終幕 そして… レビュー - 三菱養和戦

関東プリンス1位2位対決、強豪チーム同士対決による、クオリティゲーム。

なんてものよりずっと、何よりバッチバチのバトルゲームに。

懸ける想いが尋常ではない。


5月のプリンスリーグでの試合レビューからまず引用する

所詮エリートな両者である。東京でサッカーをしていれば大会の上位に進むほどいつも顔を合わす顔ぶれである。東京という器の中でずっと争ってきたライバルである。

それでいて、国体では同じ釜のメシを喰い、同じ目標に向かって突き進む仲間でもあった。危険であったライバルのプレーが、今度は味方となって己を助けてくれる。その繰り返しを何年もしてきた間柄、同年代に生まれた宿命。

そうして自然と生まれるのはリスペクト。「キム(9木村)のキープじゃ負けるはずがない」「祐輔(1原田)のキャッチングはさすが」初戦前橋育英戦の勝利後、第2試合に登場した養和の選手達に真剣な眼差しを向け続けていた東京の選手達。その様子はリスペクトに満ちている様に見えた。

良い部分も悪い部分も知りつくしているライバル関係。ヤツにアレをさせてはいけない、本能に染みてるんだろうな。だからそれが危機察知を敏感にさせ、こういった試合展開を生んだ。いわゆるトップのダービーとはまた違うダービー、これが育成年代のダービーなのかもしれない。

3阿部巧の爆裂的なサイドアタックから始まった。

身体を強引にねじ込み、けどそこからスピード落とさずに即復元出来るフィジカルは、対プロの際に懸念されるようなフィジカル要素とは全く違う部分。当たりあいのフィジカル部分も確かに強い方な巧だが、それよりも体勢に依らずにねじる・戻すの強さしなやかさが、フィジカルモンスターたる所以。

対峙する25田鍋は、守備はまだする方の選手。14田中輝希よりはよっぽどする。しかし、巧を相手にするには流石に物足りない。事実、東京は左サイドから効果的に攻撃を仕掛けていく。

あるシーン。

ボールを持った巧は変わらず爆裂スピードでサイドを切り裂きながら、田鍋と1vs1になった。「ポッと出の後輩」に構うこと無く縦に進む巧に対し、田鍋は間を開けながら緩く中を切る対応をしていた。守備に関してはGK1原田と、欠場から戻ってきた6中垣内からいい声がよく出ていた養和だったが、このシーンだけは1トップを張る9木村から強烈な指示が飛んだ。

「縦切れ!」と。

それでも緩さが解消されない田鍋の守備に対し、結果木村は田鍋に対し計3度も「縦切れ!」と叫んだ。その語気の強さたるや、必死さというか、切羽詰った感に満ちた様な。天真爛漫の旗印の下に、高1ながらのびのびとサッカーが出来ていた田鍋にとっては、その厳しい怒号には驚いた場面だったかも知れない。

そして、先程引用したくだりを思い出した。

3年間ないしは6年間。敵として、あるいは味方として。高1時には国体東京都選抜として21年ぶりの優勝という偉業も成し遂げた(東京は2込山・3阿部巧・5角田・8年森・9山口・14三田、養和は1原田・8田中豪・10玉城が参加)そんな、お互いがお互いを認め合う良きライバルとしての強烈なモチベーション。

そのストーリーも、この90分で一端、幕を閉じる。


公式記録によれば15分に。チープな連携ミスを田鍋にかっさらわれて養和が先制。意外というか何と言うか、早くに試合が動く。

主導権を握るゴールをしたたかに逃さなかった養和。以降の主導権を握る。

養和の布陣は4-3-3の扇形で表記されることもあるが、それが所詮は些細な言葉遊びだとしても、自分は養和のシステムは4-1-4-1システムだと言い張りたい。その根拠は1トップ木村の収めと、そのスイッチで2列目4枚が縦横無尽に飛び出すスタイルが確立しているから。

それがさらに精度を上げた印象を持ったのが先日のナクスタでの試合。「中央での判断」としてはあまりにも的確で、またそれをプレーに実現させるキャプテン10玉城峻吾の的確さと、ピッチ上なのにまるでバレリーナのようにボールを捌く7加藤大は精度を更に上げた。9木村は動けて収めれてゴールパターンも随分と増した。8田中豪紀の得点感覚、危険なところに居る嗅覚は、1トップによって弱まるゴールへの恐怖を増すのに欠かせない存在。彼ら3年同士の阿吽の呼吸。その攻撃力は終盤の養和の弱点をかき消すに十分な破壊力だった。

