かわさーより先に始めちゃおうぜ「湘南ベルマーレU-23」

クラブユース選手権。Jユースカップ湘南ベルマーレユースの躍進は、2017シーズン国内アカデミー界隈のトピックだった。

恐らく多くの湘南サポが(そして対戦相手として戦った我々含めて、全国のアカデミー好きが)彼らの活躍を活字でもしくは直接足を運んで受け止め、心を動かされたはず。

そんな今だからこそ、湘南サポは本気出して「湘南ベルマーレU-23」を検討し始めるべきだろう。これまで考えてこなかったであろうU-23創設を、他人事ではなく「湘南ゴト」として。

湘南ベルマーレ Advent Calendar 2017。今回は湘南ベルマーレU-23を考えてみる、いわば取説的なエントリ。

 

U-23実施のためにクラブが用意しなければならないものは、シンプルに言えば「カネ」と「場所」だ。

パッと見、ハードルが高く感じるのは「カネ」の部分だろう。

しかし、思ったほど何とかなるのでは?というのが、以前個人的に行ったどんぶり勘定で受けた印象だ。

セカンドチームのJ3参戦を狙っていたサガン鳥栖が、説明会でサポーター向けに発言されたものらしい。J3クラブの平均財政規模が3億円弱なことを考えれば、運営費1.4億円はある程度妥当な目安かなと思う。

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FC東京U-23で言えば、2年目のシーズンということもあり観客動員数も前年平均2,797人に対して、今年は平均1,933人と減少する結果となった。

それでも客単価をざっくりチケット最安値の1,500円とすれば、入場料収入は約4,600万円とそこそこの額。これは2016年のJ3で言うと大分、長野、栃木に次ぐ4番目の金額となる。

U-23の年間運営費を、鳥栖が試算した約1.5億で鵜呑みにすれば、この入場料収入で年間運営費の約1/3を賄える計算だ。

加えて、何よりDAZNマネーである。Jリーグから各クラブに支払われる均等分配金は、DAZNによる放映権料増により倍近い増額となった。

J1 1.8億(2016) → 3.5億(2017)
J2 7000万(2016) → 1.5億(2017)
J3 1500万(2016) → 3000万(2017)

2017年シーズンは各クラブ共に、このポッと湧いた「あぶく銭」をどう活用するかに四苦八苦したシーズンだった。あるクラブは施設環境に堅実に投資し、またあるクラブはただ自転車操業を助けるだけに終わり。またまたあるクラブは豪勢な選手補強に費やしたものの結局リーグ13位に着地し。それらが「活きたカネ」となったのかは、各クラブで大きく異なるだろう。

U-23創設も当然、使途のひとつとして有力な一手となる。単純計算で言えば、J1分配金の増額分だけでU-23の運営は可能だし、J2分配金の増額分+入場料収入でトントン程度は見込める。

2016年シーズン中のざっくり試算でも、既に費用的なリスクは「思ったほどでもないかもしれない」だったのが、2017シーズンになってDAZNマネーの後押しまで加わった。カネの面のハードルはより下がり、大きな問題ではなくなってきたと言えるだろう。

 

方や、それ以上にハードルが高く問題なのが実は「場所」についてだ。J3ホームゲーム全16試合を実施できるスタジアムの確保。こればかりは土地的・政治的事情も絡まり、カネだけで解決できるものではないので、より質が悪い。

ガンバ・セレッソはそれぞれ吹田にキンチョウと、自前もしくはそれに準ずる指定管理制度を受けるスタジアムを保有しているので、会場確保に関しては大きな問題は無い。

方や、自前スタを持たないFC東京はこの点で非常に苦労している。東京都内でFC東京が有料公式戦を行えるスタジアムは駒沢陸上・夢の島・西が丘と限られてしまい、逆に味スタでは大きすぎるキャパを持て余してしまう(こう言うとヴェルディサポに怒られてしまいそうだが…)。加えてこれらの会場は関東大学サッカーリーグなど、他Div.・他競技でも当然使われるスタジアムであり、毎年都度行わねばならない会場確保は容易ではない。

そんな東京都と同程度もしくはそれ以上に困難なのが、何を隠そう神奈川県となる。

神奈川にはそもそもとしてJクラブが6チームもある。つまり、その分だけスタジアム利用も既にされているということ。マトモに残っているのは、恐らく保土ヶ谷公園サッカー場のみ。もちろん関東大学サッカーリーグ主力会場のひとつだ。神奈川が東京に比べて、お金だけではどうしようもないレベルで、場所確保の難易度が高いのは明らかだ。

 


…と、これまでの前提を基に、神奈川県JクラブのU-23創設の可能性を考える。

マリノスは歴史も予算規模もアカデミーの充実ぶりも、本来は一番U-23に相応しいクラブ。だがとにかく場所が無い。会場としてあの要塞・横国を使うのか?という問題以前に、そもそもマリノスタウンを手放したことでトップチームの練習環境すら定まらない状況だ。知り合いサポに聞いても「U-23の試合場所の前に、まずはトップの練習場所が最優先」と言われてしまえば元も子もない。

