夢のパラダイスよ… 高円宮杯関東代表決定戦 柏U-15 - FC東京U-15深川

柏U-15の強さは「監督が吉田達磨」だからの一言で片づけられるのだが、それではあまりにも不親切なのでもう少し続ける。

日本の誰もが求めたがる「パスサッカー」を信条としながらも、しかしその完成品は唯一無二といって間違いではない。「人もボールも」動かしたがり、「ダイレクトプレー」でパスを回したがる日本の中で、彼のパスサッカーは「動かない」し、「ダイレクトプレーはほとんど使わない」。以前、自身と同じくパスサッカーを己の『正解』として世界に挑んだ城福浩(当時U-17日本代表監督)をエルゴラ紙上で「彼のサッカーは動きすぎだ」と批判していたらしいが、確かに吉田のサッカーは大きな動きは最小限で、パスの9割は足元へのパスと言える。来たボールを必ず止める。止めてから蹴る。細かい顔出しはしているはずなのだが、いかんせんほとんどのパスが足元へ向けてのパスだからそれが目立たない。しかしそれが繋がる。小気味良く、そして美しく。

それは、時代に逆行したサッカーなのか?もしくは時代を進み過ぎたサッカーなのか?

しかしそうして生まれる吉田達磨のパスサッカーは、日本においてあまりにも異次元だ。全てのカテゴリーにおいて日本で一番「カネの取れるサッカー」をしているのはこの中学生たちだと断言する。

吉田達磨のサッカーが一気に注目された昨年のインパクトは強烈だった。柏U-18を率いて千葉県リーグから全国に出てきて、初めてのクラ選で観戦してぶっ飛んだ。あまりに異質で美しいそのサッカーの噂は、サッカー物好きの間で一気に広まり、結果本場スペインまでも虜にした。コンダクター仙石廉ビジャレアル国際でMVPを獲得し、指宿洋史はその際の活躍をきっかけにスペインでプロ契約した。

そんな吉田達磨が今年からU-15を率いる事になって。彼の事だから中学年代でも近い事をやっているんだろうと、あの記憶がこびりついている我々は予想していた。

しかしその予想は大きく裏切られる。代表決定トーナメント準決勝の土曜日、深川グランドで初めて観た達磨U-15は、昨年のアレと全く同じ、いやもしくはそれ以上の『完成品』だった。

1年経たずして、あのサッカーを、しかも中学年代において完成させた手法が全く分からなかった。そもそもの素地と言うか傾向として、既にU-15がそういった強化をしていたとも考えられるし、1年足らずで完成させれてしまう様な奇妙なマジックを仕掛けたのかもしれない。いや、もしかしたら実はそれは非常に「簡単な方法論」なのかも。色々考えたが、答えにたどりつけるわけは無い。間違いないのは、吉田達磨スタイルはU-15で『完成されていた』という事実だけ。

自分としては吉田達磨スタイルは既に勝手知っているわけで、いやむしろ惚れたクチなので、その驚きは昨年と同じ事をやっている事への驚きだったが、達磨サッカーを初めて観た人にとっては、そもそもが「何だコレは?!!」と度肝を抜かれて、興奮して、そして惚れる事になる。今回同席させていただいたこちらの方こちらの方も、カルチャーショックに近い驚き方を等しくされていた。


そんな柏に挑む深川は、強くは無い。技術的に見劣りするのは間違いない。

所属する関東リーグでは開幕から6連敗。クラ選は出場権を逃し、苦しい夏を乗り切った9月の第8節でやっと勝つ事が出来た。自分はこの第8節で初めて深川を観戦したので、それまでの苦しい時期を見る事が無かったわけだけど、それでもこの時点で見た深川は弱かった。止める蹴るはブレるし、展開が「見えてない」事も多かった。目立ったのはそれよりもチームとしての雰囲気の良さ。ベンチメンバーは良いプレーがあれば積極的に声を出して盛り上げるし、観戦される父母の皆さんも熱く優しい声がいっぱい飛んでいた。応援Tシャツを着て応援してくれている父母さんが本当に多くて、気持ちが良い意味で一つになっている姿が気持ちよかった。

