証明された「環境」問われた「指導」 FC東京U-23 3か年総括

U-23のことを考え、アウトプットするような人は日本では数少ないから、こういう記事を読むと何だか勝手に嬉しくなる。

Jリーグ、そしてガンバ大阪セレッソ大阪FC東京によって実験的に行われてきたU-23施策も、2018年で3シーズン目となった。そんな2018シーズンも、夏の中断機会を経て後半戦に突入。夏の気候も一気に収まり、いよいよ終盤戦の匂いが強くなってきた。そして大きな施策も「3年一区切り」と考えれば、一旦の振り返りとジャッジがそろそろ求められてもおかしくないだろう。

そんな時期なので、セレッソ大阪においては先ほどのような記事も出てくるし、ガンバ大阪に至ってはU-23から撤退するといったニュースが聞こえてくるのも(内容はさておき、所詮久保武司と言えども)事象としては分からなくもない。

そして、FC東京U-23である。そろそろ、一区切りの振り返りを行ってもいい時期だろう。


まず、自分なりに選手育成に関する要素を整理してみる。

フットボールクラブが構えるアカデミーが、サッカー選手に対して+αの成長機会を与えるとなった場合に、そこに絡む要素はざっくりと「環境」と「指導」の2つなのかなと考える。それぞれを言い換えれば、環境=ハードであり、指導=ソフト。まぁ恐らくはサッカーのみならず、どんな競技どんな選手、どんな職種どんな人生においても共通して言える要素だろう。どんな環境と指導を、所属する選手に対して提供できるか?それぞれの価値が合わさって、アカデミーの価値が測られる。

と前置いた上で、FC東京U-23を「環境」と「指導」に分けて考えてみる。

U-23は環境と指導の2要素で言うと、まずは「環境」面での寄与ぶりが大きく目立つ。

環境と一言で言っても、その中身は多種に渡る。

例えばひとつは、選手に経験を与えるという側面。具体的に言えばJ3リーグ公式戦の出場時間を、所属選手に分け与える事が出来る。Jクラブのアカデミーとしては「公式戦に勝てる選手」を育成したいわけで、そのためには公式戦での試合経験を積むのが最善であることは言うまでもない。

これが所詮TMでの試合経験では、モチベーションコントロールに難しさが出てきてしまう。それは自チームに対してのみならず、相手のモチベも関わる問題だ。自チームをいくら焚きつけたところで、相手がTMモードの緩いメンタルで来られてしまっては何の意味も無い。

それがU-23であれば、J3リーグ所属クラブを相手に公式戦として戦える。クラブそして選手個々が、主にJ2以上への昇格を狙い必死に戦ってくる、いわば「本気のクラブ」。それが煮詰まり過ぎて、時に彼らは我々U-23を「本気じゃないクラブ」「真剣勝負の場に不釣り合いな遊びのクラブ」と怨念交じりにハッキリ見下してかかってもくる(それは選手以上にむしろサポーターに、事象として多く見られた。西が丘で観戦していると、対戦相手のサポーターの振る舞いからそれがよく分かる)。ただそれら全部が、我々からすれば選手の成長を促す恰好の”養分”だ。焚きつけるでもなく勝手に、肥やしがブヒブヒ向かってきてくれる環境は日本じゃなかなか得られない。

他にも細かい部分を言えば…自チームのオーバーエイジとしても、対戦相手としても、百戦錬磨のベテラン選手たちと言葉と肌をぶつけ合う機会だって、環境としては特別だ。FC東京であればU-23組のトレーニングはトップチームと一緒に練習する形を取っているので、それも”環境”。有料試合で多くの観客の目に晒されるのも”環境”。サポーターから応援される機会も”環境”。

こういった、U-23が在ることによって生み出される様々な”環境”による効果は、選手たちが本来属していたカテゴリに居続けるだけでは決して得られないものだ。

また、そこに”環境差分”があればあるほど、より効果も高まる。

東京で言えば直近だと、木村誠二とバングーナガンデ佳史扶の事例が挙げられる。今年高校2年生の彼らは、元々はU-18でもトップチームに絡めていない、まだこれから程度の選手たちだった。春前のプレシーズンではU-18トップチームとして試運転もされていたが、ついていくのもやっとの様子だった。

それがU-23での出場機会が回ってくることとなり、「環境差分」を全身に喰らった。それにより彼らは心身ともに成長し、つい最近ではU-17日本代表にも選出されるまでになった。

環境上位に自らを順化させることが、そのまま自身の成長に繋がり、結果的に本来のカテゴリを突き抜けることにもなった。U-23の環境が、彼らの年代別代表選出に貢献したのは間違いないだろう。

ただし、残念ながら時間を重ねる事により、選手は年を取り、身体も成長し終え、当初に得られていた環境差分からは徐々に縮まっていく。よく言えば上位環境に自らを適応させたという話にはなるが、それが所詮J3レベルとイーブンになったに過ぎないことを忘れてはならない。

何より環境とは「慣れてしまう」ものでもある。日常が勝手に刺激を与えてくれるのは最初の数か月程度かもしれない。2,000人弱の観客動員にも、応援を受ける光景にも、悪い意味で慣れてしまうことで「環境」による効果はみるみる萎んでいってしまう。

こうして環境による効果に甘えられなくなってくると、次に期待したくなるのは、もう片方の要素である「指導」となる。U-23という器の中で、果たしてどのような「指導」が要素として機能しているのだろうか?

