欲張りな最高傑作に容赦なく  1/5前橋育英-國學院久我山

勢いで飲みこむ事が多かった試合が続き、しかしこの先はそうはいかない。長所の攻撃が最初に目立って、試合の主導権をまず握ってきたが、それが逆になった時。そういうチーム、って割り切りが、果たして本人達が出来ているか?悪い言い方をすれば、この攻撃力、この守備なくせに、それでいて点取られてしょげる様だと観てるこちらとしては「なんじゃそりゃ?」となる。「点を取られてもかまわねぇ、1点取られたら3点返す」それくらいの割り切りをメンタルとして備えていれば、彼等にはまだまだ「この先」があるだろう。

5日の相手は前橋育英久我山が特殊なチーム故に、お互い知らないチームとの対戦となる事が自らに有利に働いていたが、次はそうはいかない。何より前橋育英。プリンス・高円宮それぞれで見せた攻撃力は本物だ。


次の試合はかなりの確率で、今まで2戦では求められなかったメンタルが問われる試合となる。國學院久我山の真価はここで明らかになるだろう。

とりあえず那覇西戦の記事を引用してみた。この文章から滲み出ているのは、久我山にあるネガティブな要素は目を潰れるほどに小さくなく、そこが晒され問われる展開になったときにさてどうなるか?といった、ある種否定が大きめなニュアンスだった。しかしそんな要素が「ほどよく」問われるであろう前橋育英戦は逆に楽しみでもあった。

しかし、そこが問われるまでもなく、そんなの簡単に超越してただただ圧倒されてしまった。前橋育英のパフォーマンスは圧巻の一言だった。

華麗に屈強に。冴える前育の攻守。守備では、切り替えを極限にまで高めた副産物のようなハードプレスでボールを拾いまくるし、攻撃ではスピードの緩めない高速ドリブルから変幻自在のフリーランで相手をズタズタに切り裂く。これだけ華麗に攻撃してもそこに全く「イロモノ感」が無いってのは、個として組織として、併わさり最高レベルなチーム力って事を前育が示しているということ。

ある程度は予想してたけど、まさかここまで押し込む展開になるとは。

久我山はギリギリで防ぐ。DF陣は1vs1も何とか頑張っていたし、際の際の部分でも気持ちは切らさなかった。しかし攻撃では相手のプレッシャーもあって久我山は一発狙いな攻撃が多く、らしくない感じが続いてしまう。長距離のスルーパスが目立ち始める。それでもセットプレーでチャンスは作るのはさすが。ここに久我山の地力の攻撃力が現れていると思う。

奇跡のスコアレスでHTに。前育の決定力不足をつつく事も出来るけど、それが無粋に感じてしまうくらいに内容差がありすぎた。ここまではまだ、前育が飛ばしすぎてて、久我山が抑えているというセンも無くはなかったが、久我山が前半で選手交代を行っている事を思えば、久我山にあったのは「耐えて後半勝負」というプランよりもただ単純な「焦り」だったと観るのが正解か。また前育のセカンド拾いまくりハードプレスが後半落ちてくれば…というセンも、これまたそんな展開想定出来ないほどに、前育の前半が「鍛えられた成果」でしかなかったから望み薄といった感じに。

