世界基準の「倉又イズム」 プリンスリーグ最終節 FC東京U-18 - 横浜FMユース

最前線への長いボールを攻撃の合図とする東京U-18。
最前線から降りてくる選手を起点としクサビを打ち込むマリノスユース
お互いハイレベルの攻防が繰り広げられた深川グランドは、キックオフの11時から熱気を増す。


今年はこれまで3度マリノスユースを見る事が出来たが(3月マリノスカップ決勝・5月プリンス-浦和Y戦・6月関クラ予選-横河Y戦)3月の、スタイルが多少違った時期を除けば、最近のマリノスYは「パスの回りよりも強力アタッカー陣が目立つ」チームだった。得点王独走中の8関原を始め、昨年から1トップを張る9榎本にキックの種類を見せる11天野、控えとしては勿体ないくらいの7塩田にU-17代表の14小野裕と、上げ始めたらきりがないアタッカーを前線3枚(もしくは4枚)に贅沢にチョイスし配置する。この厚みこそが今年のマリノスユースの武器であり強み。
しかしここ最近は、その強みを生かし切れない展開が続いていた。3月時に比べてボランチタイプを変えたことと、10小野悠が負傷で出場できなかったせいもあり、その強みであるアタッカーサイドにまでボールを運ぶことに苦労してきた。クサビを狙うそのパスは距離が長く、そこを狙われたりパスがぶれたりでひとたび逆襲。そんな脆さも同居した最近だった。

その印象を思えばこの試合は正直、かなりボールの廻りが良かった方だと思われる。前線3枚のアタッカーが最前線から少し下りてくることで作られる起点。クサビを受けると、チームの心臓・ファンタジスタ10小野悠へ叩き、受けた小野悠は「らしい間合い」で高精度のパスを中に外に散らす。潤沢なアタッカーを1人で捌ききったその左足はいつ見ても変わらずの逸品だったと思う。その小野悠の技術をチームとして使い切った展開。

東京としてはその降りてくるクサビを自由にさせてしまった。距離感なのか意識の問題か、ことDF-ボランチ間は距離があったわけではないだろうが、東京としては厳しくは行けずにある程度自由を相手に与えていたと思う。これまではそのパス展開に苦労してきたマリノスYにとっては、この位置をここまで自由にパスを経由させれたのは、相手がFC東京U-18だったことも併せて、想定外だったのではないだろうか?

マリノスYとしては「運んできてしまえばこっちのモノ」だったはず。得点・アシストランキングの上位を独占するマリノスアタッカー陣、その所以は、アタッカーまで運んでしまえば1対1でぶち抜いてでゴールを量産してきたから。その強力アタッカー陣による個の勝負に、勝てるチームはほとんど居なかった。ここの勝率が、チーム順位をここまで引き上げた。


しかし今度はここで勝てない。いくら1対1を仕掛けれても、マリノスアタッカー陣は結局、対東京DF陣との最終局面において全敗だったと言っていいと思う。
立ちはだかるは6平出涼
1対1では負ける気がしなかったであろう8関原を、冷静に、確実に潰す。飛び込まずに待つ間に、既に間合いは平出の間合いになっていた。ここでも平出、そこでも平出。感覚が冴え出すと今度はパスコースも潰しまくった。こと平出の局面は全勝だったのではないだろうか?東京ギャラリーからは「昇格じゃね?」とのざわめきが立ち、その平出無双にマリノスYが受けたショックは大きかったはず。
平出と組む4廣木もまた、おなじみの冷静さで確実にボールを自らの足に絡める。対地でも対空でも、不利な体格差でもどう「やらせない」かが相当叩き込まれている。3阿部は裏へのボールの走り合いで負けるわけが無く、ある程度ビハインドからのスタートでも強引に身体をねじ込めるフィジカルがある。13武藤は中央への絞り感が春前に比べたら段違いで成長した。逆サイドから来るボールに対しての処理は本当に良くなったし、GKの1チャンヒ先生の強烈な修正コーチングをぶつけられてた時期に比べればむしろCBを助ける貢献を守備で見せる様になった。チャンヒ先生の修正コーチングも今ではほとんど無い。

好調のFC東京トップとはまた違う形で、こちらは強固な守備で、相手の心をへし折った。前半はほぼイーブン、そして後半はマリノスY側の運動量がみるみる落ちていき、形勢は東京へと傾く。


勝負を決した東京のゴールラッシュ。65分には10重松がFKをドカンとぶち込んで見せたのだが、その瞬間を挟んだ前後がまさに「重松劇場」。笛が鳴ってもチンタラとボールを額に当てて念を注いだり、急かされた状況を気にせずに自分の間でゆっくりと助走を取り、完全に劇場の空気を掴んでからの豪快な一発!決めた後には優雅に堂々と、己の決めたゴールに酔いしれた。まさにKING、空気感が段違いだった。続いて77分には8年森がワンツーからフリーで冷静にシュートを沈め、81分には18山崎(マリノスユースサポは「こちらもナオなんだぜ!」と知ったらどんな顔をするんだろう?)がユラリユラリと代表レベルな超絶ドリブルで4〜5人をぶち抜き、最後はお膳立てして貰った9山口がGKとの1対1を冷静に沈めて勝負アリ。

