あつはなついね -大宮戦

試合前に行われるウォームアップ、特にシュート練習の様子を眺めながら、これから始まる試合が果たしてどうなっていくか?出場選手は今日は活躍してくれるのか?なんて事を妄想して楽しむ人は、スタジアムに足を運ぶファンには「あるある」レベルの一つの楽しみとなっているはず。

日曜日の名古屋戦でのシュート練習なんて、まぁものすごかった。前線の4人のシュートは、受ける塩田にとってはとてもじゃないけどノーチャンスな、エグいコースにバンバンと決まってて。あぁ今のウチら、ウチの攻撃陣ってすさまじいんだなと。このシュート練の積み重ねだったら、ナオ様も平常心でボカスカとゴールを決めちゃうよなと。これが自分にとっての生涯で一番衝撃的なシュート練だったと思われる。

またジャンルは変わるけど、最近のFC東京U-18の試合では、HTに控え選手達がシュート練を行うんだけど、これがまた面白い。ボールを叩く役のコーチさんが必ずしも中心には立たずに右に左にズレた場所に位置取り、返す球もバウンドさせたりゴロだったり、中央に出したり自分の背後に落としてみたり。直前で「上!」とか「ダイレ!」とか声かけてシュートを指定してみたり、選手も自主的にシュートパターンを自らの発想で工夫してみたり。で最後には「よしケンジ(控えGKの16守山)、こっから最後まで全部止めよう!」といきなり無茶ぶりシュート合戦が始まって、燃えるケンジが止める!止める!!止める!!!でも最後に14ヒサオにドカンと、非情にもぶち破られてズコー、みたいなね。これがスゲェ面白いんだよね。ゴル裏観戦で見づらすぎる小平の人工芝グランド観戦の最大のお楽しみ。

閑話休題。さて、この日の大宮戦。シュート練を見てて皆さん、ある程度の覚悟をしていたのではないだろうか?
とにかくシュートが決まらない。際どいコースを狙いながら、ポストに当たりながら、それが入っていた日曜の名古屋戦と決まらないこの日の大宮戦。あのナオ様ですら、らしくない外し方をし続ける。「あぁこりゃ夢から覚めちゃうかな?」なんて口にして「しまってた」からね。今日は厳しい戦いになる、シュート練から自分はこんな妄想をしていた。


予感は当たる。
思えば当然の話。中二日→中二日の厳しい連戦、それをしかも同じスタメンで乗り切る。厳しいコンディションであることは当然だった。思った様なサッカーが出来ない。パスは結果ミスとなって相手に渡ってしまうことが多いし、何より前半の東京は、どうも「大宮の檻」の中でだけパスを回していた印象。ダイレクトでトントーンと繋がった様に見えながらも、所詮は大宮の檻の中。檻をぶち破る様なダイナミックな展開には至らない。
パス自体が繋がらない原因。その根本が連戦の疲労なのは共通の見解として、じゃあ疲労によって「どうなった」から繋がらなかったのか?って部分の見解として、自分は「小さい動き」が「少なかったから」とは思わなかった。及第点レベルというかね。ここ最近のハイアベレージに比べたら少なくはなったけど、余所と比べたら十分以上な動作はしていた(正直次の日のサテライト戦よりも出来てたとは思うし。サテ戦については別エントリで後述「予定」)。

それよりも疲労のせいで「技術がブレた」って方のが大きかった。長友のトラップ然り、梶山のゆるふわパス然り、米本の止める・蹴る然り。自分のところにボールが来る、って準備、意識をサボってるからいわゆるQBKになる場面が多かった。特に米本。疲労で思考力が落ちて、また水分の欠乏が…なんて某人間力の解説が脳裏によぎってしまう。相手を外す動きはしていても、パスがぶれて相手へ一直線みたいな。「小さい動き」はしていたけど「技術がブレた」自分はこう捉えた。

まぁ、結局は両方なんでしょうけどね。どうせ原因は片方のみじゃあない。ただ、自分は「技術がブレた」事の方を強く言っておきたいのよ、とこれは所詮好みの問題。


さてこうも「小さい動き」はこの疲労の中で良くやったとは言うけれど、でも「大きい動き」が無かった。「大宮の檻の中」の原因。ダイレクトでトントーンも、相手DFライン上で背負って起点になって落として、サイドに展開するなりそのままシュートに行くなりって形。強烈にDFラインの裏をぶち破る!ってのが無かった。

