「成果」の取捨選択 湘南Y - FC東京U-18

立ち上がりいきなりのCK、8磯村からのキックは抜群の軌道でどフリーの2岡崎を捉える。パワフルなヘッダーによる先制点から始まる劣勢展開。

元々湘南Y推しの自分にとっては、立ち上がりからの湘南優勢の流れをどう捉えるか?ってのが、恐らく湘南Yを初見の方とは違うニュアンスで捉えかねなくなる。心のなかでは「ほれ見たことかー!」って気持ちも、数%はあったかもしれない。


前節との違いを把握出来なければ、わざわざ前節小机へと(誰にも頼まれてやしないのに)偵察に行った意味がない。

前節がナチュラルにトップに倣った4-1-2-3だったとしたら、今節は4-4-2に近い形に見れた。3トップのウイングとして配置されていた10関谷は、17見留の相方として中央に構える2トップ。1年生ながら引き続きの抜擢となった27河野は右サイドに入った。逆サイドの左には、前節途中出場の13吉澤。MF3枚だった前節に対して4枚にしてきた所に意図を読み取らなければなるまい。

ただ、片やの東京だって、マリノス杯からのショートスパンながらチームは変わって、いや成長していた。

「開幕ゴールは覚醒フラグ」とは、自分が勝手に言ってる無根拠な格言。昨年、他の選手の分まで余計に?ってほどの量の、倉又監督の怒号を一身に受けていた山崎直之は、開幕戦で我慢実るゴールゲット。自ら仕掛けて掴んだその成果一つでガラっと覚醒して見せ、結果彼の存在が昨シーズンの東京を、さらには今シーズン以降の東京学芸大サッカー部を引っ張るまでになった。きっかけ一つ、成果一つで、自分が見える世界は変わり、ステージを一気に引き上げる。

開幕戦、まさかの「逆転シュータリングゴール」を挙げた22村松はその候補と言える選手。ゴール後の村松のプレーは見違える出来だったとは観戦者の弁。半信半疑で見てみるとなるほど確かに変わっている。身体能力に抜群のアドバンテージがあるわけでもなく、しかしそのスラッとした体型は彼の「意志」をガソリンとしてスルスルと、前へ前へとサイドを押し込む。その圧力。堂々たる佇まい。

そもそも左サイドには7武藤がいる。フィジカルモンスターはもはや人間兵器として、スペシャルな存在感で相手をひねり潰す。その武藤に対してかなり近い位置を取る村松。その威圧感の「自然さ」は以前見た際には無かった部分。高い位置に張り出す村松がチームの中で自然となっている。地位を得た証でもある。

湘南の27河野にとっては、この村松にどこまで付いていっていいものかはかなり難しかったと思う。前節3トップの1翼を担っていた選手が、村松を見るために、どこまで捨てていいものか?これは難しい判断だったと思われる。

湘南優勢の中でも、東京が武藤ミドル、そしてセットプレー崩れからの松藤ゴールで逆転まで出来たのは、この左サイドでの優位さがあってのこと。しかし、湘南の攻撃、ひとたび前にベクトルがかかった時のその勢い、強さってのは、前節通りの見ごたえがあったと思う。そういう意味ではどう転んでもいい展開だったことは間違いない。


湘南が、前節と少し違っていた部分。それは17見留に向けた「まず最初のパス」が入らない事。些細でありながら大きな違い。

相手を外しながらのトラップだとしても、それが相手に背を向けるファーストタッチであれば、東京の寄せの早さもあってそれはすぐに「背負う」事になり、結局東京優勢の立ち会いに変化してしまう。5小林でも3松藤でも、競り合っての勝負根性バトルになると、東京はほぼ無敵だ。

逆に、裏へ流れるプレーには活路があった。22村松の裏はもちろん、特にCBと潰れあったその裏は、湘南にとっては大きな狙い目になった。

東京U-18のDFラインは、前にチャレンジするCBの裏を残った3DFでどう絞り、補完しあうか?その抜群の連携ぶりでここ数シーズン鉄壁を誇っていた。両SBがスイーパー的カバーリングで内へ絞る。その守備の絶妙さによって、強固なDF組織を組み上げ、それが近年の好成績を支えてきた。

その中で、3年間左SBを守った阿部巧が昇格し、右SBを守って3年目になるはずだった4廣木がCBで起用された事で、この両者による「絞りの絶妙さ」が無くなっていた。プレシーズンはそれをイチから学ぶ事から始まった。新SBの成長過程の影響からか、実に不安定な「らしくない」守備組織が続いている。

言ってしまえば、前後へのチャレンジ&カバーで済むCBに比べて、SBのが難易度が遥かに高い。前述の左右の絶妙な絞り感を発揮しながらも、加えてSBとしての「本来の仕事」もこなさなければならない。何よりその高すぎる要求に対する「ベストアンサー」に我々は『慣れてしまっている』。要求の視線は強く、厳しいだろう。

この部分がゼロからの積み上げ直しである以上、ここ数シーズンの立ち上げ以上に、骨格の基礎形成は難しいものになるだろうってのが自分の予測。この日の試合の様にSBに廣木を置き、中央松藤の相方として5小林or2永井と考える方が、チームは確かに安定するだろう。今シーズン最大の強みである廣木・松藤を両方共CBに起用するのはもったいなく、また新SBを両側に置く事は不安も大きくなってしまう。チャレンジ色が強くなる。