と、このように「環境」と「指導」に分けて考える事で、U-23施策の中間評価、そしてFC東京U-23の中間評価は行いやすくなるのではないだろうか。


FC東京U-23において「指導」面の問題があるのは間違いない。安間U-23監督自身の問題も当然に大きい。

ただし、その「指導」面を阻害する要因が周辺に多いのもまた見逃してはならない事実だ。だから「指導」面の問題を、所詮安間が悪いとかミニラのが良かったとか、そういう小さな話だけで終わらせてはいけない。安間監督には是非、記者会見で「俺が1番悪いですが俺だけのせいになるのは腹が立ちます」とコメントしてもらいたい。

例えばFC東京U-23においては、ソフト面の運用はトップチームの意向に大きく影響されてきた。

U-23設立の意図としては、オーバーエイジのコンディション調整としての利用も含まれているが、その位置づけの大小はチーム事情と監督意向に大きく左右されてきた。城福→篠田→安間→長谷川と監督が代わる毎に、もしくはトップチームの成績状況により、OAを使う使わないがコロコロ変わってきた。

その全てのシワ寄せが、U-23のみならずU-18にも悪影響を及ぼしてきた。

OAに押し出される形で、U-23選手たちが本来とは異なるポジションでの戦いを強いられる場面が増え、それは「選手としての幅を広げる」では済まない域のものもった。それでもU-23選手が足りなければ今度はU-18選手が借り出される。U-18選手もまた同じく、本来のポジションで戦える場面もあれば、そうで無い場面もあった。

U-18選手の引き上げと出場機会創出は「環境」面での成果として挙げはしたが、他方で酷使によって重大な怪我が増えたのは見逃してはならない。実際の怪我発生件数までは調べていないが「土曜にJ3で90分、深夜早朝に移動して日曜に高円宮杯プレミアリーグで60分」や「同日に会場ハシゴして2試合ダブルヘッダー」とかやらせていれば怪我なんて増えて当然だろう。

U-23立ち上げ当初からFC東京は、トップチームとU-23に線を引かない運用がされてきた。それはガンバ大阪時代に線を引いて運用してきた主導者だと糾弾された長谷川健太FC東京監督に就任して以降も、方針は何ら変わらない。

そしてその運用のキモとされてきたのが、人数を絞った選手編成であった。U-18選手の積極活用、育成の前倒しとして組まれた編成だったが、蓋を開けてみればその実情はU-18選手のブラックな酷使であり、U-23における「競争の希薄さ」にも繋がった。

OAは本来のコンディション調整の思惑だけでなく、チームの総合値を引き上げるため、相手チームより劣ったフィジカルアベレージを押し返すため、「育成の養分としての勝ち点3」に繋げるために、より有効活用されるべき枠だろう。そしてU-23内での競争創出やU-18選手の過度な運用を避けるための、選手編成のあるべき姿は、現在の形では決して無いはずだ。選手編成の方針は「ソフト面での不備」としてメスが入るべき箇所だと自分は考える。

(高卒直後のU-23選手やU-18の選手たちは、J3シーズンをフルでこなすだけの体力がそもそも備わっておらず、連戦とリカバリに追われ過ぎて「経験を持ち帰って、課題として小平で取り組む」だけの猶予が無い状況だと考える。加えて、プロ環境適応のために本来積むべきフィジカルトレーニングも追い付いていないし、そのため余計な怪我リスクばかり高くなっているのが現状ではないだろうか。個人的な肌感だけで言えば、U-18のJ3出場時間はシーズン500分程度、高卒1~2年目はシーズン1000分程度で十分だと思う。)


U-23施策の3年間を、自分なりに総括してみる。

能力をマイナスレベルからJ3レベルにまで引き上げる効果として「環境」面は大きく寄与しているのは実証できただろう。方や環境面だけではJ3レベルからJ1レベル以上にまで能力を伸ばすには至らない事も確かであり、本来そこを担うべき「指導」面の効果もあまり見られなかったとも言えるだろう。

もちろん、環境要素が即効薬のように選手に即時反映されるのに対して、指導要素は長い年月をかけて徐々に花開いていくものである事は考慮すべきだろう。故に、指導要素を測るために必要な時間は、それこそ3年間では少なすぎるのは前提の話としてではあるが。

しかしそれでも、遅効性な結果を待たずとも既に「指導」面で大きな問題が多く出ているのは前述の通りだ。

久保建英横浜Fマリノスにレンタル移籍したのは、こうした諸々の複合的な結果なのではないだろうか。(ただし、建英が不足を感じ、彼が求めているものが果たして本当にマリノスにあるのかは俺は知らない)

…と、こうやって書いていると、あたかもU-23施策に否定的な結論に聞こえてきそうだが決してそうではない。

言い方を変えれば、U-23施策による「器」としての価値はほぼ実証されたとも言える。カネさえ積めばある程度の効果が高い確率で期待できるのだから、カネのかけ甲斐ある施策である事は間違いない。

気になるのはコスパ見合いの部分だが、1年目当初に検討した通り「意外にも入場料収入が見込める」事を思えば、コストの問題はそこまで大きくないのでは?というのが引き続きの見解だ(改めて現在のチケット価格を確認してみると、ガンバU-23はいつの間にかチケット値上げしてたし、方やセレッソは据え置きといった状況)


U-23造って、魂入れず」。

FC東京U-23に次の3年があるならば、2019シーズン以降の3年間は器に魂を吹き込むフェーズとなるだろうし、そうでなければならない。それが成されなければ、U-23がただのヌルい環境に成り下がってしまうのも時間の問題だとも思っている。

そのためには、ひとつは安間監督に代わる新たなU-23指導者招聘も必要だろうし、選手編成の方針も大きく見直されなければならない。あらゆるソフト面のブラッシュアップのために、クラブがU-23をよりしっかりとハンドリングしなければならないだろう。

FC東京U-23に魂を吹き込むべきは、トップチームの監督ではなく、FC東京というクラブであるべきだ。

この気づきこそが、3年間で得た最大の学びなのかもしれない。