短期間で監督を解任する事は悪ではない FC東京の来季監督を考える

組織の規模は、トップに立つ人間の器の大きさ以上には決してならない。ビジネス業界では通説の様に言われていることらしいが、ポンコツな自分であろうとその説得力は何となく分かる。上長の能力によって、下位メンバーのパフォーマンスは著しく変わってくるものだし、そのピラミッドが積もり積もって…やはり社長の能力以上に会社が成長していくことは決して無いのだと思う。

そんな不慣れな例えを持ち出すまでも無く、サッカーにおいても監督選びは重要だ。監督の器以上に、チームが強くなる事は決して無いだろう。
そして、FC東京の監督は今後どうするべきか?つまりは、来季以降も篠田トーキョーで行くのか?という話である。


浦和相手に3度戦って全て惨敗したのは、日々の積み上げの差にあることは明らかだった。説明される必要も無く、選手もクラブもサポも、嫌と言うほどに現実にぶっ刺された。だから実感を基に、誰もが「創(はじ)めるべき」だと今は理解している。しかし、それは果たして何を?誰と?そこのプランは未だ曖昧な状態だ。

情けない敗戦を受けて、激情に駆られて無思考に「篠田監督解任」を唱えるのはやり過ぎだろう。浦和戦から学んだ事を用いるのであれば、短期間で監督を変える事の愚は間違いない。特に今年は、風間監督就任5年目の川崎フロンターレが好成績を残している事も、愚の証明をアシストしている。

しかし、だからと言って「篠田監督の在任期間」だけをみて「留任」を唱えるのも、それはそれで無思考でしかない、と自分は思う。


つまり、重要なのは「短期間で監督を解任」する事が悪なのではなく、「短期間で解任しなければいけない程度の監督を選任」する事が悪なのだ。

これは字面としては近いようでいて、その意味は大きく異なる。浦和や川崎は、ミシャや風間八宏が「長期間託すべき監督だった」から託されるべきなのであって、託すべきでない監督を「分からないから」「まだ期間も短いから」という曖昧な理由程度で、重要な役職を任せる事は決してあってはならない。極端な例を出せば、今季の名古屋グランパスでその事を我々は学んだはずだ。

まだ篠田監督は就任したばかりではないか?それだけでは何の理由にもなっていないし、その際に浦和や川崎の例を持ち出すのも、根本的に論がズレている。

短期間で監督を交代する事の何が悪い?その程度の監督を無駄に据えて、我慢して、もしくは程度の判断が出来ないからって、時間を浪費し続ける事の方がよっぽど悪だ。

ただでさえ、大した筋も方針も無いままに選ばれた監督である。J1残留というミッションを達成した今、次のミッションに彼がふさわしいかどうかは全くの別の話だ。

だからこそ、まずは監督の器を見極める事が重要なのである。篠田監督は、来季以降も託すべき監督なのかどうかを。

 

 

…と、ここまでを書き切った上で、ようやく「じゃあ篠田監督はどうなのか?」が自分の中で始められる。とは言え、正直自分の中でも篠田監督の評価がまだ固まっていない部分が非常に大きい。


以前にも書いたが、篠田監督にノレない自分がいるのは確かだ。ただそれは、クラブが筋を違えてきたために生じた、経緯的な違和感によるものが大きい。この部分に引っ張られることでネガティブなイメージも付きまとうが、本来それは篠田監督自身のポテンシャルの問題とは別の話となる。

方や、篠田監督によって鮮やかに成し遂げられたJ1残留。これにはもう感謝しかない。だから自分としても篠田監督は感情的には(ここまでこれだけ書いておきながら)ポジティブな部分もあったりもする。これは恐らくどの東京サポとしてもそうであろう。

それに加えて、篠田監督には池田誠剛の置き土産が課せられたという実情もある。誠剛タイムに苦しめられた状況下での指揮が、果たして篠田監督を評価するのに正しいプレパラートなのか?は非常に疑わしい。

そんなポジティブとネガティブと池田誠剛がベッチョベチョに混ざりあったこの状況が、篠田善之の監督としての能力を測る事を難しくしているから非常に困る。


篠田監督就任後のJ1リーグ2ndステージ・ルヴァン杯の公式戦成績は、13試合で6勝4敗3分20得点19失点。無得点試合が無いのを成果と取るか、失点数の多さを問題と取るか。少なくともJ1残留というミッション以上の成績ではあったと思うし、これが判断の「筋」として強力なのは間違いない。

ただ自分の嗜好だけで言えば、スタメン構成的にバランスが取れない監督は正直好みではない。梶山・草民・河野・翔哉という攻撃的な選手のみを並べた中盤構成は、自分からすれば狂気じみていると感じるし、「その割に守れる」わけでもなければ「それだけ並べただけあって点が取れている」わけでもない。この路線の先に優勝するチームの姿は、今の自分には見えてこない。

方や例えば「新サイクル構築開始による土台作り」もしくは「サイクル移行の過渡期」とすれば、篠田監督は悪くは無いかもしれない。これまで長期間コーチとして支えてきてくれた事で、選手との信頼関係も望める。U-23組を上手く吸い上げながら、クラブ全体として引き続き「立て直し」を進めていくのも、それも1つの選択肢だろう。


結局、色々と考えてみても判断がつかないのは、クラブが長期的な方針を打ち出せていないからに尽きる。今後数年をかけて、こんな新しいサイクル構築をもって優勝を狙います。そのために2017シーズンはこういう方針となります。それに篠田監督が相応しいかどうか。そういう話が一切出来ない。やり様がない。

城福解任、篠田就任でJ1残留に舵を切った時点で、これまで積み重ねてきたサイクルは完全に終了した。そしてJ1残留を達成した今、FC東京に課されているミッションは何も無い。「とりあえず目の前のカップ戦を狙う」なんて、場繋ぎ程度にしかならない。

新監督発表までは行えなくても、篠田監督の続投or終了が今シーズン中に発表される可能性は十分ある。となれば、それは残り2週間足らずの話だ。その際に、今後の新サイクルに関するヴィジョンがセットで表明されることは個人的にはマストだと思う。

もしこのまま1月の新体制発表まで明かされないのだとしたら、これまで書き連ねた通りに篠田監督の続投or終了の是非を判断する事すらできない。そしてサポは11月からの長いオフを、夢も希望も未来も無いままに過ごさねばならなくなる。そんな状況で、例えばSOCIO継続のお願いをするのであれば、さすがにエンタメ商売を舐めているとしか言い様がない。夢も表明されていない未来に、カネなど払える訳がない。

 

これから始まるのはFC東京の新しいサイクルだ。そしてそのサイクルが恐らく、2020の姿を決める事にもなるだろう。その時に、FC東京が如何程のプレゼンスを世界に示す事が出来るのか?そのための猶予は3シーズンしか無い。そんな、重要なスタートが切られないまま今に至っている。

7/26の篠田監督就任から、もうすぐ3ヶ月。ギリギリながらもプランを作成する時間はあったと思う。

トップに立つ人間の器。問われているのは、何も監督だけではないということである。