守備でも元々切り替えの速いチーム。追うし走るし、潰すべき箇所も当然心得ている。元々深いチャージに定評ある東京に負けない、かなり厳しい削り合いが続く。

養和にとって最も危険だと思われた人物、10重松健太郎は特にやられた。2年次にクラ選得点王となってからはどのチームも厳しいを通り越したエグさで削りにかかってきた。今年のクラ選決勝でも、高円宮杯準々決勝も。そして日本で一番重松の怖さを知ってるであろう養和も当然、徹底して削った。開始10分にして、重松は立ち上がれないほどの痛みを抱えて担架に載せられ、ピッチを後にした。何とか戻ってきたが、やられた右足首はソックスの上からテーピングでガッチリと固定。「もう無理だ」と本人ですら思ったとのこと。

しかしここから劇場が始まる。終幕に向けたラスト90分で生まれたのは、800人のみが体験出来た極上の一人舞台。


無駄な動きが出来る余裕など無い重松は、剥がす動き降りる動きも最小限一発で決めようとする。痛みながらも空中戦では高く競り合う。しかし空中戦はほぼ養和17櫻岡がシャットアウト。高さ強さを見せる櫻岡に、その時の重松は思う様にボールが持てない。

倉又東京は攻撃の最終的に掛かる場面では自由度を残しているが、ビルドアップのスタート地点、最初の1/3(ディフェンディングサード)は単純なロングボールで一気に押し上げを図ろうとする傾向がある。8年森18山崎の、同サイドにフォロー入る関係はシーズン通すことで随分と良くなって。繋いで、って事も出来なくはないのだろうが。だからここが、もしかしたら倉又監督的にリスクバランスのコントロールどころなのかも知れない。しかしその肝であろうトップでの収まりが入らない事で自分のパターンに持ち込めない、という劣勢。

だからこそ、その流れのままに0-1で終わろうとしていた43分に挙げたゴールは、青赤に勇気を与えるものになった。左サイド浅い位置から11梅内は右足インスイングで胸高のクロスを中央に。9山口は潰れるようなニュアンスでボールを繋ぐと、ファーで受けた重松は落ち着いて左足振り抜いた!厳しい展開のまま過ごしていた状態の中で、一発結果を残すには何ともありがたい、そんないい時間帯。

これだけでも価値ある活躍だったが、それだけでは収まらなかったのがこの日のキング。ハイライトの2点目は誰もが震えた。

左サイド梅内からまたしても中央重松へショートパスを当てる。受けた重松は工夫のターンで前を向くと、上手く溜めながら右サイドフリーで走り込む14三田に…出さない。三田の動きをダミーとし、相手DFの意識を明確に三田に向けた上で、二人を手玉にとりながら抜ききらずに右足を振り抜く。左ポストに当たって入ったゴールは名手原田すらピクリとも動けなかった。

重松健太郎という選手を説明するときには、よく「マジシャンズ・セレクトに長けた選手」だと説明している。

マジシャンズ・セレクトとはマジックの手法の一つ。相手の取ったカードを当てるために、相手に自分の取らせたいカードを取らせる技術のこと。相手は己で判断したと思いながら実はそれは手品師がそうさせた選択だったと。ってそういう解説ははてななんだからキーワードリンクに任せればよかったが。

重松はそれが上手い。要は逆を取る技術って事だが、そのもう一つ先、自分が逆を取るために相手に間違った選択を「意図的に」「させている」。

いわゆる普通のフェイントと違うのはそういうところ。キックフェイントも重松は駆使するけど、その効果はタイミングをずらすだけに収まらない。右に行きたい、そのために逆を取りたい、だから相手に左だと思わせる。そのための細かい所作。肩をちょっと入れるだとか、重心を微妙に傾けるだとか。そういった些細な情報を相手は「掴まされ」、DFは間違った情報で心構えをする。そうした間違ったスタンスを植えつけた上で、あとはそれを大きなズレにまで広げるための技術やフィジカルにメンタルなど、高く備わっている要素を発揮するのみ。

そうして生まれた、あのゴール。

彼の、非常にFWらしい性格は馬場康平さんの記事でも取り上げられている通りだが、それは良い方向にも悪い方向にも向いてきたし、実際に勝敗を左右してきた。しかしこうも、託された期待の意味を知り、また見守る我々からしても「託し甲斐」のあるストライカーは、やはりそうはいない。その後PKを落ち着いて決めハットトリックを達成する重松の姿を観ると、そしてあんなにも心を動かすスーパーゴールを決めてしまわれると尚更、である。