かくして後半。予想通り展開は変わることなく終始圧倒。スピーディでテクニカルな前育の得点を盤石に守りきり前育が勝利を決めた。


高校の3年間なんて、長いようで短いチンケな期間。大事な時期に、しかし選手を育てるにはやる事がありすぎて。その中で指導者達は数少ない時間を、スキルをどう伸ばしていこうかの試行錯誤。オレはここを伸ばす。いやオレはこっちを。世界と戦うために、パラメータグラフのどこを尖らせるかに指導者の理論が表れる。久我山なんかはまさにそれ。平日2時間の限られた時間の中で、どのパラメータを伸ばすのか?どこを尖らせて勝負するのか?その成果があの美しいアタッキングだったわけだ。またその色の違いのぶつかり合いに相性が生まれ、ユース年代のゲーム性の高さも生まれてくる。ユースの面白さは育成期間としての面白さだけでなく、この多色の相性のぶつかり合いという面こそがユース観戦の醍醐味なのである。
そこで前橋育英は、攻撃も守備も、フィジカルも戦術も、もちろん攻撃の中でもドリブル・パスなど尖らせる方向は細分化されるけどそれも含めて、ほぼ全ての要素を前育は尖らせてきた。また結果、成果としてこれだけパーフェクトなチームが出来上がった。これはそうそうできる事ではない。このレベルの強豪校しかできない芸当だろう。
フィジカルは全くしてきてない久我山と、フィジカルも尖らせてきている前育。その結果、前育は久我山のプレッシャーを片手一本でいとも簡単にぶっ飛ばした。このシーンは衝撃的で、残酷だった。このフィジカル差、こういう相手と対峙されると、久我山はもう仕方ないの一言でしかない。田邊草民でどう点を取るか?試合中の試行錯誤が差を表していただろう。
ただ、こういう相手と戦ってみて、改めて久我山を評価もした。前述通り、自らの形を崩してまでも他の形で一瞬迫って見せたのは、総合的な攻撃力の、地力の高さに他ならないだろうし、厳しい前育の攻撃を身体張って守った守備陣の頑張りもよく分かった。この成績はフロックではないし、是非胸を張って欲しい。


田邊草民について簡単に総括を。逆説的になるけれど、彼は大学で伸びるようなタイプには感じられないし、才能を伸ばす場所として大学でなくてプロであったのは彼にとって喜ばしい事だったと思う。またその点、素材の延ばし方として日本サッカーの循環は間違っていないかと。
では東京サポとして、田邊草民はどうなのか?
彼が高体連屈指の素材なのは間違いないでしょう。他にもいくつかの高校のタレントと前評判された選手を観たが、半端なタレントよりもずっと高度。華はあるし天性のものもあるし、それは間違いない。
みっちり3年か。それくらいは必要。久我山ではフィジカルは全くしてこなかったので、そこの作り直しから始まって、その身体とテクニックの順化、そしてプロレベルを吸収するのに恐らくこのくらいか。特に草民の場合はフィジカルがイチからだから、より時間をかける必要がある。だから自然とこのくらいのスパンになるし、またそのくらいの気持ちでこちらも観る必要はあるでしょう。その間、ちょくちょく使う機会もあるかもしれないけど、多分大竹的に使うぐらいかと。
3年やって、ロンドンイヤーに大活躍して滑り込み代表入りくらいが理想でしょう。とにかく、素材は間違いないし、むしろゼロから作り直せる有利さを考えて、東京は大切に育てて欲しい。

歴史に勝った達成感  1/3広島皆実-作陽 1/5四日市中央工-広島皆実

駒沢開催な組合せの関係で、広島皆実のカードを2試合連続観戦。印象はまとめてで。
作陽との試合はかなり期待していたカード。作陽はやはり高円宮杯準決勝のレッズY戦の印象が良くて。かっきりと守り、賢く点を奪うスタイルは異色と言えばそうだけど、何というか全国大会に向けた練習量みたいなのをこのベクトルで感じられてスゴイ感心した記憶が残っている。何つーか、仮装大賞的な感心の仕方というか。
そして皆実。中国プリンスで広島ユースを抑えて優勝し、高円宮では予選Gで柏U18を撃破したりと近年の地力の強さを継続。こちらは初観戦なので新発見を楽しみに。
そんな試合は1-0で皆実の勝ち。作陽がああいうチームだっただけに、ある程度劣勢を続けてても「何かある」「何か企んでいる」と期待したりもしたが、結局そのまま押し切られ、皆実が完勝した試合になった。
皆実はまず守備。囲みにかける人数がしっかりし、そのテンションが落ちる事はない。体格はそこまで大きいわけではないけど、CBの2人中心に高さ勝負も頑張れる。それをフルタイム通しながら、攻撃。最終ラインの数歩手前にクサビ+起点でワンアクション、そこから逆サイドなり切り返しで相手かわすなりで相手ゴールに迫る。そこで11佐藤と9金島の画に描いたような凸凹2トップのコンビネーションが良好。距離感が良く、お互いの動きを知り尽くしている感のあるパスワークはなかなか見事で、この2人だけでもある程度の脅威は与えられそうなクオリティ。モチロンそこに絡む周囲のスキルだってなかなかのもの。
特に目立つのが11佐藤。小柄なテクニシャン。切り返しの鋭さで、中央の密集地帯でクサビを受けてもしっかりと攻撃を展開しきる。そのアイデアはゴール前でももちろん発揮され、その様は地元Jクラブに君臨する大エースと被る。
対する作陽は、結局何も出来なかったって事になっちゃうなぁ。元々人数かけて攻撃してくるチームじゃないから、その点で皆実との分の悪さはそもそもあったとは思うけど。ただ終了直前でも4バックが全く崩れずに自チームの攻撃を傍観する姿には少し恐ろしさも。浦和Y戦で見せたパーフェクトなCKなど、セットプレーにもっと活路を見いだす戦いぶりをすべきだったかと。


