未来を感じれるのは分かった。だからこそ今年は未来を”具現化”して欲しい FC東京U-23 2018シーズンプレビュー

2018JリーグYBCルヴァンカップGS第1節を、画面越しながら観戦した。

J3リーグ開幕までにこのU-23シーズンプレビューを書こうと思っていたのに、その前に大部分のU-23戦士たちが今シーズンの公式戦初出場が果たされる恰好となった。

トップチームの実情が反映されているのは間違いない。ひとつは5月中旬頃まで週2~週3ペースで試合が続く「J1-ルヴァン-J3の過密日程」問題。そしてもう一つが、開幕からの2試合で明らかになった「トップチームの人材不足」問題だ。


トップチームの具合については、概ねシーズンプレビューに書いた通りに進行しているように伺える。しっかりと「普通」なサマに、観てる側は昨年比で心地よさを受けるであろうが、大事なのはその先だと。そんな「デトックス効果が消えた先」の景色にフォーカスをしてみたが、既にデトックス効果は薄れつつあり、「先」を迎える日は、思っていたよりも近いのかもしれない。

2戦を終えて、1分1敗の勝ち点1。結果もさることながら、開幕からホーム連戦だったことも相まって、成績がデトックスを早くに消耗してしまったことは間違いないだろう。

長谷川健太監督の思考は、ここまで至って明瞭だ。やろうとしていること。そのための手段。選手たちへ求めること。選手たちの評価。試合においては対戦相手をどう理解し、90分の進行をどの様に捉え、その軌道修正を「采配」としてどう行うか。細かい説明を受ける必要も無く、見る側としても非常に理解がしやすい。

ベガルタ仙台戦での采配はそれが顕著に表れた。失点を食らい、さあ反撃をとなった際に健太監督は、まず米本を下げ、最後には室屋を下げた。そこから透けて見える「選手評価」もまた、やはり明瞭だろう。

それらが監督にもサポーターにも認識が共有されているからこそ、このルヴァン杯第1節の布陣が蓋を開けてみても、その事情を理解し、また期待もしたはずだ。人材不足を救ってくれる、新たな選手の台頭をと。

しかし試合はマリノスを相手に0-1敗戦。今年のマリノスらしいスタイルに守備で動かされ続けたものの、それでも瞬間の勝利の芽も見えただけに悔しさの残るものとなった。ここで結果を掴めれば、チームとしても個人としても得るものが大きかったが…


試合中に散見されたミスだったり、試合後の選手コメントでも言及されていた「精度」の部分にフォーカスを当てて、分解してみる。いわゆる決定力不足と呼ばれるものに対しては、その解決策として「焦るな」だとか「一拍落ち着け」だとか「アイデアを」だとか、所詮中身の無い概念的な事ばかりが外野から指摘されることも多かった。そうではなく、まずはチームとして抱えてしまう「精度の負債」に目を向けるべきだろう。

「精度の負債」を説明する。

例えば9本のパスが連続して成功し、10手目のフィニッシュでゴールできなかったとする。そこでフィニッシュの精度、もしくは9手目のラストパスにだけフォーカスして「決定力不足」としてしまい、ゴールまでは進捗率90%、残りたった10%足らずだから後もうちょっとだなぁ〜さてどうしよう?とはもちろんならない。

実際はそこに至るまでに、成功したとされる9本のパスが繋がる毎に「精度の負債」が生まれては溜まっていく現実がある。1手目のパスが0.5mずれ、2手目の受け手はそのズレを吸収するだけの「止める蹴る」を発揮できず、また新たに0.5mずれ…を9本積み重ねていけば、フィニッシュの10本目時点では4.5mのズレが「精度の負債」としてシューターに押し付けられる事になる。

メートル視点のズレもあれば、秒の視点もある。パスの弾道が無駄に跳ね、止めるボールもブレて、1手あたり0.3秒のムダが繰り返されれば、同じくフィニッシュ時には2.7秒の負債がのしかかる。

ましてや昨今は、インテンシティや球際などが持て囃される時代。これらは直接ボールを奪い切る部分だけでなく、相手に精度の負債を背負わせる部分でも機能する。ただでさえ止める蹴るで0.3秒の負債を生みがちな選手にとっては、それが相手のプレッシングによって0.8秒にもなりかねない。負債を生むこと、負債が重なることが続いていけば、フィニッシュを担う選手に求められる「清算量」は計り知れない。シューター自身に清算できるイメージが持てなければ、10手目でもシュートを打とうとはせず、さらに11手目、12手目…と、まるでチーム全体が味方のミスを待つかの如く「先送り」が繰り返される。