終了直前にCKから梅内の久しぶりな「隠れヘッダー」ぶりが炸裂して、結果4-1で東京は次に進む権利を得た。しかし、結果程に内容差は当然、無かった。それでも勝てたのは、1に「FWを縦関係にした」2に「松藤・年森の守備」。それらの貢献については他所でも既に、充分語られているから省略する。

少し付け足すと、「FWを縦関係にした」のは、DF面での人数合わせに貢献しただけでなく「ロングボールでの収めの狙いをはっきりさせ、またスペースも大きく与える」事に貢献したと思う。後半1トップ重松に随分とボールが収まったが、それは養和のプレスが緩んだだけでなく、重松が「大きく動いた上で受けれるだけのスペース」を「ハッキリ」とさせた効果もあった様に思う。落下点でのスクリーンアウトになると櫻岡に分が悪いが、落下点への走りあいなら重松は負けない。収まる。収まれば重松なら剥がせる、展開出来る、チャンスになる、そして、重松が決める。攻撃も好循環する施策だったと言える。


強い相手に誇るべき結果を出すことが出来た東京。それでも拭えない不安。

自分は今大会、東京を優勝候補に据えられないでいる。それは、いちファンとして「絶対優勝したい!してほしい!!」と思うのとは違う目での判断。予想家としての結論。

U-18に四名、U-17に一名と、スタメンの半分が抜けてのグループリーグ予選はかなり苦しんだ。チャンスを得られなかった者、来季を背負う者、仲間の留守を守る者。それぞれがそれぞれに不足を持ち、チームは作り直しに近い出来だった。草津に大勝しながら、小平で大宮に負けながら。結果の通りに不安定な内容も、その中でも選手はもがき苦しみ、成長し、観戦した11/8札幌戦と11/19大宮戦を見る感じでは代わりに出る選手も堂々たる溶け込みっぷりでチームを確実に動かせる存在に。底上げという面では収穫の多い時期だったと言える。

片や代表招集された5名はもちろん、それぞれの活動の中で高いレベルもしくは日本に無い基準でのサッカーを体験し、大きく成長したに違いない。

そんな両者の、融合。

お互いに成長し、変わった面もあったはず。代表選手が抜けたチームは、抜けたなりにチームとして仕上がっていた。そんな「完成されたチーム」に代表メンバーが完全合流した状態で公式戦に挑むのは、恐らく10/25の草津戦以来だったと思われる。代表メンバー合流後の11/22山形戦でも、出場したのは4廣木6平出そして途中出場の18山崎ナオだけである。例えば10重松が青赤のユニフォームで公式戦に挑むのは草津戦以降無し。ほぼ二ヶ月弱は10番を背負って公式戦を戦っていないことになる。

そう、つまりその融合は『ぶっつけ本番』だと言う事。その不安が東京には付きまとう。事実、この試合では18山崎はフィットした活躍が出来たとは言い切れず、6平出も低調なパフォーマンスだった。

もっとシンプルであやふやな理由を挙げれば、やっぱり東京U-18には頂点を取るために何かが足りないんだなと、素直に思えた。クラ選決勝然り、高円宮杯準々決勝然り。磐田戦の出来は散々なもので、思いが足らず、統一されず、その結果出来たチームには吐き気すら感じた。そんな大敗にも、立ち上げ当初からあった「心当たり」がピンときた。それが何かはハッキリと表現がまだ出来ないけど、確実に引っかかる小骨がそこにはあった。やはり負けるのには、タイトルに届かないのには理由がある。

そんな些細な小骨が取れる期待を、キャプテン年森が12月にもなって今さら巻き始めた右腕の腕章に託してみたい。慣れてないのか気にしてばっかだったその腕章に、込められたその想いに…

長居にはほとんど応援には行けないけれど、是非予想家としての自分をギャフンと言わせる結果に期待したい。予想家としての結論が合うことよりも断然、青赤な自分としての希望が叶う方のがよっぽど大事だから。


ストーリーに一旦の区切りが付いた者。90分の「ロスタイム」を与えられた者。勝者と敗者には明確な差が生まれた。

しかし、試合が終わればノーサイド

帰り支度を済ませた両チームは、私服に身を包んで仲良くクラブハウスを出てきた。この試合でヒーローになった重松を始め、ギャルやら子供やらにサインだの写真だのを急かされてた姿に微笑ましくなりながら。興奮抑えられない記者連中のしつこいぶら下がり取材で捕まるのを鬱陶しく思いながら。待たされる側はもはや退屈しのぎを超えて、思い出話に花でも咲かせてるのだろうか?無駄にうるさい木村の声は試合の後も深川に響いた。

壮絶なダービーが終わり、『仲間』に戻った彼ら。

これからみんなで、ジョナサンにでも行って打ち上げでもするんかな?(最後は適当)