引退に思う

フミタケの引退を祝福した、あの幸せ感が今も脳裏から離れない。
ウォーミングアップに出てくるフミタケ。手を振り、拍手でスタンドに一礼。スタンドからは、それこそ先導者も太鼓も何もなくとも自然と湧き上がってしまうコール。
「フミタケ・トウキョウ!」
「フミタケ〜フミタケ〜俺たち〜の〜フミタケ〜」
涙を拭いながらアップを続けるフミタケに「まだ泣くの早いよ〜」ともらい泣きするサポーター。そうまだ早い。引退なんてまだ早い。木曜はフルであんだけやったじゃないか。未練がまだ残る。
J1初出場のGK塩田はアップが終わり先に帰る。しかし、終わったのに何故かジャージを脱ぎ始める。ジャージの下に着込んだナンバー10のユニを誇らしげにスタンドに見せつける。気持ちを見せてくれた塩田に対しても、自然とコールが始まってしまう。
木曜にフミタケが見せてくれた最後の執念が乗り移ったかの様に、耐える。耐えきり、引き分け。これだけの気持ちをいつも見せてくれれば、と愚痴もこぼしたくもなるが、それは俺たちサポに対してもよく言える事でどっちもどっち。
そして、挨拶。あの観衆、あのステージ。最高の舞台でそれぞれへの感謝を口にする。言いたいのはこっちなのに。
場内を一周。挨拶。胴上げ。フミタケは「選手冥利に尽きる」と言ってくれた。ウチらとしても、こんなに嬉しい事はないだろう。


選手としてだけを考えてきたプロ生活であろう。そう考えてしまうと確かにプロ生活の幕を閉じるというのはとても辛い事だ。悲しい事だ。
しかしそれを選手個人として考えると、サッカーを職業としサッカー選手としての人生を歩むことができ、ピリオドを打てるというのはこれは一般人な俺からすればとても幸せな事だと思う。たとえそれが、戦力外通告やケガがきっかけだったとしても。不満だ、悔しいなど罰当たりだ。選手はもっと自分が引退する、もしくはなってしまうという状況であれど幸せを感じるべきだ。
そして、そんなサッカーのことしか考えてこなかった選手にそうだと気付かせてあげるのが俺たちサポーターの役目だ。引退することはこんなにハッピーな事なのだと。
気付くと、そこに未練は全くなくなっていた。引退発表直後は多くの人にあった未練も、日曜日のあの試合の幸福感を味わった後からは個人的にはとんと聞かなくなった。これはああいう形で引退を迎えられるフミタケがどれだけ幸せだったかを気付いた成果だと思う。そして、その気付きはフミタケ本人にも間違いなくあったはずだと確信する。その気付きはフミタケの次のステップを後押しするものになったはずだ。
リーグ最終節を迎える。次がホーム最終戦のチームはセレモニー等を用意してくれるところもあるのかもしれない。けどそんなの要らない。そりゃあるに越した事はないが、ウチらからの感謝は無くたっていくらでも伝える事が出来る。90分、それこそ開門からずっとでもいい。ウチらでいくらでもセレモニーは作れる。
サポーターは精一杯選手に気付かせてあげて欲しい。引退は幸せな事だと。
次がホーム最終戦の他サポの皆さんは精一杯感謝を伝えてあげて欲しい。もちろん、アウェーとして最終戦に臨む人たちも。大分には行けないですが、フミタケにもそうだし、それこそ大分の増田選手にももっと感謝を口にしてあげて下さい。よろしくおねがいします。