マリノスYにやりたいことをある程度された印象も強いが、結果的にはそれは恐らくある局面のみ、だったのだと思う。3-0というスコアは妥当なモノだったと思うし、後半は東京がある程度一方的に押し込んで見せた。さらにそれを証明するものとして、おなじみのこちらのサイト様によればマリノスYは前半シュート2本に、後半はシュートが何と0本。自分の印象以上に、実は恐ろしい完勝劇だった。



水曜にアップされた布啓一郎ユースダイレクターへのインタビュー記事(その1 その2)に面白い言葉があった。曰く、日本ではパス&ムーブが未だ習慣化されてなく、その原因として「日本は海外よりもプレッシャーが弱いせいで、パス&ムーブをする『必要がない』から」だという。パス&ムーブを磨くために必要なのは、その必要性に駆られるほどの『強烈なプレッシャー・球際の厳しさ』であろうという見解。

この見解は現状把握も含めて恐らく正解だろう。実際にいつぞやのサッカークリニックで、スペインだか何だかの育成関係のエライ人が(うろ覚え過ぎて逆に凄いが)日本のユース年代の試合を数試合観戦した感想として、プレッシャー・球際の厳しさが全く足りてないということを指摘していた。弱く、緩い中では世界と戦う選手は育成されないと。しかしその中で唯一及第点として評価されていたのがFC東京U-18だった。倉又イズムのあの強烈な守備意識がFC東京U-18としての「売り」でもあるが、このレベルが及第点、ベースとして必要なレベルだと指摘するエライ人もいる。

このインタビュー記事を読んだときに、真っ先に日曜日のこの試合が思い浮かんだ。東京の対人守備は、深く、厳しく、それが試合を通して落ちることなく徹底されている。その厳しさにマリノスYは音を上げて何も出来ず、といった構図に結局収まった。試合後に行われたB戦ではその傾向が更に顕著になり、ボールを捌くべきであろう12後藤が厳しさに潰されまくって結局何も「闘えなかった」シーンは、このインタビュー記事とどこか重なる。
倉又監督は常に「守備の出来ないヤツはプロになれない」と、全選手に守備をさせることを徹底してきたが、それは間違っていないんだと改めて確信した。守備の出来ない選手、闘えない選手は我々の理想とするプロ選手ではない。守備において我々はただ、世界と戦うために最低限必要であるものを備えているに過ぎないのだと。さらに言えば、我々は徹底して守備はするかもしれないが、それがあくまでベースとして、その土台の上で強烈な『個性』が攻撃で輝いていることを、この連覇で証明して見せたとも。

そして今回その壁にぶつかったマリノスY。しかし今回の負けが彼らをまた強くするのも間違いない。プリンスでダービーに勝ったヴェルディユースは、那須の準決勝でFC東京U-18にPKでリベンジしてみせた。マリノスもまた、この先、全国の大きい舞台で再び相まみえるのだろう。8関原のキレ、9榎本の得点への感覚、この試合で一番目立った11天野、そして何より10小野悠斗。その時の成長した彼らと対峙するのは、相手として恐ろしくもあり、非常に楽しみでもある。今年はまだ、折り返したばかりだ。


プリンスが終わり、いよいよクラ選の夏が始まる。FC東京U-18は一体どんな戦いを見せてくれるだろうか?
クラ選のレギュレーションは厳しい。予選グループが6つあるので、予選を勝ち抜くチームは1位6チームと「2位チームの上位2つ」となる。狭い門であり、得失点差が複雑に絡み合う。
FC東京U-18は7/25の第1戦がガンバY、7/26の第2戦が福岡Y、そして第3戦が関東プリンス2位の三菱養和と対戦することになった。当然、死のグループ。2/6のみの2位抜けに必要な「得失点差」がとても稼げる様なグループではない。故にチャンスはほぼ「1位抜けしかない」と予想される。昨年の予選リーグに比べたら強烈に厳しいグループに入ってしまった。
難しいなぁと多少弱気になっていた自分だが、水曜日にナビスコ準決勝進出を「決めてくれた」おかげで水曜は瑞穂ではなくJヴィレッジに行くことにした。そうとなったら途端に「予選通過してくれ!」「オレ応援するから準々決勝ガンバレ」と妙に熱が入ってきた。何とも現金な自分である。我らが東京が水曜の準々決勝に登場してくれないと、色々と「行く気」に関わるので(行くためには「前日からの準備」が必要なのですよ)東京超バモス!と気持ちがモリモリと盛り上がってきた次第。


さァ、夏ですよ!