デトックスの先にあるのは「学習の成果」か「繰り返される過ち」か FC東京 2018シーズンプレビュー

今年のFC東京について周囲と話をするにつれ、事あるごとに「普通だよ。ホント普通だよ。」と口にしている気がする。しかし伴うのは比較的ポジティブな空気感。実際には続けて「まずはそれでいいんだよ」とも添えている。

キャンプもTMも、情報としては人並みには追いかけていた。その答え合わせの様に、画面越しにインドネシアでの試合を、そして味スタでPSMを現地で見ることが出来た。

そこで見たのは、シンプルな4-4-2に、奇をてらわない人員配置。PSMでは執拗なビルドアップからサイドを徹底して攻略しようとするマリノスに対して、地道に横スライドを繰り返しながら、まずはあくまで中を閉じる基本姿勢。相手サイドにボールが入ってから初めてSBが強烈な守備アタックを仕掛ける優先順位。

至って丁寧。至って普通。まずは守備面の意識づけということで、第1段階の進捗としては順調に伺えた。

と、こうしてあるべき守備のスタンダードを示してもらえると、逆に「あの2年間は何だったんだろうな」とか考える自分が、女々しくて嫌になる。至って普通なフォーフォートゥーに、自分は何故こうも普通以上に沁みているのだろうかと。むしろこの2年間でどんだけ毒されていたのか、奇をてらう事がスタンダードだと慣れきっていたか。蓄積した毒素が徐々に消えていく体感が伴う観戦体験が、逆に去年・一昨年をフラッシュバックさせる。

ただ、実際にはそれがデトックスと呼べるものなのかは分からない。

みんな大嫌いな大久保嘉人は、少なくとも昨年リーグ戦においてはウタカと並ぶチーム内得点王だった。コスパの観点や、内外での言動による悪影響はあったにせよ、彼が毒素の一要素だったのは間違いないにせよ、少なくとも(FC東京程度のクラブのモノサシにおいては十分な)目に見える結果を残した選手に対して、自分は攻撃的な言葉を投げかける気にはなれない。

そんな嘉人が出て行くことも確かにデトックスの一種ではあろうが、じゃあその悪役に対して「東京はそうじゃない」と謎のイキりセリフで追い出したお局様が、恐らく未だ青赤戦士として今年もユニフォームを着ているであろう状況は、果たしてどうなのだろうか。

向き合っていないだけで、毒素が毒素のままである状況には、他方においては変わりないのである。体感しているデトックスは、当然ながらすべての毒素を対象にしているわけではないのだ。

失われた2年間で個々が受け取った最悪な光景が、必ずしも全てが解決された訳ではない。監督が変わり、立石が去り、2017年が2018年になっただけで、あの明らかに根深さが伺える問題が解決されたと思えるわけがない。同じ問題が再度晒される機会を、次に迎えた時にどうなるかは現時点では誰も分からない。自覚的に向き合い戦っているのは、吉本一謙以外に果たしてどれ程いるのか

それでも「なんとなくの仕切り直し感」と、加えて結果まで伴えば、ただのプラシーボもホンモノの特効薬に成るかもしれない。

そういう不安定な意味で、開幕戦の結果は例年以上に重大な意味を持つ。


面白かったのは、開幕前プレビューのひとつとしてリリースされたワッショイ兄やんの記事。

界隈に漂うポジティブな空気感、に対するカウンターもしくは逆張りと言ってしまえばそれまでだが、今の時点でこの点を匂わせておく事には、番記者としてそれなりの勇気が必要だったと思う。裏を返せば、これは書き手としての「醍醐味」でもある。

個人的には、もっとザワついて良かった記事だったと思う。ワッショイ兄やんとしてはそこそこ渾身であろうに、賛も否も反応が薄くてガッカリしているんじゃないかなと勝手に汲んでしまう。

兄やんの肩を持ってしまうのは、その事象に納得感があったからだ。つまり、ある程度少数の「スタメン+α」とそれ以外の選手とでのパワー差は、見た2試合でも明らかだった。

拳人・永井・敬真あたりの、インドネシア→PSMの「差分」選手たちは、2試合それぞれを見るに確かに「差」を感じる要因にも見て取れた。ただこの位置にいる選手はまだいい。ここにも食い込めていない選手のが数多いのが現状だ。

新任監督の開幕前なのだから、選手個々への浸透にバラつきはあって当然だ。一般的に、原因としてはまずここを疑う。

しかし長谷川健太監督が発するメッセージ「コンセプト」「課題」「評価」「目指すもの」などは、メディアから読み聞く限りでは至って明瞭だ。元々実績のある監督、指導力に問題があるとも思えないし、そもそも難しいことをやっている訳ではない。浸透具合に問題は起きにくいタイプと考える。

そこでリリースされた、兄やんの記事。それらの要因をメンタル切り口で表明するのだからセンセーショナルだ。いわば、デトックスされ損なった毒素とは別の、新たに生まれた毒素となるかもしれない。

 

消え去る毒素と、残る毒素。そして新たな毒素。

開幕戦では結果がどうであれ、いくらかのデトックスの成果を見ることが出来るだろう。昨年に比べてしまえば、何を出されても「ありがてぇ…」と美味しく食いかねない我々からすれば、それは久し振りの心地良さとして評価が容易に上振れかねない。

だが勿論、その心地よさはゴールではない。デトックスが進んでいる事には間違いないが、所詮それはマイナスがゼロに戻ったに過ぎず、大事なのはその先だ。

よりデトックスを進めるだけではなく、上手く毒素と付き合うこともしつつ。

その先に生まれる結果は果たして、失われた2年間で手にした、せめてもの学習の成果なのか?はたまた「いつものトーキョー」が如く、過ちを繰り返し、更なるどん底に向かうのか?それを決めるのは、今日の結果をどう見定めるか?にある。

 

それでもまずはまぁ、ようやく『普通の』シーズンが始まることを祝うべきなのかな。あらゆる人にとって「取り戻す」シーズンとなることを願って…