橋本拳人たまんねぇおじさんは悩んでいる、けんてぃのラスポジを

U-15深川時代は、トップ下。10番を背負い、攻撃を牽引し全国を制した。
U-18時代は、ボランチ。守備で強度を見せ、足を伸ばしてボールを何度と奪ってみせた。
その後トップ昇格を果たし、経験を積むためにロアッソ熊本へレンタル移籍。
熊本時代は、CB。高さがそこまであるわけでは無かったが、弾き返す強さでチームに貢献。出場機会を重ねた。
FC東京に戻ってきて、J1デビュー戦は左SH。あの鮮やかなつま先ゴールは今さら説明の必要無し。
その後マッシモの下で、セントラルMFとして開花。攻守に関わる大活躍でJ1最高位に大きく貢献した。
そして今年。キャンプでは新たに右SBをやり始めており(イマココ)

…書き出してみたら、思った以上に長くなってしまった。ただ経歴を省略するわけにもいかず、これが真実であるのならばこう書くしか無い。そして書き出して改めて眺めてみると…果たして橋本拳人はどんなサッカー選手なのか、そして、けんてぃ(@岩波拓也)はどんなサッカー選手になっていくのか、何とも悩ましい。


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これだけの経歴故に、各人が抱く拳人のイメージは、出会ったタイミングによってその印象はガラリと違うだろう。

個人的な拳人のイメージとしては、U-18時代のボランチでの姿が一番印象深い。

高2の時に当時の倉又寿雄監督にボランチ適性を見い出され、先輩の佐々木陽次(現:徳島所属)とボランチコンビを組むことに。奔放にボールと戯れるヨウジが攻撃を司り、方や守備ではボールを刈り取る拳人が活躍し、また共に倉又イズムの下でとにかく走り続けて強度を担保した姿は本当に美しかった。

能力的に拳人を観たときに、まず特筆すべきはそのフィジカルだろう。ともすればヒョロっとした見た目のようにも映るが、その中身は骨の太さから筋肉の密度から他の選手とは「詰まり方」がまるで違う。

守備では米本の様に「足が伸びる」奪い方をするが、米本との違いは、その伸ばした先の末端にかけられるパワーの違いにある。たとえ伸びて届いても、不調時の米本だと末端にかけるパワーには限界があり、ボールに触れても奪いきれない場面が多かった。対して、拳人の場合だとその末端で強度を持たせられる。球際勝負になっても体制有利な相手ですら上回れる。これはまさに持って生まれたもの。能力がスピード系に寄っている武藤嘉紀とは別種ながらも、等しくフィジカルエリートであることには間違いない。

他方で、攻撃的センスがあるかと言えば、そういう印象は個人的には正直無い。ボールタッチにオンリーなものがあるわけではないし、正確な止め蹴り技術や、特別なパスコースが見える能力も取り立てて感じない。攻撃的なスキルを求められるポジションでは厳しいのでは…というのが自分の見立てになる。

だから高2の当時、彼が守備的なボランチとして活躍する姿を見たときには「倉又監督はいいポジションを彼に与えたなぁ」と感心した記憶が強い。ヨウジとは強みで互いに補完し合うことで、彼自身の名声も守備能力によって高まっていくことになる。ゼロックス杯でのNEXT GENERATION MATCHでJリーグ選抜として選ばれた時には「いぶし銀の守備的ボランチ」と形容された程だ。ゆえに個人的に印象が強いのは、彼のボランチでの姿となる。

だからこそ、J1デビュー戦となった対松本山雅戦での左SH起用は心底驚いたし、あまりに鮮やかなあの初ゴールでは思わずのけぞった。どういう意図でマッシモがあの起用になったのかも、拳人がそれに応えたあの結果も、自分のこれまでの「先入観」では到底導き出せるものではなかった。

その際に考えを改めたのは、全般的な攻撃的スキルへの評価は変わらないものの、得点を獲るという限定的な能力に関しては、長所として高水準にあるのでは?ということ。スキルが高くないのは、彼の得点パターンである「まずファーストタッチでブレる」ことからも未だ明らかだが、それを補うほどのシュート精度・威力の高さもまた、明らかだということ。加えて、彼の得点能力の最たる部分である「点の取れる位置にいること」それを嗅ぎわける嗅覚があるのだろう。ただし、ボールの置く位置がブレようとも、それをリカバリしてねじ伏せられるその根拠は「フィジカル」による姿勢制御力のおかげだし、点の取れる位置に入っていける馬力もまた、「フィジカル」の賜物だと考える。