そして土曜日の準決勝。それ以来の深川観戦となったが、彼らはもっと成長していた。ベンチ外のメンバーや1年の後輩らが集まって立派な応援団を形成して先輩を後押ししていた。もはや手慣れたリーダーとのコール&レスポンス。分厚い応援はもはや大人顔負けの熱さで、我らがエース10二瓶翼をバッサン呼ばわりで強烈にサポートしていた。40分ハーフの後半30分頃に「眠らない街」を始めてしまう度胸なんかは、むしろ最近の我々が見習うべき事かもしれない。


その中の「東京ラプソディ」でふと、以前の記憶が蘇った。

どの試合だったかははっきり覚えていないがいつぞやの深川での試合。恐らくプリンスリーグ最終戦、勝った方が優勝の大一番であったFC東京U-18マリノスユース戦だったと思う。試合の持つ意味と両者の実力のぶつかり合いに深川は大いに盛り上がったが、それに輪をかけたのが両サポの応援合戦。マリノスはいつもおなじみの、組織だった分厚い応援。相変わらずカッコイイマリノス大応援団に、我々は即席でチームを組んで声枯らして応援することになった。コールリーダーはその日応援に来てくれた深川の子ら。「後ろのお兄ちゃん達が付いてきてくれるから、やってごらんよ」と促すと、そこはやっぱり恥ずかしさがあって「うーん…」とか悩む深川っこ。「どんなチャントがあったっけ?」とか相談し合ったり、躊躇してミスしてみたり。それらを経て、よしやる!と決意する深川っこに、いよいよ…と身構える我々。さて、まず最初のチャントは?

「たーのし都〜♪」

悪かねぇよ、悪かねぇけども、まず最初がそれかよ!と我々はズッコケるわけだけど(笑)「こーいのー都〜♪」と小さなコールリーダーが続けるからそこはじゃあ続けて我々も「みやこ〜!」と合いの手を打って。それで吹っ切れたのかその後は手慣れた感じでコールを切ってくれた深川っこ達だったが、その日のヘビーローテーションはこの「東京ラプソディ」だった。へぇ、そこなんか、そこが好きだったんだなぁと、終わった後にその好みにちょっと不思議な気持ちになった思い出だった。


最大の強敵を迎えた日曜日。

大事な代表決定戦で、深川はこれまでの3バックから相手の4-1-2-3に対するために4バックに変更せざるを得なかった。それは土曜日に柏U-15を見た誰もが思ったであろう「このチーム相手に3バックだと間違いなくやられる」という予測を思えば当然ともいえる変更であった。しかし、そこにはいるべきバッサンの姿は無い。累積かもしれないし、マスクをしていた姿を見ると、もしかしたらアクシデントもあったのかもしれない。とにかくそこに俺たちのバッサンはいない。大事な物を賭けた大一番は、彼らにとって強烈なプレッシャーも感じていたかもしれない。

しかし、それを彼らは自らで、チームで吹き飛ばした。スタメン11人は手を取り合ってキックオフ前に円陣を組む。そして始めた。

「たーのし都〜 こーいの都〜♪」

試合前の円陣で、ああも堂々と、高らかに、スタメン11人がチャントを謳いあげて気合を入れる姿は初めて観た。なんだそりゃ!観てるこっちは度肝抜かれて、ズッコケた。けど、それで彼らは不安を全て吹き飛ばした。観ている我々にまで気持ちのスイッチを入れさせた。そして、自分の数少ない観戦経験の中ではあるが断トツに素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。

そんな深川グランドの熱さは、柏のベンチ外メンバーにも伝わる事になる。ピッチを覆う網を鷲掴みながら大旗振って応援する深川の姿に「俺たちもやらなきゃヤベーよ」「負けてらんねぇぞ!」と触発され、彼らもとうとう