ボランチも、積み上げ直す部分。この日は2年の15橋本、1年24野沢が務めた。

本来はFWで、懐の深さに強さもある橋本と、典型的な「散らし屋」のセンス溢れる野沢のコンビはこの試合のチャレンジのひとつ。特にルーキー野沢は初スタメンだった。

しかし、その野沢に絡む起用法に、倉又監督の我慢があった様に見えた。

ボランチが機能せずに苦労する中で、右サイドにいた18江口と野沢を前半途中に入れ替える。江口が本来の汗かき仕事をこなしてくれることで「分業」がハッキリし、チームがいい形に回るようになった(いや、橋本は「分業」の枠に収まらない活躍をこの日したわけだけども)

そこで、愛するポジションから追い出される形になった野沢が、右サイドでさてどういうプレーをするか?

これがよくなかった。

典型的なボランチ選手。散らし屋が染み付きすぎててスイッチを切り替えれてない。ボランチ的な細かい顔出し動作しかしないし、テクニカルな叩きはボランチでのプレーそのまま。サイドハーフでは美徳とされるプレーではなかった。意欲的に大きな動きをすることも無く、そのせいか本人も不服そうに見えてしまった。

ただでさえ後半は全体的に押される展開だった中で、野沢のポジションは明らかに「穴」だった。けどそれは、誰が見てもミスマッチな起用によるものだった訳だから、試合の流れとして「交代ポイント」は非常に分かりやすい。交代カードは17岩木19湯浅と多く抱えていたはず。

けど、倉又監督は交代させなかった。90分間、野沢をプレーさせ切った。

これが「あえて」以外の何であろうか?と。あえて、倉又監督が何を求めたのか?

結果的には、最後の最後にボランチとして12山口を投入して守備固め、「2兎を追う」姿勢も見せた。ただ、勝ちを狙うならば真っ先に手を付けるべき部分は実際あったわけで。それも早い段階から。この試合を落とす可能性だって低くなかった。湘南の選手に不幸な退場があったアクシデント(故意でないことは明らかだったし、それまで素晴らしいプレーをしていたのもあって、残念な気持ちのが強かった。カードを出すことを主張する東京ファンもいたけれど、自分はその主張には乗れなかったのが正直な胸中である)があろうとも、緩むこと無く攻め続けた湘南のクオリティでは、勝ち点を分け合う展開が起きてもおかしくなかった。

それでも。

野沢にとっては、その「それでも」を理解し、血肉にする勝負がこれから始まる。


チーム作りとしては1年周期で考えなければいけない以上、そのシーズンの最初は試行錯誤の、完成へ向けての「きっかけ」を探る試合が続く。もどかしさは当然あるだろうし、それがダイレクトに結果に響くことだってもちろんある。ましてや今シーズンは、前述の様に「より、蓄えの無い」ところからのスタートかもしれない。

その中でも、今日みたいな、別の意味での勝負を続けながら、先を見る。さて、今日はどの「成果」を求めたのか?

そんなことを探る時期。見る側も、今はまだ「見守る時期」。


この日の結果、それだけに対して言えば渋い試合。試合後挨拶に来る選手たちに簡単に、「シャー!」を要求する流れとはいかなかった。難しいけれど、正しく試合を判断すればやむを得ない。

それでも。タクシー待ちでダラダラとピッチ付近で待ってれば選手は続々とクラブハウスに戻ってくるわけで。結果、出待ちしてるみたいな形になり、選手それぞれに軽く「お疲れさーん」と労いの言葉をかけるぐらいな流れにはなった。

微笑ましかったのが松藤正伸。そういえば決勝ゴーラー(笑)な松藤にはやはり「ナイスゴール」と『+αの労いの一言』をかけてあげたいところで、良かったよーみたいに声をかけると、まぁ松藤が笑顔で喜ぶ!

思えば松藤にとってはこの試合は復帰戦。新主将として任命されながらも、プレシーズンのイギョラ杯・マリノス杯には一分も出場することが出来なかった。それがどういう理由・意図があっての事だったか、その実際は分からないが、試合後に巻かれていた分厚いアイシングが遠因であることは容易に想像できるだろう。そんな新主将にとっては、想いの強い試合だったに違いないし、得た成果は嬉しくてたまらないものだったはず。橋本もそう。+αにふさわしい出来には本人も手応えがあったはず。労いの言葉に対しても反応は明るい。もちろん、今日の試合に不甲斐なさを感じた選手もいたはずだ。

それぞれの手応え、収穫と課題を実感しながら、今年もチームは徐々に成長していく。

ゴールを決めた松藤は、ベンチ側ではなくギャラリー側へ足を運んで、ギャラリーに向かってこれみよがしにユニフォームをアピールするセレブレーションをしてみせた。そして試合後の労いの一声にはとびきりの笑顔で会釈。「この首振りがポイントだったんだぜ!」と言わんばかりのジェスチャー付きで仲間にゴールシーンをアツくレクチャーしながらクラブハウスに戻っていった。

頼れるキャプテンの帰還、これぞこの試合最大の成果だった。これが、このチームのスタートライン。