その後の活躍ぶりは言うに及ばず。4-3-1-2のマッシモ布陣における、最重要な「3センター」のポジションを彼は堂々と掴んだ。守備に長所を発揮しつつ、そのフィジカルをもって「点の取れる位置」に入っていける拳人にとっては、セントラルMFは天職。まさに「10番」の働きを果たしたと言える。
こうして迎える勝負の2016シーズン。キャンプ地から漏れ聞く情報は「橋本拳人、SBに挑戦!」WHY!!城福浩はアタマおかしいんじゃないか!!出川哲郎状態もしくは厚切りジェイソン状態である。


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明日からいよいよACLが開幕する。FC東京としてはACL、J1、J3という過酷なシーズンの幕開けとなるが、引き続き心許ないのはDFの陣容となる。

太田宏介が抜けた代わりに駒野友一を獲得したのは、打ち手としては現状の日本で考えられる最高形だろう。とは言え、彼がACLとJ1とでフル出場を続けられるとは考えにくいし、それは鉄人・徳永悠平と言えども同様だ。丸山祐市が左SBにスライドする形も考えられるが、CBも等しく層が薄い中では、帯に襷に感は拭えない。

室屋成が怪我で離脱してしまった今、拳人がSBのアタマ数として数えられているのは事実だろう。また聞くところによれば、拳人SBの評判は悪くないらしい。

言われてみれば前述の、自分が想定する拳人の強みとも合致する。守備の強さは言わずもがな。攻撃スキルもSBであれば求められるのは限定的で済む。ボランチであれば蹴れるキックの種類が10は必要であるとすれば、SBは4つ程度で済むだろう。彼の得点能力が発揮しづらい懸念はあるが、トータルで見ればメリットが上回る。伝え聞いた当初は取り乱したが、よくよく考えれば抜擢の理屈は合ってしまうのである。


こうして、彼の「ラスポジ」は本当にSBになっていって「しまう」のだろうか。

何故ならば、今年、恐らく拳人はSBである程度の成果が出てしまう。

FC東京としては、通常のSBスタメンはACLプレーオフの様に左SB駒野・右SB徳永となるだろうが、先日友人が予想していた、対ACL用パワー強化型守備布陣としての「左SB徳永・右SB拳人」は、なるほどと膝を打った。途中からか、もしくはスタートからか。この予想の説得力はかなり高い。腹落ちした使われ方で、拳人が強みを活かした活躍をして見せれば。これはACLでのFC東京の戦いぶりが楽しみになる妄想である。

また、今年はリオ五輪もある。U-23日本代表にとってSBは懸念のポジションであり、かつ室屋の復調次第な状況。これまで(何故か)選考に引っかかってこなかった拳人であろうと、もしSBでの活躍があれば一気に食い込む可能性はゼロではない。またオーバーエイジを抜いた15人という希少枠の中で、彼のポリバレント性に魅力を感じれなかったらそれは嘘だ。

それらを考えると、拳人にとっては今年のSB起用想定は「大チャンス」だ。オリンピックに選ばれるかどうかで、今後の人生も大きく変わってくる。その可能性が、SB起用によって一気に高まる。これを逃す手は無いだろう。

こうして、彼の「ラスポジ」は本当にSBになっていって「しまう」のだろうか。

理屈では分かってしまうのだが、それでも吹っ切れられない自分がまだいる。先入観とは、かくも実体を邪魔する存在だ。しかも、じゃあラスポジの代案は?となっても、素直に守備的ボランチを差し出すのも何か違う気がしてしまっている。最適な案も思い浮かばなければ、現実的な未来予測も見えていない。

彼のラスポジは果たしてどこになるのだろう?


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…と、ここまで読んでいただいたのに恐縮ではあるが、このブログエントリには、その結論が無い。ただただ、自分の感情的な悩みをぶつけただけでこのまま終了する。しかも結論は恐らく、今シーズンに出る事はないだろう。拳人はこのままある程度SBとして結果を残してしまう。リオ五輪でもSBとして拳人は活躍してしまう。イレギュラーに適応する形でSBとして戦った2016シーズンを終えて、世間一般でSB拳人としてのイメージが増した上で、じゃあ2017シーズンのFC東京の戦い方は?陣容は?環境は?その中で拳人はどのポジションで戦うのか?当然だが、現段階ではあまりにも未知数だ。となると、この結論は早くとも来シーズン以降にならないと見えてこない。

橋本拳人の成長は、昨年度の大きなトピックだった。彼の「成長加速度」に振り切られない様にとしがみ付く楽しみたるや、本当にたまんなかった!そんな「橋本拳人たまんねえおじさん」は、今年も彼の衰えぬ加速度を確信しながらも、そのベクトルが指し示す方向に悶々とする日々を、少なくとも1年は覚悟しなければならないな…と腹をくくった、そんな2016シーズン開幕前夜なのである。