『かっしわ オレオレ!』

と、若干の照れを克服してまで熱いチャントで柏を応援する様になった。彼らにとってはあまり経験の無い事だったと思われるけど、それほどに衝動に突き動かしたのは、この日深川が示した『青赤の誇り』だったと思う。


1-2で負けた深川にとって、その瞬間が引退のその時になった。泣き崩れる選手たちに、引退する選手のチャントを繰り返す深川クルヴァ。監督である長澤徹さんがみんなを集めて喋った後も、立ち上がる事が出来なかった。やっとの思いで、それでも泣きながらクラブハウスに戻る深川っこに拍手を送る。父母会の皆さんは、我が息子だけでなくチームメンバーみんなに「良くやった」どころか「ありがとう」と声をかけていた。一番彼らを見つめてきた父母会の皆さんこそが、彼らが最後にして最高の試合をして見せた事を良く知っている。

激闘終わった後、深川の彼らにとって「東京ラプソディ」とは何だったんだろう?とふと考えてしまった。

応援Tシャツをクラブ宛に発送する際に、とっさの思いつきなのか応援チャントを収録したCDを同封したらしいが、それはリンク先にある様に「チャントの一つでも覚えてほしい」という願いからだった。その影響があったのかどうなのか、しかし深川のみんなは数多くの東京チャントを駆使して立派な応援をする様になった。そして、あの時コールリーダーとしてのデビュー戦を飾った「東京ラプソディ」はこの日もヘビーローテだった。何故か彼らが気に入ったこの東京ラプソディは最終的には、苦しい状況の中で心の拠り所にまでなった。東京ラプソディを胸に、彼らは深川で誰に劣る事も無い、立派な『青赤の誇り』を手にした。


これからも彼らの人生は続く。

U-18に昇格できる選手もいれば、選手権に憧れて高体連に進む(もしくは進まざるを得なくなる)選手もいる。都外に進む選手もいる。これで一線から身を引く判断をする子だっているかもしれない。

それでも、彼らには青赤の誇りがある。青赤を愛してくれていた。深川グランドが、味スタが、FC東京が、彼らにとっては夢のパラダイスだった。

自分は下部組織に対するスタンスとして、強い弱いがどうだとか、トップのためにだとかそういう話ではないと言い続けてきた。もっと単純な話として「サッカーを、青赤を愛してくれる子供達がいれば応援するに決まってんだろ」と。

しかし今回は、それでも彼らの気持ちが突き刺さった。自分らが味スタで何となく歌っているチャント、いや、何となくだなんて思って歌う人なんていないのは分かっているが、そのチャント一つ一つがクラブの歴史を作り、子供たちの憧れとなり、苦しい時の心の拠り所にまでなっている事を、心に留めて覚悟して歌っている人が果たしてどれだけいるだろう?それは、気持ちが足りないだとかそういう話では無くて、ただこれほどの意味を持っているという事実に気付けないだけでもある。自分も気づいてなかった。しかし、それを知ってしまうと…

スタジアムで歌うチャント一つ一つが、良くも悪くもクラブの歴史を造っていく。憧れ抱く彼らのために、我々はチャント一つでこれからも青赤の歴史を紡いでいかねばならない。夢のパラダイスを、守っていかねばならない。それも、大人の務めなはずだ。

彼らがまた、夢のパラダイスに戻ってきてくれる事を心から願う。また、同じ仲間として、みんなで東京ラプソディ歌おうぜ!


※追記
皆さんコメントやスター等、ありがとうございます!今回の写真がNo Soccer,No Life!さんで見る事が出来ます。試合前に、胸張って東京ラプソディを歌う深川の姿だけでなく、むさしの激闘の様子も見られますので、是非その雄姿を見てあげて下さい。

「VAMO東京バモ 俺たちの誇り!」