回したツケをいつ返す 〜FC東京 前半戦総括〜

 福西・ワンチョペという大物を獲得した大胆な補強と、東京に初タイトルをもたらした原博実監督の招聘をもって、開幕前に「ビッグクラブ化宣言」を行い臨んだ今シーズンのFC東京。首都に籍を置くクラブとして、当然とも言える目標をハッキリと明言して臨んだ07シーズンは早くも折り返し地点に立ったが・・・
 6勝 2分 9敗 21得点 29失点、13位と降格争いから抜け出せない低迷を見せているこの結果は前述の宣言を考えればあるまじき成績と言っていい。
 この不本意な成績はビッグクラブを宣言した影響なのか、今年の補強に失敗したと言えるのか?どれも少ないながらの影響はあるかもしれないし、それをここで断言するにはまだ早いとは思う。しかし、今年の低迷に見せる問題点は今年に限ったものだったか?楽観的な意識が抜けないまま積み重なってきた問題がこのタイミングで表面化していないだろうか?
 なので、このタイミングでFC東京の前半戦を総括してみる。何がいけなかったのか?何が足りないのか?それは一時的な問題なのか?3つのキーポイントから今の東京を探る。

  • 『ボールの奪い方』が無い東京。自ら奪える個の強さが足りない

 今シーズンは始動日早々の茂庭のケガから始まり、期待されていた新外国人エバウドもケガと調整遅れとCBの悩みからシーズンが始まった。序盤は対人に強さのある徳永がCBを任されてきたが、その後3バックを経て今は今野・藤山の4バックに落ち着いている。
 問題はCB候補の吉本・八田を使えずに緊急避難的な今野のCB起用を定着させざるを得ない、今のCBのコマ不足であろう。06シーズンの収穫の一つであった増嶋をレンタルで放出できるほど計算が立っていたはずのCB。経験不足の吉本・八田を控えとするのは、シーズン前には不安はあるもののこの2人を育ててモノにするという意思の表れと受け取った。実際吉本は開幕スタメンとして期待をかけられていたはずだ。しかし吉本はこの開幕戦から出場機会を逃し続ける。将来を期待された選手を潰しかねないメッセージとしか取れないし、配慮に欠ける意志だと思う。結局こういう形でしか乗り切れないのならば、今までもCBの層の問題があった以上、その補強プランの計算の甘さは指摘せざるを得ない。
 今野・藤山のコンビにする事で問題になるのは今の東京の守備形態がリスキーなモノになってしまう部分。共に突出したカバーリング能力でボールを奪うタイプだが、それが発揮されるのはポジション上、ゴール前の最終局面になってしまう。今野が中盤にいないこと、そしてCBに屈強さが無いことで今の東京は相手へのプレス・カバーでミスを誘う形でしかボールを奪えず、選手自らがボールを奪えないという問題が残っている。23日のG大阪戦の3失点目を極端な例にすれば、4人がボールに向かってもボールが取れないという事態を引き起こす。ボールホルダーに寄せる素早さ、タイミングというのは意識付けもあるがやはり天性のセンスがモノをいう。今野のポリバレントさに頼ることで、そんな今野のスペシャルさが生かせていないのが、今の守備での現状だ。

  • 『セットプレー』がチャンスにならない。

 高い選手、セットプレーに強い選手もある程度揃っているもののそれが生かせない。理由は絶対的なプレースキッカーの不在だ。ここ最近の東京のキッカーを挙げれば、梶山・馬場・栗澤・石川・鈴木規、直接FKとなるとルーカスなどザラに上がってしまう。しかしそれでも、曲げる・落とすで直接ゴールを狙える選手がいない。鈴木規の弾丸系FKもあるが、それ以外での直接FKを決めた得点は、少なくとも一年以上記憶がない(いつ以来でしょう?)。
 長年東京のプレースキックを任されてきた宮沢は東京を去った。今や直接FKは規郎頼みでサポーターもそれしか期待できていない。相手もそれが分かっているのか、弾丸系のみしか警戒しなくなった(先日、その裏を付いて規郎が曲げるFKを蹴っていたが)。
 ゴールの3大要素(@山本昌邦)で相手に脅威を与えられないのは相手DFに対するプレッシャーにも関わる。恐らくチームは問題とは考えていないようだが、上位を狙うならばいい加減「蹴れる選手」ではなく「狙える選手」が必要だ。

  • 自身にではなく、周囲に波及させる『メンタリティ』が不足

 昨年はG大阪戦、川崎戦で派手な逆転劇を演出してきた東京だが、今シーズンは「打たれてから目が覚めるようではダメだ」と試合のコントロール、モチベーション操作も課題の一つに挙げられていた。しかしその気持ちの強さが、今季は結果以上に現れていない。逆転勝利した試合が一つもない(ナビスコまで広げれば、予選6節横浜FC戦の一試合のみ)というのは、無視してはいけない事実だろう。
 ひたむきに頑張る気持ちを見せてくれる、というのは東京に昔からあった『スタイル』なはずだ。しかし、今一番気持ちを見せ、ファンの心を掴んでいる赤嶺は何故かベンチにすらまともに入れない不遇ぶりだ(唯一の逆転試合は赤嶺の2ゴールによるもの)。そんな赤嶺に代わり出場する、監督が寵愛する選手は結果を出せず気持ちの見えないプレーに終わってしまう。スポットで活躍できてもコンスタントに活躍できないで終わる。
 点を取られる。選手もサポーターも下を向いてしまう。そこから切り替えられずにズルズルと引きずってしまう。自らに対して厳しく接するメンタルはプロとして素晴らしい強さかもしれないが、それをチーム全体に波及させられるメンタル・プレーを持っている選手がもっと台頭してこないといけない。


 ここまで課題と思うものを挙げてみたりしたが、自分にはここで挙げてきたどれもが東京が長年抱え続けてきた課題であるように思える。昔からFC東京は、「茂庭・ジャーン」の代わりのCBは層が薄かったし、直接FKの得点は少なかったし、打たれないと目覚めないチームであった。しかし今年も昨年も、どんなに降格の危機があっても強化部は補強に対して否定的な発言を繰り返してきた「今ある戦力での熟成を優先させる」と。しかし、その期待の選手達は成長を見せていない。軸となることを期待されていたアテネ世代組は確固たるパフォーマンスを見せられず、今季の軸として定着しきれていない。そしてその期待を北京世代へとシフトしつつある。そうして東京は常に「素材」に期待し続け、しかし素材は育成し切れられず、また次の素材を探し出し、それを繰り返しいつしか素材ばかりで作り上げられたチームとなってしまった。その域を脱しないまま、熟成しないままに課題を後回しにし続けてきたこのツケは、いつかは表面化する「必然」だったと言える。


 東京VがJ2に在籍する今、FC東京はトップカテゴリー唯一の首都東京に本拠地を置くクラブだ。しかしそのFC東京もJ2降格へいよいよ本格的に匂いを漂わせてきた。万年中位から更にその下へと行こうとしている危機的状況の今、東京が行わなければいけないのは根本からの意識改革であり、感じなければいけないのは危機意識である。半年経っても選手のチョイスに終始し、チームの骨格を今までの貯金に頼るままでは、戦力の熟成はない。ここで大きく変われなければ、最悪の結末は、近い。