時間は創るだけのものではなく「合わせる」ものだという話

サッカーにおいて、ボールをキープし「時間を創る」事は良い事とされている。しかし、これは本来の正しい事象に対して、適した言葉ではないなと思うことが多い。

「時間を創る」ことが正となると、その評価は加算評価のみで行われるニュアンスに感じてしまう。ボールキープで時間を創れば創るほど、加算されればされるほど、本当にその評価は高まるのか?

答えはもちろん否。

それは、ここ数試合のディエゴ・オリヴェイラの姿にモヤモヤする感情が証明している。あそこまで頑丈にキープ出来ることは確かに凄いが、果たしてそれが正解なのか?もしくは効果的なのか?ということ。あれが正しいとは、どのサポーターも何となく思えていないはずだ。

あるべき正しい事象に、正しい言葉を添え直すのであれば。それは「時間を創る」ではなく「時間を合わせる」もしくは「時間を操る」であろうか。つまり、”正しい時間”という地点(ポイント)がまずあって、そのポイントにジャストにハマるかどうか?が正しい事象なのである。単純な時間の足し算だけで、正しい時間には辿り着けず、正しい事象も起こり得ないのである。

 

まず、”正しい時間”を定義する。正しい時間とは、場面場面において下記の3軸によって定められる。

  • ボールの出し手
  • ボールの受け手
  • 相手の守備状態

「出し手」と「受け手」の2軸だけで考える分にはシンプルだろう。受け手の動き出しが、1秒後にジャストに到達するのであれば、出し手はそれに合わせてパスを届けねばならない。逆に、出し手のトラップが大きく崩れて3秒経たないとパスが出せない中で、受け手が「2秒後に向けた動き出し」を行うのは意味がない。

そこに相手の守備状況が3軸目として加わる。CBのあいだが大きく空いたからパスが通せる。しかし相手CBもそれに気づいて2秒後には門が閉じる。逆に、出し手がボールを2歩持ち出すことで生まれる隙もある。攻撃側の位置、守備側の位置、ボールの位置、何よりゴールの位置。2秒後なのか、3秒前だったのか。状況に応じて、常に揺れ動き続ける要素。

この3軸によって、都度定まる”正しいポイント”。いかにこのポイントを先手たる攻撃側が主体的に生み出し、ポイントに合わせにかかれるか?が時間を操り、時間を合わせることであり、結果「相手守備を崩せる」のである。

こうして正しいポイントを定義し直してみると、そのポイントが、90分のプレータイム中にピッチ上で激動を繰り返しているであろうことが容易に想像できる。3秒後だったものが、急に1秒後になる事もある。ボールを蹴るのに2秒かかるのを、ポイントに合わせるために1秒で蹴らないといけない場面もある。

そう、ポイントに合わせるためには「時間を創る」だけではなく「時間を省略」しなければならない場面もある。プラスの無理だけではなく、マイナスの無理も必要。つまり、事の本質は「プラマイゼロに向けた作業」なのである。そして単純な足し算によってポイントを逃してしまえば、それはいわゆる「機を逸する」となる。

 

ディエゴの話に戻ると、あの長尺キープの先に「正しいポイントに巡り合うことは無い」以上、あのキープがいくら加算されたところで評価はされないだろう。加えて説明すると、一般的にFWの位置で求められる「時間の加算」が例えば5秒程度だとすれば、MFで求められるのはそれより短い3秒程度なはず。自分よりゴールに近い味方がいるほどに、求められる加算時間は短くなるからだ。そういう意味では、MFの位置では「加算の技術」よりもむしろ「減算の技術」の方が問われるのだろう。梶山陽平の変態キープは、加算のためな場合もあれば、減算のためな場合もあった。

FW概念の時間操作を、そのままMF位置で行われるミスマッチが、ディエゴに対するモヤモヤの正体だろう。もちろん、正しいポイントを生み出せない「受け手側の問題」もあることは言わずもがなだ。

 

最近、この「時間を操る」プレーヤーがFC東京にも久しぶりに現れた。先日のこのプレーはとにかく唸った。

まず、正しいポイントの出現を待つ「加算フェーズ」に入る。巧みなキックフェイント、左手での相手ブロックで時間を創る。受け手の動き出しと、相手守備組織の”門が開く”ことを待つ。

そこから室屋の素晴らしい動き出し。受け手のジャストに間に合わせるために、急に「減算フェーズ」に切り替わる。時間を省略するために注目なのは、2タッチ目の足裏だ。正中線よりも外にボールを置き直し、通常よりコンパクトに足を振ることで、インパクト自体のタイミングも早めた。十分なボールスピードに、余計なバウンドも加わらない、一級品のラストパス。

結果、受け手のジャストに届けられたボールを、室屋がピタリと置いて右足を綺麗に振り抜く。貴重な勝ち点1を生み出したのは、正しいポイントを生み出した受け手の動き出しと、何より、出し手による”足し引き自在”のこのプレーだった。

 

橋本拳人東慶悟を失い、守備の土台が消え失せた今のFC東京において、レアンドロの起用法はより難しくなってしまった。ある程度許容できていたものが、今の状況では許容しづらくなってきた。

今後、チームは再構築を強いられることになる。その際には、果たしてレアンドロに何か新しいことを求める事になるのか。はたまた別の選手に見出すなのか。

確かに、計算の立ちづらい選手ではあると思う。が、久しぶりに東京に登場した「時間を操れるプレーヤー」に魅了されている身としては、上手くレアンドロを含めた再構築が果たされ、またあの様な「時間を合わせるプレー」を拝める機会が生まれること願うばかりである。