「大きい動き」とはつまり、裏を狙う動き。大宮DFにとってはどんだけトントーンとパスを回したところで自分の視野の中での動きだから、見ておけばいい。ステイで済む。これではいくらパスを繋いでも何の意味もない。「人もボールも動くサッカー」というのはつまりは『相手を動かす為のサッカー』だから。人もボールも動いても、相手を動かせなきゃ意味がない。

相手を動かすために「大きな動き」であり、それは例えば裏を狙う動き。相手は裏への走り合いに動き、そのカバーに動く。DFは「視野外への意識」を強めなければならない。そんな動きが出来てたのはナオ様くらい。頼みのカボレはその面での働きがほとんど出来てなかった。


だからこそその中で、しかもあのタイミングでの得点なんだから、デカい事この上なくて。困ったら平山。「これが使えるのが大きいんですよね」とはスカパー解説の柱谷氏のお言葉。
CB今野からは相変わらず高精度な逆足フィード、ピタリと入った平山はカボレへの落としを敢えて叩きつけるというアイデア。羽生の確実なフォローランと、それを逃さないカボレの関係性は好調の証。受けた平山はコンパクトで早い足の振りで、確実にゴールに流し込む。

実は「夢から覚めちゃった様なシュート練習」の中で、引き続き好調さを見せていたのが他ならぬ平山相太。硬軟織り交ぜた多種多彩なシュートパターンを見せていて、シュートが決まらないその他大勢の中で好調維持の平山はとびきり目立っていた。恐らくシュート練を見ていたスタンドの東京サポはみんな「今日は平山さんにお願いしますか」とか言っていたはず。


絶好の気分の中で後半へ。そのおかげか大きい動きの部分は多少修正が為された様に思う。平山の得点が楽にした部分もあり、何より城福監督はHTに「前線の二人はDFの裏を狙うこと」とそのものズバリの指示を送っていた。おかげで後半開始1分も経たずに平山は適当に裏にポンと蹴って「カボレ走ってよ」パス、そこからまた1分も経たずに左サイドライン際を羽生からカボレに裏へのパス。
この後もカボレの裏への動きはいくつかあったけど、正直最初の数本、これだけでも良いんだよね。それくらいに大きい所作。
球種がスライダー・フォークだけだったはずの中で、一発カットボールを投げておく。その後でカットボールを一度も投げなくても、相手打者はその先もずっと「カットボールもあるかもしれない」と意識を引きずる。これでね、キャッチャー八潮も組み立てが楽になるのよ(元ネタが分からない人はスピリッツ連載中の『ラストイニング』を読もう!ジャイキリばっかり持て囃さないでこっちも読め!)

東京も同じく。裏という選択肢を植え付けたおかげで後半はパス回しも楽になった。同じ檻もどこかスペースが大きくなり、「住めば都」的なゆとりも感じられる様に。裏を狙う動きを相手に意識付けたことで、それ以外の「大きな動き」のイメージが湧き出る「状況」が、舞台として仕立てられたというか。
それに更なるアクセントとして60分からは田邊草民も出場。

このタイミングでこの状況で、1枚目のカードとして切られる意味は言わずもがな。しかしそれに足る活躍もしてくれる。チームとしての攻撃に「角度」を付けてくれる存在というか、攻撃時に揃いがちになるチームのベクトル方向を良い意味で乱してくれる。加えて最近は守備が本当に良くなった。変なところでドリブルで突っかけてやられる的な、時に「しょうもない取られ方」をするせいでごっちゃになるけど、守備に関しての草民はかなり頼りになるようになってきた。当たりに強いワケじゃないけど、当たり方を知っている。ヨネほどはいかないけれど、彼もまた「足が伸びる」タイプ。危険の感覚をする場所でしっかり身体も張る。76分・86分での守備は素晴らしかった。「守備はしなくていい」な選手権から1年経たないうちに、ホント良くなったと思う。


