自分の人生を助けてくれる「作品」は、

いっぱしのマンガ読みを自負していると、時々聞かれる「一番好きな漫画は何ですか?」と言う質問。もちろん「一つなんて選べないよ」となるわけですが、マンガの技術的だけでなく、自分の人生を助けられたといった面で選ぶと、自分は『ピンポン』を選びます。
天才が自分のフィールドにふさわしい領域で、天才であるがままに作られた作品っていうのは、大体は凡人な自分には理解することが出来なくて。ただそういった天才も、たまに高座から一般の階層にまで下りてきて、その舞台で圧倒的な実力を発揮してしまう、そんな作品も天才は時々出してくれるわけです。そんな作品が自分は好きで。自分の階層にまで下りてきてくれるから、分かりやすく才能だとかセンスだとかに驚けて、それが素直にスゴイと楽しめてしまえるわけです。自分の住んでいる階層が、下りてきてくれた天才によって色鮮やかにしてくれる感じ。例えば椎名林檎とかはそういうタイプのアーティストという捉え方をしていて、東京事変の1stアルバムとかは自分はその匂いがして好きなんです。
松本大洋って、天才なんですよ。「何故か?」という記述はしないで、これはもう前提として話しますけど。間違いなく天才なんですね。そして松本大洋における「一般階層の作品」っていうのがピンポンだと思ってます。
松本大洋って、いわゆるあの独特のペンタッチがあるから、それだけで取っ付かない取っつけない人って結構いると思います。けどピンポンを読んでみれば分かると思うけど、話の骨格はもう非常に純粋にスポ根であり、「ヒーロー物」の話なわけです。しかし、そんなマンガとしては極めて普通な設定から抑えきれないほどににじみ出てくるのは、その作者の天才ぶり。独特のセリフ回しから明確に示される人間模様と心情。マンガという自由性から切り取られたダイナミックなデフォルメと構図。単純に手に汗握るアツい脚本。週刊連載というテンポ計算まで含めた完璧ぶりはまさに天才そのものな訳です。
それが集結しきった、ペコ×ドラゴンの準決勝。土台の積み重ねの完璧さとそれを全て回収しきって更に昇華させるカタルシス。ココでいつも目を潤ませ、そして心がスッキリします。
この週末は自分でも情けない感じに気持ちが落ち込んだけど、週末が明けたら何となく特に意識することもなく、自然とピンポンを手に取り読み始めて、結果的に助かった自分がいたことには自分でも驚きました。自分にとってピンポンという作品がどういったものなのかが気づけて、それでまた嬉しくなった。
今週、頑張ります。

ピンポン (1) (Big spirits comics special)

ピンポン (1) (Big spirits comics special)