FC東京のトップチームが抱えているのは、まずこういった精度の負債だと考える。コミュニケーションの有無や、アタッキングサードの仕掛けだのアイデアだのもあるだろうが、それ以前に1手目から5手目までの序盤(いわゆる「ビルドアップ」)において発生する負債が無駄に多すぎる。それは仙台戦の評価を見れば明らかだろう。


ルヴァン杯マリノス戦に戻る。この試合においても、フィニッシュにかかる際にはなかなかの負債を抱えている様子が見て取れた。しかしここでの負債は、これまで説明してきた精度の負債とは多少、趣が異なる。技術的な上手い下手もあるがそれ以前に、そもそも選手には余力が残っている様には伺えず、それによって精度が適当になっているシーンが多かったように思える。

「疲れた時に1回、変なパスを出してしまったので、精度は疲れた時にも落としたくないというのはありますね」

プレーの際には、インテンシティの名のもとに相手とのコンタクトが当然伴う。その場では当たり負けをしていない様に伺えても、そのイーブンコンタクトのために必要な出力が、10%程度で済むのか常に30%は必要なのかとでは、当然のちのちの消耗度は大きく異なる。8手目~10手目といった1セッションの終盤において、もしくは90分という時間軸での終盤において、いわば「余力の負債」が蓄積され、それが精度と思考を著しく低下させてしまう。

端的に言えば「パワー不足」。そしてそれは、昨年のU-23でも多く見かけられた重大な問題だ。


昨シーズンのU-23を振り返ると、チームとしての堅牢感・重量感を担っていたオーバーエイジの有無で、試合内容は大きく異なった。OAがいる試合においては、たとえJ3のAクラス相手であろうと互角に近い勝負が出来るときもあったし、方やいない試合では球際の地上戦からセットプレーでの空中戦までペシャンコに潰れる場面が多く見られた。U-23選手のパワー不足は明らかで、J1で活躍する以前にまずは、J3を戦えるフィジカルを備える必要にぶち当たった昨シーズンだった。

もちろん根深い問題だし、短期間に解決できる問題ではない。長期的に、計画的に、個々の意識を支えとして取り組まなければならない話となる。しかし、それが容易に解決できる環境にU-23が「無い」というのは、FC東京U-23の構造的欠陥として自分が考えている仮説だ。

つまり、J3で多くの出場機会を与えられ過ぎているのではないか。言い換えれば、所属Div.に適したフィジカル強化を行えるヒマが、彼らに猶予として残されているのか?ということだ。

だからこそ、限られたチャンスであるオフシーズンを利用して、何とか個々で取り組んでもらうしか無いと期待していた。しかしこの試合ではまだ、その兆しは見えてはこなかった。今年もまた、試合に出てはパワーで潰されての経験を繰り返す事で(結果的に)フィジカル強化を進めていくことになるのだろうか?

ここに、個人的には結構な危機感を持ち始めている。


今年、自分がU-23に求めたいのは、端的に言えば結果だ。

もちろんこれは、J3リーグの順位表の話ではない。現行のU-23参戦レギュレーションであれば、2016シーズンの10位・2017シーズンの11位くらいが望んでいいMAXだろう。むしろ、これより上位になれる選手構成はU-23として抱えるべきではない。そんな選手がいるならば、トップチームに引き上げるもしくはJ2にレンタル武者修行に出すべきだろう。それがU-23の「思想」だ。

順位的な結果ではなく、求めたいのはそういう思想的な結果だ。各選手のU-23卒業であり、トップチームでのスタメン奪取だ。

そのためには、少なくともJ3では個として圧倒できる位でなければ、フィジカル的に最低限の順応が果たされていなければ、J1で戦えるはずが無い。

ルヴァン杯では控え中心ながら、J1の横浜Fマリノスが相手だった。J3開幕戦の相手は、昨年ボッコボコにやられたアスルクラロ沼津。J1だったからなのか、J3でもなのか。最高の試金石を楽しみにしたい。

 

U-23というチーム・施策に対して、何となくぼんやりとでも未来を感じてくれているサポーターは、この2年間で非常に増えた。観客動員は減少したかもしれないが、その分「濃度」の高まりも感じられた。FC東京U-23が追いかけ甲斐のある面白いチームなのはこの2年間で示すことが出来た。

だからこそ、そんなサポーターに向けて、U-23戦士たちには今度は、より明確に”具現化”した未来を、プレーで示して欲しいのだ。