いつものように向かう新宿駅。2124発各駅停車。京八行きだったかな?2122発急行にも乗れたんだが、座ってゆっくり帰りたいこともあっていつも各停を利用している。ハラ減ってたのでどうしようか迷ったが、まぁいつも通りに。
乗るのは2両目。下車駅の階段が京八よりにあるので必然的に前の方へ。ただ、越してきたばっかなので「なん両目の何番目トビラ」が一番近いかまでは把握していない。前の方に進み、空いてた席があったから2両目に。ただ、何となく。
電車で座ってる時にすることなんて、音楽聞くか本読むか寝るかの三択だろう。ケータイいじることもあるか。オレの場合はとにかくすぐ寝る。せっかく座れたんだから。発車して、代田橋も過ぎてそろそろ本寝に入りかかるところで事件は起こる。
ドカンとまずとてつもない衝撃と音。車内で聞こえる音なんて決まりきっているので、ただでさえ変な音が聞こえれば気になる位なのに。急ブレーキで前方にみんな倒れ込むが、それも留まるくらいに、何かを踏んだような縦揺れがガタガタ続く。電車が止まり、電源ストップ。非常電源に切り替わる。悲鳴。
電源はすぐに復旧したが、あまりの衝撃と音で騒然。ただごとじゃない空気。「ただいま、車と衝突しました」とのアナウンスに騒然とする。先頭車両を覗く乗客。となりの人と状況検証。確かに車にぶつかったとなればあの衝撃とパーツを踏んでいるようなガタガタも納得できる。「ってことは、爆発の可能性もありますよね」という発想にたどり着くのにそう時間はかからなかった。言われなくてもガスの匂いがかすかに立ちこめる。電車からはガス圧が抜けるようなシューという音が止まらない。その頃に「爆発の可能性があるので、ゆっくりと先頭車両に移動して下さい」とアナウンスが入る。いよいよもって・・・となりの人ととりあえず先頭に移動する。
連結部分を越え一両目に入るのに、車高が変わっている。一両目が脱線している様子はこの時に分かった。
とにかく情報がこない。駅員としても状況を確認することが先決になろうからそれは当然ではあるが、車内からしか分からない状況証拠であれこれ考える乗客は悪い方向にしか頭が回らない。サラリーマンの人が運転室に向かいめいいっぱいの力で叩く。どうなってるんだ!運転手が居るわけ無いのに。トビラを叩くでっかい音でとなりに座っていた女の人が怯えている様子が分かったので、「そりゃいないですよね」と言葉をかけてあげる。「そうですね」女の人もこれで落ち着いたみたいで安心した。この時に気付いたが、こんな緊急事態で自分自身は対応としては冷静な状況判断が出来ていた方だったのかもしれない。パーティーリーダーとして山に登っていた経験が少しは役に立ったのか。危険にただ鈍いだけかもしれないが。
「レスキューの指示でこれから最後尾車両から乗客を降ろすので、降りたい人は落ち着いて最後尾車両に移動して下さい」みたいなニュアンスの放送。移動し始める人もいたみたいだが、とりあえず待機の判断。「爆発の危険があるって言って先頭まで移動したのに」混乱にわざわざ向かうことはない。緊急弁をいじり乗客が扉を開いたりとか始めるが自身は状況判断に終始した。『乗客の判断でみんなが外に出ることで混乱が起きないか?現場に野次馬とかなり出したらそれこそ大変だ』ということを考えていたと思う。「レスキューが来てるんなら、プロに任せた方が良い」ホントにヤバイ状況だったら助かるために自分で状況を切り開いて行くことも大事かもしれないのだが。その後明大前駅からか職員が来て、指示が始まったので線路に降りる作業を始める。
あの長い座席って、一人でドンと簡単に取れるように出来てるのね。トビラから線路まで座席で橋を架ける。乗客が線路におり始める。こんな状況なのに自分は意味もなくレディファーストだとか言ってみたり。周りの女性が脱出したのを確認してから線路に降りる。線路を歩き、明大前に到着。
大前駅改札までたどり着くと案の定、人でごった返していた。ただ、あまりにも駅員に人が群がりすぎて駅員が機能していない。状況が全く分かってない人が多数いた様子。特に、井の頭線は平常運転なだけになおさら。となりにいた人とはここまで行動を共にしていたが、「新社会人にタクシーで帰る金はないですよ」と現実的な問題に話が切り替わった所で安心してここで別れた。「気を付けて帰って下さいね」と振ったら笑顔で返してくれた。
家について思い返すと、不謹慎な話ではあるが、不幸中の幸いな部分が実はあったと思う。まず最寄りが明大前だった事もあって井の頭線で中央線に逃げることが容易だったこと。他の中途半端な駅だったらバスだタクシーだの大混乱に巻き込まれていただろう。そして当該車両に乗っていたことで「これは今日中の復旧は間違いなく無理だ」と分かっていたこと。京王線は人身事故でも復旧が早く、止まらないことで有名だったので、状況が分からないままだと復旧を待っててさらにドツボにはまってる可能性もあった。情報が多かっただけに迅速な判断が効いたと思う。
だからといって、もうこんな経験は一切御免。変な汗が出て、イヤな震えと不穏な空気はもう体験したくない。たまたま席が空いて無くて、一両目に入っていたら・・・些細な判断に潜む人生の分かれ道に恐怖。
少なくとも当分、一両目には乗りたくない。
http://www.asahi.com/national/update/0405/TKY200604050310.html