(せーの、)参りました!! レビュー -川崎F戦

城福監督の中にある、「理想ベクトル」と「現実ベクトル」。先週の東京ダービーでそのベクトルを、一応自身の頭の中の整理の一環としてまとめてみた。ダービーでは監督の現実ベクトルが極めて際だつ形での勝利となり、それはまた一つの城福サッカーの完成型だった、と確認した。
この時に凄いなぁと感じたのは、理想ベクトルを延ばしながらも現実ベクトルに沿って確実に勝ち点を稼いでいることと、その現実ベクトルのために、理想ベクトルの中心を為す要素である「moving football」を、得点の為のツールとして「のみ」割り切って使っていたことだった。
moving football、平たく言えばポゼッションサッカーか。理想に沿ってポゼッションを使うとすると、その志向はゲーム組み立ての頭からケツまで徹底してポゼッションで構成する、ということ。守備の面でもただ蹴る訳でなくポゼッションを追及する。失点が多い原因を「ポゼッションの仕方が悪く、ボールの奪われ方が悪いから」とまで言いきるくらいに。城福監督の理想に沿えば、ゲームを「勝利」に向けて積み上げていく作業をチームで行うときに、城福東京ははとことんポゼッションを求めた。これが「理想ベクトル」での話。
しかし、それほど理想ベクトルの中核であったmoving footballを、東京ダービーでは、いとも簡単に捨てた。前半を、自分を犠牲にしてまでも相手を潰しにかかることに費やした。そして大竹投入のスイッチを境に、「点を取るためだけ」にmoving footballらしいプレーをして見せた。ダービーは90分で通して見れば理想ベクトルにはほど遠い出来だった、むしろ勝ち点3のために簡単にmoving footballを捨てた城福戦術に驚いた。現実ベクトルに則すためには、こうも大胆に決断するのか。「movng footballという言葉に囚われたくない。moving footballとはあくまで、勝ち点3を得るためのツールでしかない」といった城福監督の発言(うろ覚え)を示した、ダービーはまさに現実ベクトルでの勝利だった。

ただ、それゆえに「理想ベクトル」が90分で爆発するのはもっと先なんだろうな、という覚悟もこの時に括った。「理想ベクトル」の追及は相変わらずの険しい道であることには変わりなし。勝ち点は拾えているけど、そこをハッキリ分けて、冷静にやっぱり見届けないと。けど順調に育っている「現実ベクトル」もなかなかのもんじゃないか、って。
だから、先週のエントリには個人的に「劇勝で浮かれてるのはオレも同じだけど、理想のサッカーへの我慢は引き続き必要だよ」っていう、ネガティブな抑制をネットに問うた、そんな感情を込めたエントリだった。

前置きが長くなりました。参りました、城福監督。
こんな風に思っちゃってた自分なので、要するにまずは小平に向かって平伏して謝りたかった訳ですね。まさか「現実ベクトル」の完成型を見た一週間後に「理想ベクトル」の完成型を見ることになるとは。正直、驚きを隠せない。
もちろん、相手ありきの成果だったことも間違いないでしょう。川崎は良くなかった。しかもこれはコンディションだとか一時的な不調というよりも、単純なチーム力が弱まっていた。もっとシンプルにスピーディに、多くの地点から多くの地点を狙うサッカーをしていた様な気がしたが。どうも力強さを感じられない。こんな事になってしまったのか、というのが正直な感想。友人と話をしながら見てても、「今年の川崎は怖くない」「多分ウチ勝てるよこれ。あ、「勝つ」って言っちゃったねぇ」とか余裕なコメントが続いた。
って、これが「自信」なのか。これまで現実ベクトルで掴み取った勝ち点の『成果』なのか。
スタジアムのいちサポーターがそう感じていたんだから、選手も相当の自信を掴み取っているのではないだろうか。試合に入って、内容を少し観たら、去年の惨劇はもう頭からは抜けていた。少なくともこの試合、両手ぶらりのノーガード、かかってこい!と。割り切った先にあったのは、理想が爆発したラブリーフットボール
結局、理想ベクトルの「moving football」に一番必要なのは『自信』なのだろう。一試合ごとに、確実な右肩上がりが、選手達に自信となって、観客の心を動かすまでの内容にまで仕上がった。これからどんだけ両ベクトルは大きくなっていくんだろう?意味ある「ダービー」と「クラシコ」を経て、城福監督は多くの人の心を鷲掴みにした。

選手評。まずはやはり大竹。
久しぶりに、えげつないシュートを見てしまった。トリハダが出るだけでなくて「引いていかない」奇妙な感覚。止まないざわつき。これはもう何とも言葉を付けようがない。それだけでなく攻撃での絶妙なアクセント、梶山との分業がこの日もはまった。
ただ、「お客さん」という城福監督の表現もまだ分かる。守備意識はよっぽど上がったのだろうが、それでもまだ及第点とはやはりいかず。プロ仕様の「勝利に向けた泥臭い作業」はまだ身に付いては居ないだろう。その点は栗澤のが分がある(この日の栗澤の出来を見れば、スターティングは栗澤に任せたいと思うところ)。まぁこれは段々と勝手に身に付くだろうし、今は起用方法でそれに囚われない「ゆとり教育」が上手くいっているのではないだろうか。
徳永。
長友の縦への勢いとのバランス取りを行い続けてたとするならば、もっと確実なパス回しや安定性が必要。今日も含めた今の徳永の出来は、評価としては「バランス取り」という言葉に逃げたいってのが多くの本音だろうと思う。オーバーラップが無くても、地味なバランス取りでも、例えば金沢はそれでも確実な高評価を積み上げ続けてきたはず。役割なりの、目立ち方がもっとあったはず。しかし今は、不用意さが目立つ出来が続いてる気がする。小平で活きの良いSBを見続けてる身としては、もっと激戦にして良いポジションだと強く感じる。
浅利。
まいったね。2月の段階では「今年浅利は初得点する」と予想しましたが、今や「この出来じゃあ何時点を決めても「必然だったね」と思うだけじゃん!」という段階にまで階層が上がっていた。「城福サッカーを一番体現する男」浅利悟への注目度が日増しに高まっているぞ!
ちなみに何と現在3位。守備が安定してない、ドカンとした失点数を抱えている以上、順位自体はこの先すぐに良いところに落ち着くとは思いますが。それでも嬉しいもんだ。何より居心地がまだ悪い(笑)。けどこれもまた、自信と共にこなれてくんだろう。
もっと自信を。もっと勝利を。もっとラブリーを。