトだったと言える。その仕事ぶり、また監督としての資質の一端を垣間見れただけで、こうも無謀なスケジュールも組んだ甲斐があったというもの。

そんな手応えを自分も掴み、そのままMLながらで長居に向かったのであります。