小野瀬・高丘など要所で優秀な選手を輩出し、U-15も含めて安定的な強さを誇る横浜FCも、アカデミーの充実ぶりに反して場所に困るクラブの1つだ。三ツ沢は既にYSCC(とマリノス)との共同利用。加えて関東大学サッカーリーグでも頻繁に使われる人気会場だ。特にYS横浜が同カテゴリのJ3である以上、共用はほぼ不可能だ。

 

本来であれば、神奈川で一番U-23創設に近いのは川崎フロンターレとなるだろう。

トップチームは安定的に上位の成績を収め、17年のリーグ優勝によって総額20億円以上をゲット。子供が通いやすい好立地もあり、近年では有力選手がアカデミーに集まり、U-18も2年連続クラ選ベスト4と好成績を残している。

しかし、ここでもネックになるのはスタジアムだ。等々力競技場は公益財団法人が指定管理者となっており、クラブは等々力をまだ完全には握り切れていない。加えて、メインスタンドに続く第2期スタジアム改修が、現状まだ基本方針の策定中。どこかのタイミングで発生する改修期間中にJ1とJ3を並行稼働出来るかは疑問が残る。

さて、そうなると残すは湘南ベルマーレのみとなるわけである。御存知の通り、ある程度の本気度で新スタジアム建設を検討している湘南ベルマーレ。「U-23創設」の現実感を、他クラブに比べて果たしてどう感じただろうか。

 

FC東京:45億 ガンバ:51億 セレッソ:30億 鳥栖:28億 湘南:16億

2016年度のクラブ営業収益で並べてみれば、確かに湘南は鳥栖よりも劣る。U-23運営費とされる1.4億も、営業収益に占める割合の大きさによって「たかが」とも「されど」とも見え方は変わってくるだろう。

しかし、そうして得られる成果は「11人×90分×32試合=31680分のJ3リーグ経験」だ。もしくは曺貴裁監督の講義のコマ数が増える、という考え方も出来るかもしれない。

舐めんなよ、ガキのくせに、こんな奴らに負けてたまるか。J3クラブからU-23に向けては、選手から相手サポから会場の空気感から、ありとあらゆる感情を込めて選手にぶつけられる。しかしこれら全ての感情が、我々にとっては格好の養分となって選手の血肉へと消化されていくのである。

U-23興行単体で収支をトントンにせねばとなると、確かに難しさはある。ただ「有力選手を獲得する」のではなく「育成しなければならない」クラブにとっては、この場この経験は多少のお金を払っても取りに行くべきものではないだろうか。

 

他方で例えば、湘南ベルマーレはクラブとして、今後どう予算規模を拡大していくか?という話もある。

平塚競技場のキャパ15,690人に対して、2015年16年と共に収容率は80%付近と、Jクラブ全体で2位のパンパンぶり。ある程度キャパの限界まで集客が叶っている状況は、見方を変えれば予算規模が既に頭打ち状態とも言える。更なる規模拡大となれば、打ち手は「客単価を上げる」か「興行回数を増やす」しか無い。U-23はその後者に当てはまる施策とも成り得る。

様々な観点から考えても、湘南ベルマーレ「だからこそ」、U-23創設は具体的に検討すべき施策なのだ。

そうとなれば…じゃあどうせだったら「かわさーよりも先に始めちゃおうぜ」。

 

湘南サポーターにとっては、U-23はこれまであまり考えたことも無かった話かもしれない。それは身の丈をしっかり理解しているからでもあり、99年の記憶が邪魔してくる部分もあるだろう。

ただ、せっかくU-18がこうも躍進してくれた。チョウさんのブランド化によって有力な新人選手がスカウトで獲得しやすくなった。そんな彼らを受け入れ、経験を積ませる器として、「湘南ベルマーレU-23」という夢を考え始めるべきタイミングではないだろうか。

野球で一流の打者になる為にはバットを振り続けるしか無いし、一流のピアノ弾きになりたいのであればピアノを引き続けるしか無い。試合で活躍する選手へと成長したいのであれば、試合に出続けるしか無いのである。

幸いにも、FC東京ガンバ大阪セレッソ大阪と「U-23人柱」は揃っている。その実験は現在進行系で来季以降も行われていく。

そんな人柱の浮き沈みを片目でニュースとして覗きつつ、「じゃあもし、湘南ベルマーレU-23があれば…」「神谷優太をレンタルではなくU-23で、手元で育成できていたかもしれない…」「福島ユナイテッドFC vs 湘南ベルマーレU-23J3リーグ公式戦が…」

そんな思考実験だけでも、U-23実現に向けた大きな一歩と言えるはずだ。