そして次の相手は四中工。三重の名門。この試合も作陽戦同様な展開で0-2で皆実が進出。
直前の國學院久我山がハード日程によるコンディション低下が観られたのに比べて、皆実はそんな事はなく作陽戦で観られた良さがそのまま出た。フレッシュに完勝しきった。
四中工について。うーんちょっと残念な出来だったかも。
システムは4-1-3-2。アンカー8が底を締め、攻撃の中心らしい14をトップ下に置くスタイル。その使い方もだし、本人もだし。まずチームとして配置で4-1-3-2が全く崩れない。きっかりとその距離感も角度も守りながらサッカーをする、いわゆる「ゾーンオフェンス」。ただそのせいで頼みの14には全くボールは集まらないし、いざ持っても雑なプレーに終わってしまう。本人14もこの日はイマイチで、どうもポジショニングに不満が残る。トップ下、中央に配置されてるのにボールサイドに寄らない、ゴール前の攻防に関与しないポジ取りでまともにボールに触りに行かない姿勢には疑問が残った。正直に申せば、チームとしてはゾーンオフェンスなあまりに、チームにダイナミックさが無くなり、そこにはさすがに古さも感じた。実際に皆実としては守るのは楽だったのではないだろうか?四中工「栄光のエースナンバー17」を背負った榎も、見たところ単体での打開力があるわけでは無さそうなのでコレでは厳しかった。


二戦通じて、皆実は正当に勝ち進んできたし、それに見あう実力も持ち合わせていた。守備意識の高さが大きく触れられがちだが攻撃もなかなかにスキルフル。高円宮時点での広島Yとの比較になってしまうが、皆実が中国を制したのも納得がいく強さだった。そんな皆実も、四中工戦の勝利が決まったときにはベンチの選手も飛び出しての大騒ぎに。近年躍進してきたこのチームもベスト4は初めてだったらしく、その壁を突き破った喜びにピッチは溢れかえった。
有象無象ひしめき合う冬の選手権もベスト8にまで絞り込まれるとなかなかのメンバーが揃ってくる。しかしベスト4となるとその格はさらにグンと高まる。今年は違うけど、夢の国立の切符を掴む為のこの関門は、常に厳しく、夢みる高校生達の壁として立ちはだかり続けた。今回の選手権を多少は見続けて、そして多少の数のチームを観てきはしたが、皆実は間違いなくベスト4にふさわしいグッドチームである。関門は関門として、選別は正常に機能した。
選手権の在り方については諸説ある。どちらかというとJユースを観る自分としては、文句やら不満やら羨望の眼差しやら、複雑な感情がこの「煌びやかすぎる舞台」に注いでしまっている事を隠すつもりはない。そもそも高ぇんだよ1500円って。チケットがオガサだし。つかチケットがカラーだし。そもそもチケットがあるし。カメラの数もハンパ無い。ベンチを移すためだけにカメラを用意するのが信じられない。「うおー今日カメラあるじゃん!J's GOALかなぁ?ダイジェスト観られるかなぁ」とたった1台のカメラが深川グランドに置かれただけでも興奮していた12月幾日の自分が情けなくなる。それは間違いなく『嫉妬』だろう。
しかしこの日彼等の喜びから見えたのは、未だ夢の舞台であり続ける聖地・国立競技場の威厳であり、ベスト4のメンツから見えたのは、国立へ向けての関門が正常に、厳しく働いているという正しい「大会の威厳」であった。
改善の余地多い大会であろう事は間違いないが、その威厳は今も高く保たれている。そしてその威厳は憧れとして、多くのサッカー少年達の夢として今もあり続けている。それは一つ、大切な事だし、その威厳はいつまでも美しく、在り続けてほしい。今大会の選手権観戦は恐らくこれでラストだったが、多少なりとも観戦してきてその大事な部分に触れられた事は自分にとって本当に良かった事だと思った。