アクセントも入り、トドメの追加点が欲しい中でのセットプレーで追加点なんだから、デカい事この上無くて。つらい時にはセットプレー。これで点が取れる様になるといよいよ東京は強くなる。
この場面は大宮の守備もどうもよく分からなくて。自分はゾーン+マンマークの形だと思ったんだけど、たぶんマトがカボレにマーク付いてて、平山には富田が付いてた。トミダイとマトのヘッダー力の序列がよく分からないんだけど、カボレにマーク、付けるかね?しかも今ちゃんに付いてたっぽい塚本が信じられない離し方をするわ、何よりブルーノのところだわでもうしっちゃかめっちゃか。大宮のセットプレー失点率とか知らないけれど、正直これは欠陥。
そのおかげで東京はとどめを刺せたし、ついにセットプレーでの得点を果たした。こういうコンディション的に厳しい試合ではセットプレーは頼りになる武器。小平では結構練習しているみたいだけど、その効果も促進される結果が出たことがこの試合最大の収穫かと。やっぱりセットプレーは大事だよ。

トドメはセットプレーでの2-0だったと思うけれど、今回も相手の心をへし折る3点目が。それまでの審判ジャッジなどは大宮にとって不幸な面もあったけど、何と言っても平山相太。相手をイラつかせきった上で鮮やかなライン上の駆け引きからの流し込み!バキッと折って、チャンチャンや。


正直、大宮は拙かった。前述のセットプレー守備もそうだし、何より日程差を感じない運動量の低さ。ウチ的に結構マズかったパスミスを、しっかりとカウンターで脅威にし切る力が相手にあれば果たしてどうだったか?この日のウチは守備のセットを整えるスピードが極端に遅かったから、もしかしたらもしかされてた、かもしれない。
相手がこうな出来だったら、しっかり勝ち切る。例えこちらのコンディションがどうであろうと、飛び道具を使うなり何なりで確実に。それが出来る強さ、ってのも世の中にはあるわけで。1-0かどうかの勝負だったこの試合を結果3-0というスコアに仕上げたのはこの賜物。また違う強さを見せての勝利が喜ばしいわけがない。


今のサッカーに手応えを感じる様になって、当初は自分も「強い相手とやりてぇよ!」なんて浮かれたことも言っては来たけど、それも今ではニュアンスがちょっと変わってきた。今回の過酷な相手は夏そのものであり、それはこれまで東京が苦手にしてきたソレだった。過酷な相手と対したことで「保った部分」と「保たなかった部分」は露骨に顔を出し、結果「敵は我にあり」を明確にあぶり出すことになった。
そう、敵は我にあり。今の我々は、我々を越えることが出来たのか?
答えは「否」。
これから本格化する夏に対して、我々がどう対する事が出来るのか?夏場の過酷さがサッカーに与える影響、その一端を今回、身に刻むことになった訳だが、それだけではなくそれがもっと金属疲労的に積み重なっていったその時、今の我々は昨年あれだけ苦しんだ夏を乗り越える事が出来るのか?
それだけではない。
上位陣が全て躓いたことで、とうとう上位戦線に加わることになった。大きく抜け出している鹿島はさておき、2位浦和とは勝ち点3差、得失点差を含めると次節で2位浮上の「可能性」が出てくる位置にまで来た。
当然、忘れたわけではない。我々が昨年、こういった試合をことごとく落としてきたことを。「勝てば○○」で勝てずに、ついには優勝争いに加わることが出来なかったことを。リーグでも、天皇杯でも。

次節広島戦。昨年何度もぶつかっては跳ね返された『壁』が今年も視界に見えてきた。いくら強いサッカーをしていても、それに手応えを感じてても、この壁を打ち破らない限りは昨年と何も変わらない。何も為し得ていない。肝心の壁を越えなければ何の意味もない。
8連勝がぼやけさせてる。強者・川崎とのクラシコがぼやけさせてる。関係ない。広島戦にそびえ立つは昨年我々を跳ね返し続けてきた分厚い『壁』。


改めて問う。
我々は、我々を越えることが出来たのか?
夏はまだ、始まったばかり。
あつはなついね。